Sightsong

自縄自縛日記

スリランカの映像(6) コンラッド・ルークス『チャパクァ』

2008-02-18 22:14:11 | 南アジア


Tシャツはもうぼろぼろ

ざっくり言うと、どうかしている。1966年、ドラッグ・ムービーの走りにして傑作、かどうかわからない。しかし、ウィリアム・バロウズ、アレン・ギンズバーグ、スワミ・サッチナンダ、オルダス・ハクスレー、オーネット・コールマン、ラヴィ・シャンカール、フィリップ・グラス、ロバート・フランクなど、製作に関わった面々を見れば、尋常でないエネルギーが肩透かしし続けるような映画である。

1999年に、六本木でリバイバル上映があったときは大事件だった。そのあと、夢中になって米国版ヴィデオも入手してしまった。イエメンでハイになる植物カートを体験し、バロウズの『麻薬書簡』、ハクスレーの『知覚の扉』、それからカートの書籍(ここでも、バロウズがカートについて述べている)などを面白く読んでいたころだったから、自分にとっても外堀は埋められていたわけだ。

もともとオーネット・コールマンがサントラを依頼されながら没になり、そのアルバム『チャパカ組曲』(Columbia、1965年)でのみ、その名前を知っていた。そのアルバムでさえ、フランスでCDが再発されたときはレコード屋に走った(いつだったか?)。映画の音楽は、フィリップ・グラス監修のもと、ラヴィ・シャンカールが手がけている。ラヴィは演奏シーンがあるし、オーネットも、主人公がサボテンの麻薬ペヨーテでラリっている記憶シーンで横に座っている。


オーネット(右)

『チャパカ組曲』

ラヴィ・シャンカール

主人公は14歳で酒を覚え、15歳でアル中になり、その後マリワナ、ハッシッシ、LSD、ペヨーテなどと廃人への道を進み、そこで入院した病院の医師がジャン・ルイ・バロー、院長がウィリアム・バロウズという設定である。最初と最後にいきさつの説明があるほかは、ほとんどドラッグによる妄想の世界である。(たぶん)診断の一環として、バローが主人公にあれこれと訊く。それによると、チャパクァとはNY近くの小さな街で、「インディアン」が多く、水が流れ出る地という意味だという(じつはビル・クリントンの出身地)。なお、ルークスの次作にして最終作、大いなる勘違いの駄作『シッダールタ』(1972年)の原作はヘルマン・ヘッセだが、映画の公開前、そこに出てくる「命の川」にちなんで、リヴァー・フェニックスは命名されたのだという(金原由佳、映画パンフ)。

妄想シーンも含め、写真家ロバート・フランクによる撮影テクニックは完璧である。今回再見して、一瞬、鏡にフランク自らの姿が映っていることを発見した。


ロバート・フランクがアリかなにかを抱えている

話がそれたが、妄想シーンの最後のほうに、スリランカの映像が出てくる(もちろんスリランカだけでなく、インド、NY、パリ、カイロなども現れる)。まず仏教遺産のあるポロンナルワ。それからインドから仏陀が飛来し足跡を残し、それは同時にアダムの足跡でもある、仏教徒・キリスト教徒・イスラム教徒の聖地スリー・パーダ(ヨーロッパ名はアダムス・ピーク)。ルークスもフランクも、あのしんどい山頂まで、機材を抱えて登ったのだろうか。ここらにも、映画を観る直前に行ったばかりだったので、映画館で興奮した(笑)。60年代にはもう階段が出来ていただろうが、13世紀には鎖だったらしい。階段でもときどき死者が出るのに、冗談ではない。

「ところでこの島には一高山がそびえているが、非常に峻険な岩山だから、以下に述べるような方法がなければ、誰もこれに登ることはできない。その登山手段とはこうである。この山には多数の鉄鎖がたらされており、その装置が非常に巧みにできているものだから、人々はこの鉄鎖を伝って始めて安全に頂上に登ることができるのである。ところでこの山頂には、我々の祖先たるアダムの墓があるといわれている。より適切な言い方をするならば、サラセン人たちはそれをアダムの墓と称し、偶像教徒たちはそれをソガモニ・ボルカン(※仏陀)の墓だと主張しているのである。」
マルコ・ポーロ『東方見聞録』(東洋文庫)


ポロンナルワの仏像

スリー・パーダの頂上(たぶん来光を眺める石段)

スリー・パーダ(たぶん頂上の鐘)

出演者としてのバロウズの存在感も凄いものがある。妄想シーンの中で、バロウズが壁に向かって立たされ、マシンガンで撃たれるところがある。後年、バロウズは画家として、作品を最後に撃つ「ショットガン・ペインティングス」シリーズを発表している。この作品との関連が(意識下にでも)ないか、知りたいところだ。


バロウズが撃たれるシーン


バロウズ『ショットガン・ペインティングス』(セゾン美術館、1990年)

何度観ても下らなくて笑える。エネルギーの無駄遣いもいいところだ。

ビートよ永遠に。

More I investigate, less I know.
More I investigate, less I know.
(映画より)


秘蔵品(笑)、映画スチル集


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2 コメント

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Unknown (横井)
2008-02-22 07:39:14
バロウズはイカしている!アレン・ギンズバークが亡くなった時、主に詩人達が集まった偲ぶ会というのに誘われて出かけていった。その帰り道、故清水氏らと入った店での話題はギンズバーグからバロウズへなぜか転調していった。バロウズはカッコいい!と。『チャパカ』の話も出ていたっけ。それで思いだしたんだ。どちらもスゴイ人物だ!
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Unknown (Sightsong)
2008-02-22 07:59:25
横井さん
清水俊彦さんもバロウズに痺れていたのですね。嬉しくなるエピソードをありがとうございます。
バロウズといえば忘れていた、『裸のランチ』。オーネットが93年に東京パーンで行ったライヴに行かなかったことを、まだ悔やんでいます。
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