Sightsong

自縄自縛日記

土本典昭『在りし日のカーブル博物館1988年』

2012-06-12 00:12:32 | 中東・アフリカ

土本典昭『在りし日のカーブル博物館1988年』(2003年)を観る。(レンタル落ち品を500円で入手した。)

『よみがえれカレーズ』撮影時の未使用フィルムを用いた「私家版」の作品である。音楽が何と高田みどり

映画は、地球儀でアフガニスタンの場所を示すところからはじまる。ここは、古代から、ヨーロッパと東洋とを行き来する際に通らざるを得ない地であった。紀元前4世紀のアレクサンダー大王も、アフガニスタンを踏破し、滞在した。そして、彼の東征により、ギリシャ文化がインド、ガンダーラなど東方の文化と混淆し、化学変化が生じた。

ギリシャ風の造形文化が、仏足石や蓮の花などによって間接的に仏陀の存在を示していた仏教文化に、仏像をもたらした。映画で紹介される、カーブル博物館収蔵品の数々は、このことを文字通り雄弁に語る。

ガンダーラのハッダ遺跡から出土した彫刻では、ブッダの横にヘラクレスが控える。何気ない彫刻においても、ヨーロッパ的、インド的など、混淆から形が出てくる力を感じさせて面白い。なかには極めて現代的な顔の造形もあって驚かされる。それだけではない。同時期に興隆していたゾロアスター教の影響により、仏教彫刻には火焔がみられる。

現在はどうなのか判らないが、当時、アフガニスタンの歴史教科書は6世紀のムハンマドの生誕からはじめていたため、多くの人々が、それ以前の歴史をこのカーブル博物館で学んでいたという。

1918年に創立され、1989年のソ連軍撤退まで、この博物館は無傷であった。しかし、その後数年間で、タリバンが偶像崇拝の禁止を原理的に掲げ、博物館の多くを破壊してしまった。そして、2001年にはバーミヤンの磨崖仏まで破壊されるにいたった。

モフセン・マフマルバフは、『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(2001年)において、アフガニスタンに向けられる視線の不在を嘆いている。この映画は、政治や現代社会そのものについてはないにせよ、明らかに、滅ぼされるアフガニスタンの文化を凝視しようとした視線であっただろう。破壊される前の過去の文化を大事にとらえた、貴重な映像である。

映画の最後に、アフガン北部の都市マザリシャリフにあるブルーモスクが紹介される。青い石の造形がとても美しいモスクである。土本監督は、イスラム美術はモスクの形で表わされるのだとしたあとに、「あらゆる美術は、その時代の宗教心によって創られたものだという気がする」と述べている。極論ではあっても、一面ではその通りだろう。わたしもいつの日かアフガニスタンを訪れてその文化に接してみたい。

●参照
土本典昭『ある機関助士』
土本典昭さんが亡くなった(『回想・川本輝夫 ミナマタ ― 井戸を掘ったひと』)
モフセン・マフマルバフ『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』
モフセン・マフマルバフ『カンダハール』
『タリバンに売られた娘』
セディク・バルマク『アフガン零年/OSAMA』
中東の今と日本 私たちに何ができるか(2010/11/23)
ソ連のアフガニスタン侵攻 30年の後(2009/6/6)
『復興資金はどこに消えた』 アフガンの闇
イエジー・スコリモフスキ『エッセンシャル・キリング』
ピーター・ブルック『注目すべき人々との出会い』(アフガンロケ)
中村哲医師講演会「アフガン60万農民の命の水」


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2 コメント

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Unknown (土本基子)
2012-06-12 08:36:15
故土本典昭の連れ合いです。ご紹介いただきありがとうございました。

アテネフランセで6月18日から土本典昭の上映会があります。アフガニスタン関係では、「よみがえれカレーズ」という作品を上映します。

ありがとうございました。
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Unknown (Sightsong)
2012-06-12 13:06:43
土本さん
映画でもお名前を拝見していました。ありがとうございます。
アテネフランセでの特集は楽しみにしています。『よみがえれカレーズ』のみならず、いくつも観たい作品があります。何とか都合をつけて足を運ぼうと思っています。
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