イラン出身のAさんから、渋谷ユーロスペースでアッバス・キアロスタミの特集上映をやっていると聞かされ、あわてて調べたが行けずじまい。キアロスタミの映画のなかでは、10年近く前、ラピュタ阿佐ヶ谷ができたばかりのころに観た『トラベラー』(1974年)が気に入っていて、DVDも持っている。それで改めて観た。
これは、キアロスタミの長編デビュー作。主人公の10歳の少年は憎めない悪ガキで、勉強せずサッカーばかりして怒られてばかりいる。どうしてもテヘランでサッカーの試合を観たい少年は、親からオカネをくすねたり、街角で写真撮影のふりをして大勢からオカネを騙し取ったりする。ついに工面して、夜中にこっそりと抜け出して、夜行バスでテヘランまで旅をする。スタジアムに入ったはいいが、知らない大人たちの間で疎外感をおぼえ、疲れもあって、うろうろする間に寝てしまう・・・試合があるのに。
子どもが夢中になる世界の様子や、罪悪感、一生懸命さなんかの描写がとてもうまくて、キアロスタミは特別なひとなんだなと思わされる。日本ではじめて劇場公開されたイラン映画は、キアロスタミの『友だちの家はどこ?』だったと記憶しているが、他の映画監督の作品も観てみたいものだ。
ところで、写真を撮るふりをするのに使うカメラは何だったろうとおもい、じろじろ見てみた。メーカーはよくわからないが、コダックなどが多く作っていたボックスカメラのひとつだろう。フィルムは120のブローニーを使う。撮影用レンズの上にレンズが2つ付いており、上から覗いて撮るときに、縦横の両方が可能なタイプである。下にシンクロ接点が2つある。この手のボックスカメラのなかでは割と良いものだとおもうが、70年代に入ってこのようなカメラをまだ使っていたのかということに驚く。
『友だちの・・・』も子どもの視点でしたね。その次の『そして人生はつづく』では、フィクションという大枠も何の気なく踏み越えていて、これも良いと思いました。