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自縄自縛日記

ルネ・アリオ『私、ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を殺害した』

2013-03-24 18:39:09 | ヨーロッパ

ルネ・アリオ『私、ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を殺害した』(1976年)を観る。

ミシェル・フーコーを中心としたチームによる事件の分析書(>> リンク)を、原作としている。

とは言え、フーコー作品の映画化と言うことはできない。フーコーらは、19世紀に起きた肉親殺人事件の歴史的な位置付けや、それを語る言説を分析したのであって、事件はフーコーが創作したものではない。

1835年、フランス北西部ノルマンディー。ここで、ピエール・リヴィエールは、自分の母親、妹、弟を鉈で惨殺した。愛する父親が、ずっと母親に酷い目にあわされ続けていたことに耐えかね、神のお告げだという正当化を付しての犯罪であった。妹は母に同調し、幼い弟はそのふたりを愛していたからだという理由で、殺害の対象になった。

映画は、その過程をじっくりと追う。いかに父親に正義があろうとも、社会も権力も無理解、あるいは無力であった。そして、捕えられたピエールについて、昔から残虐だった、対人恐怖を持っていた、狂っていた、という証言が、村人たちからなされた。

フーコーの分析は、まさにその語られ方を相対的なものとして見たものだった。従って、ピエールの犯罪についての物語形成過程や、そこにおける権力行使のあり方を、映画がいかに示そうとも、それは言説のパラレルワールドのひとつに過ぎない。要は、単なる殺人事件の映画だということだ。ピエールが無教育だったにも関わらず、また、まともでないという裁判物語の中にはめこまれたにも関わらず、長文のロジカルな供述書を綴ったという異常さも、さして触れられることはない。フランスの閉鎖的で歪んだ田舎街の雰囲気は示されているものの、これではとても傑作とは言い難い。

この映画の俳優は、ほとんどがロケ地の農村の村人(素人)であったという。30年後、映画の助監督をつとめたニコラ・フィリベールが、その村を再訪し、映画に出演した人びとのその後を撮った『かつて、ノルマンディーで』という映画がある。まだ観ていないが、そちらの方にこそ興味がある。

●参照
ミシェル・フーコー『ピエール・リヴィエール』


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