Sightsong

自縄自縛日記

大島渚『戦場のメリークリスマス』

2009-10-02 01:15:58 | アート・映画

銀座シネパトス大島渚の特集上映をやっていた。気が付いたらもう最後のプログラム、『戦場のメリークリスマス』(1983年)。オーシマファンとしては我慢できず、夜の上映を観に行った。

もちろんこれまで何度も観ているし、録画したヴィデオも大事にしまっている。しかし大画面で観る大島渚は<違う>のだ。戸田重昌の美術による貢献も大きいと思われる異空間、それは毒々しい色であり、配置である。ここに大衆演劇のような<顔>がかぶきまくる。坂本龍一の音楽は、有名なテーマ曲以外でむしろ、異空間の重力をさらに狂わせる。

誰もがたじろぐであろう、圧倒的な同性愛の映画である(誰もが、と思っていたら、そんなことを夢にも感じていない人間がいて吃驚したことがある)。戦争、軍隊、虜囚、精神性のすべてが抑圧を生み、抑圧は愛と狂を生む。そもそも精神性など狂気と表裏の関係にあるものだ。

今晩久しぶりに観て、同性愛と敢えて限定するべきではないという印象が強く残った。これは<愛>と<関係>の映画なのだ。そして<愛>と<関係>を構築する者たちを、大島渚はまるで蛆虫であるかのように描く(勿論、人間と蛆虫は同じレベルの存在であるとの視線である)。やはり猛烈にわけがわからない、もの凄い映画だ。ビートたけしがかつての捕虜、ローレンスに「メリークリスマス、Mr. ローレンス!」と呼びかけるラストシーンでは、涙腺が弛んでしまった。

帰宅してから、大島渚の研究書をあたってみたが、スザンネ・シェアマン、ルイ・ダンヴェール&シャルル・タトムJr、樋口尚文すべて不満の残る論調である。国境や歴史や異文化を構造的に語ってばかりでは、この純粋なる蛆虫どもの愛が感じられなくなってしまう。

●参照
大島渚『夏の妹』
大島渚『少年』
篠田正浩『処刑の島』(戸田重昌)


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