ユルマズ・ギュネイのDVDボックスの1枚、『壁(Duvar)』(1983年)を観る。仮出獄後に亡命先のフランスで完成させた『路』(1982年)のあとに撮られたギュネイの遺作であり、やはりフランスでの製作だったのだろうか。
トルコ・アンカラの刑務所。内部は男性、女性、少年院と分けられている。投獄されている理由はさまざまで、殺人も政治犯もいる。この所長が残酷非道な男であり、権力をかさに虐待を加えるのを愉しんでいる。それは苛烈で、少年に対し、「おまえは仲間うちで少女と呼ばれているそうだな、違うなら証拠を見せろ」と一物を出させ、恥をかかせた挙句、割礼していないなと殴る。反抗しようものなら容赦はなく、看守たちに手加減せず棍棒で殴打させる。拷問するときは、叫ぶ口の近くにマイクを置き、見せしめのために刑務所中に放送する。そして、所内で結婚する男女がいるが、皆が祝福している中、突然それぞれを殺すようなことさえもする。
少年たちが暴動を起こす。しかし、当然すぐに抑えつけられてしまう。少年たちは別の刑務所に移されることになる。ここでなければどこだってマシだよと呟く少年たちだったが、移送先でも同様の抑圧がはじまる。絶望的な終わり方である。
ギュネイが映画人生の最後に、獄中生活の直後、刑務所の実態を晒す映画を作るということには驚かされてしまう。拷問が行われる部屋にトルコ国旗やケマル・アタチュルク(生誕100年の頃に撮られ、神格化は続いていたのだろう)の胸像がこれ見よがしに置いてあること、刑務所内の落書きに「Yasasin Kurdistan」(クルディスタン万歳)と書きつけてあることなど、おそらく当時の体制にとって許容などできようのない映画であったに違いない。ギュネイはクルド系であった。
なお、現在ではギュネイ復権なり、2011年には多くの作品群がDVDされたとの報道がある(このDVDボックスは2009年頃)。
特筆すべき場面は、獄中での出産である。何と、実際の出産場面を用いており、赤ん坊の頭が出てくるところが映しだされているのだ。サミュエル・フラー『最前線物語』における戦車内での出産シーンが、急に馬鹿げたものに思えてきた。暴力だけでない生の発露、これはギュネイの遺作にふさわしいものかもしれない。
ギュネイの作品リストは以下の通りである。(DVDボックスに収録されている作品は★印)
国境の法(Hudutların Kanunu) 1960年代 ★
他、60年代にも作品
希望(Umut) 1970年 ★
エレジー(Agit) 1971年
歩兵オスマン(Piyade Osman) 1970年
七人の疲れた人びと(Yedi belalıar) 1970年
逃亡者たち(Kacaklar) 1971年
高利貸し(Vurguncular) 1971年
いましめ(Ibret) 1971年
明日は最後の日(Yarin son gundur) 1971年
絶望の人びと(Umutsuzlar) 1971年
苦難(Acı) 1971年
父(Baba) 1971年
友(Arkadas) 1974年
不安(Endise) 1974年
不幸な人々(Zavallılar) 1975年
群れ(Sürü) 1978年(獄中監督) ★
敵(Düsman) 1979年(獄中監督)
路(Yol) 1982年(獄中監督) ★
壁(Duvar) 1983年 ★
●参照
○ユルマズ・ギュネイ(1) 『路』
○ユルマズ・ギュネイ(2) 『希望』
○ユルマズ・ギュネイ(3) 『群れ』
○シヴァン・ペルウェルの映像とクルディッシュ・ダンス
○クルドの歌手シヴァン・ペルウェル、ブリュッセル