Sightsong

自縄自縛日記

牛街の散歩

2007-11-25 20:19:48 | 中国・台湾

北京で午後のフライトまで時間があったので、ホテルをチェックアウトして荷物を預け、それまで牛街を散歩しようときめた。

牛街は北京中心部、外城の西半分、宣武区の一角にある。宣武区は、北に座して南を睥睨する天子が位置する紫禁城から見れば、ちょうど南西部にあたる。つまり、皇帝に謁見するために到着した者にも、南の永定門から内城の正門である正陽門まで歩く1キロほどの間に左に見えたはずの、庶民の街ということになる。地図を見ると、内城の胡同は規則正しいのに対し、外城の胡同は無計画で乱雑な形をしている。

内城と外城との差は、とくに清代に入ると、民族的差別を含んだ身分的構成となったようだ。牛街は、イスラム系の回族の居住地となっている。(倉沢進・李国慶『北京 皇都の歴史と空間』、中公新書、2007年)

まず、北京でもっとも大きなモスクである「牛街礼拝寺」を参拝した。入口でもらった英語の解説文によると、996年、アラビア人の学者ナスルタンによって建立された。のちの15世紀、明朝の時代に、モスクとして正式に呼ばれるようになったらしい。そして1979年に再建されている。当然、モスクはメッカの方角を向いている。

ミナレットも礼拝殿も、そして門なども、中国風でもあり、装飾やアラビア文字に違和感と面白さを覚える。ただ、私はムスリムではないので、建物の中を見ることはできなかった。寺の人がムスリムか、と声をかけてくれたのだが。


牛街礼拝寺のアラビア文字 Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街礼拝寺のミナレット Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街礼拝寺の門とエンジュの樹 Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用

寺を出て、宣武区のかつての文化をとどめる四合院や会館を見学しようと思ったのだが、市場や胡同があまりにも人くさくて、散歩ルートとして、お勉強ではなくそちらを選んだ。

少し歩くと、羊肉市場があった。羊肉の食文化が盛んな場所ならではだ。建物から買い物袋を持った人たちがぞろぞろ出てきていて、外側には肉の運搬に使うに違いないリヤカーや自転車がたくさんあった。出入り口から地下に入ると、羊肉だらけ、商店だらけだ。人びとが、交渉していたり、雑談していたり、肉を切ったり計ったりしている。ちょうどアメ横センタービルの地下が暗くなって肉だけになった感じだ。


牛街羊肉市場 Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街羊肉市場 Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街羊肉市場 Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


市場の外では中国将棋 Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用

また外に出て大通りを少し歩くと、大きな市場「天陶市場」があった。目的がはっきりしている羊肉市場と違い、すぐ外でも大蒜だの蜜柑だのを売っていて大賑わいだ。横の路地では、饅頭をふかして売っていたり、自転車の修理をしていたりと、熱気に圧倒されそうになる。市場の建物の中では、野菜や果物を積み上げて商売していた。北京の冬の風物詩といわれていた白菜なんかは、ほとんど小山のようになっている。


牛街の「天陶市場」 Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街の「天陶市場」 Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街の「天陶市場」 Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


場外には饅頭売り Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用

市場を出て、そのまま、いつのまにか胡同に入り込んだ。やはり、内城の胡同とは違って、雑然としている。家も、四合院ではなく小さな雑院が多いのだろうか。生活の場と商売の場が渾然としている。白菜の積み下ろしもあった。練炭売りのおじさんもいた。猛烈に腹が減ってきた。しかし、時間がなくなってきたので、後ろ髪をひかれるような思いで空港に向かった。


牛街の胡同 Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街の胡同(貼り紙) Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街の胡同(子ども) Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街の胡同(老人) Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街の胡同(練炭売り) Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街の胡同(帽子の女性) Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用


牛街の胡同(白菜トラック) Leica M4、Zeiss Biogon 35mmF2、TRI-X、フォルテ・ポリウォームトーンプラスRC、3号フィルタ使用

この宣武区の文化のことを宣南文化という。上村幸司『中国路地裏物語―市場経済の光と影―』(岩波新書、1999年)によると、あたり一帯は、文化大革命の際、「四旧打破」(古い思想、文化、風俗、習慣の打破)を叫ぶ若い紅衛兵によってかなり破壊されたらしい。さらに市場経済の波に飲まれ、実際に表通りと裏の胡同とはまったく様相を異にしている―――もっとも、内城で感じたほどの建て替えの勢いは見られなかったが。この胡同は、文革と開発の波にあってなお残る場所なのだろう。しかし、宣武区政府は、宣南文化の復興を目指して再開発と観光化を目指しているらしい。北京オリンピックのこともあり、内城、外城ともに、胡同は次第によそ行きの顔になっていくのだろうなと思った。


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