Sightsong

自縄自縛日記

ユルマズ・ギュネイ(3) 『群れ』

2012-03-11 16:48:12 | 中東・アフリカ

ユルマズ・ギュネイのDVDボックスの1枚、『群れ(Sürü)』(1978年)を観る。ギュネイが投獄されていた時期の作品であり、『路』と同様に、獄中から指示を行っての監督という形がとられている。

東トルコ。シヴァンは互いに敵とみなす家の女性ベリヴァンを妻としているが、憎しみは絶えない。ベリヴァンの産んだ子は3人とも死産となり、それ以来、ベリヴァンは心を病んでしまい一言も口をきけなくなった。もはや羊の放牧では食べていけないと悟った一家は、首都アンカラで羊を売りさばくべく旅に出るが、シヴァンの父ハモは、ベリヴァンを災厄の元だとして同行させるのを渋る。そして旅の途中、羊は次々に死に、泥棒に遭い、どんどん少なくなっていく。到着したアンカラで、ベリヴァンは死ぬ。それまで抑えてきた感情を爆発させたシヴァンは、父ハモを罵り、軽口を叩いた羊商人を絞め殺してしまう。

旧い蒸気機関車での旅、車窓からのアナトリア高原の光景が素晴らしい。茶色の高原におけるテント生活の風景に、これはいつの時代の物語だろうと訝しんでしまうが、近代的なアンカラに出たところで、現代であることがはっきりする。羊飼いの放牧生活が難しくなり、みんな農耕を始めている時期であった、ということだ。

オカネが親族の間の関係を歪め、売春でオカネを失う若者がいて、オカネがないと医者に診てもらうことができず、幻想を抱いて都会に出るも何にもならない。それどころか抑圧され続けた主人公は白眼視され、最愛の者を失い、人殺しになってしまう。暴君の父の前には、ここに至り、狂気への道が開ける。時代の移り変わりの様子をとても切実に捉えた映像であると思えるのだがどうだろう。

ギュネイの作品リストは以下の通りである。(DVDボックスに収録されている作品は★印)

?(Hudutların Kanunu) 1960年代 ★
 他、60年代にも作品
希望(Umut) 1970年 ★
エレジー(Agit) 1971年
歩兵オスマン(Piyade Osman) 1970年
七人の疲れた人びと(Yedi belalıar) 1970年
逃亡者たち(Kacaklar) 1971年
高利貸し(Vurguncular) 1971年
いましめ(Ibret) 1971年
明日は最後の日(Yarin son gundur) 1971年
絶望の人びと(Umutsuzlar) 1971年
苦難(Acı) 1971年
父(Baba) 1971年
友(Arkadas) 1974年
不安(Endise) 1974年
不幸な人々(Zavallılar) 1975年
群れ(Sürü) 1978年(獄中監督) ★
敵(Düsman) 1979年(獄中監督)
路(Yol) 1982年(獄中監督) ★
壁(Duvar) 1983年 ★

●参照
ユルマズ・ギュネイ(1) 『路』
ユルマズ・ギュネイ(2) 『希望』
シヴァン・ペルウェルの映像とクルディッシュ・ダンス
クルドの歌手シヴァン・ペルウェル、ブリュッセル


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