詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(83)

2019-03-12 10:52:45 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
83 その家の外

昨日、町はずれの一郭を歩いていて
一軒の家の前を通りすぎた。
そこは若かった頃に何度も通ったところ。

 池澤は、こう書いている。

 触発型の追憶の例だが、ここに描かれた現象は追憶よりもはるかにダイナミックな目くるめくものである。

 書き出しではなく、二連目、三連目の「内容」について、そう言っているのだと思うが、私がこの詩で注目するのは、何よりも「昨日」である。「今日」ではない。もちろん「昨日」が「昨晩」であったために、日付がかわってしまったので「昨日」になったということもあるだろうが、たぶん、そうではない。
 この詩では、追憶を追憶した、ということが書かれている。いまはやりのことばで言えば「メタ化」されている。「メタ化」しないではいられない、そのおさえきれない感情。それが「昨日」という書き出しにあらわれている。
 二連目にも

そして昨日、
その古い道を通りすぎようとした時、

 と繰り返される。
 そして三連目。

その場に立って門を見ていると、
立ち去りかねてその家の外に立っていると、
わたしの全存在は身の内にしまってあった
快楽の感動に輝きわたった。

 池澤の言う「ダイナミック」が最後の二行に結晶している。しかし、私はやはりその二行よりも、

立ち去りかねてその家の外に立っていると、

 「立つ」ということばが重複する(ギリシャ語でも同じかどうかは知らない)部分に、「昨日」に似た感情の動きを感じ、「肉体」をつかまれてしまう。




カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
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