Sightsong

自縄自縛日記

アショーカ・K・バンカー『Gods of War』

2011-08-04 00:33:06 | 南アジア

去年ムンバイだかデリーだかの空港の売店で買った小説、アショーカ・K・バンカー(アショーカ・K・バーンカル、Ashok K. Banker)の『Gods of War』(2009年)を読む。ヒンドゥーの神が登場するSFだという点がウリのようだ。ムンバイの作家である。

ある日突然、空に宇宙船のような物体が現れる。人々はそれを「宝石(Jewel)」と呼んだ。そこから、黒い煙のようなものが発生し、全地球を覆いながら地面へと迫る。仔細に見ると昆虫のような物体の集合体、しかしそれらは完璧に統制されて動いた。黒煙が体内に入った人々は、全員広場に集まり、胡坐をかいて座り、眼は瞬きひとつせず空中を見つめ、唸り声を同じトーンで発し続ける。ムンバイでは10歳の少年サントシュが、バーミンガムではムスリムのセーリムが、ニュージャージー州では愛国主義的なレズビアンのルースが、東京では漫画家の双子アケチとヨシが、時間が停止した街を彷徨う。彼ら5人はサンプル的に選ばれた存在だった。そしてそれぞれの前に、ヒンドゥーの神ガネーシャが現れる。

世界は、創造者によって滅ぼされようとしていた。ガネーシャは5人を促し、自分自身と世界を救うために、鼻が曲がりそうに臭い巨大な兎に乗せて、「どこでもない場所」に導く。そこはシリコンチップでできた人工空間だった。さらに「庭」へと導くガネーシャ、しかし5人の背後で、ガネーシャは何者かの手によって斬られ、ヒンドゥー教徒の少年サントシュはパニックに陥る。乱暴な追手は、未来の「New New York」の警察だと名乗る。敵か味方かわからない警察、その前に、さらなる力が襲いかかってくる。

唐突に、彼ら5人はもとの世界に戻る。しかしまた、サントシュは、大勢の人びとが大いなる力によって生贄として殺され、奴隷としてかき集められるのを目にする。泣き叫ぶサントシュ、その前には、お前の役割を何と心得るのかと訊く者が出現する。ガネーシャの父シヴァであった。

―――と、この小説は次の展開をほのめかしながら終わるのだった。おいおい!

どこかから借りてきたようなイメージが詰め込まれ、斬新なのか陳腐なのか、知的なのか幼稚なのかはっきりしない。中でも、つっかかるように質問をぶつけてくる5人にやさしく接し、鼻の向きで感情を表現し、時にはテロとの闘いを標榜する米国を批判したりもするガネーシャの神らしからぬ人間くささには笑ってしまう。国籍も宗教もそれぞれ異なる5人のサンプリング基準からして人間的なのだ。

作者は日本通でもあるようで、三池崇史、オウム真理教=アレフ、小池一夫『子連れ狼』、茨城県の牛久大仏、愛染明王などというタームが出てくるたびに奇妙な思いにとらわれる。そんなことを言っても、日本を知らない読者はポカンとするだけだと思うぞ。日本のヨシが「畜生!」と叫び、その後に、これはもともと「動物」の意味であるが「fuck」の意味に転じたのだと蘊蓄を傾けたりもする。

ヘンに面白かったが、バンカーは多作のようでもあり、いつの日か誰かが邦訳を出してくれるのを待つことにする。『夢をかなえるゾウ』が売れたことでもあり(関係ないか)、この珍妙なSFシリーズはうまくいけば当たるのではないか。

※後日、「アショーク・K・バーンカル」ではなく、「アショーカ・K・バンカー」名での邦訳があることに気がついた。

●参照
ガネーシャ(1)
ガネーシャ(2) ククリット邸にて


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