詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(150)

2019-05-18 09:00:40 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
150 少しは気を配って

 主人公は政治家(政治屋?)か。自分を売り込もうとしている。

まずはザビナスに接近しよう。
もしあの知恵足らずに拒まれたら、
いつも張り合っているグリポスの方に行こう。
仮にもあの愚鈍がわたしに背を向けるなら、
まっすぐヒルカノスのところに駆け込もう。

 信念がないのが、この主人公の真骨頂か。言い換えると信念を持たないことを信念にしている。
 それをこう言い換えている。

三人の誰がわたしを選ぼうと
わたしの良心は痛まない。
シリアに害を為す点では三人とも同じだから。

 「意味」はわかるが、どうも「信念を持たない」という開き直りのような強さ、ふてぶてしさが、ことばの響きのなかにない。「意味(主張の論理)」はわかるが、「声」が聞こえてこない。
 ことば(訳語)の運びが「論理的」過ぎるのかもしれない。
 「三人とも同じだから」の「だから」に、特に「論理性」を感じてしまう。
 どんな人間にも「論理(意味の構成力)」というものはあるが、「……だから」というような「粘着力」のある論理、ある意味「陰湿な」論理ではなく、もっと「飛躍力」のある論理が「信念を持たない男」にはふさわしくないだろうか。
 「だから」を省略するだけで、印象はずいぶん変わると思う。ギリシャ語の原文には「だから」に通じることばがあるのだろうか。

 池澤の註釈。

 主人公は架空の人物だが、時代は紀元前一二八年から一二三年の間と限定される。

 理由は詳細に書いてあるが、私は歴史の知識がないので、その詳細を読んでも理解できない。思うのは、池澤の註釈に書いてあるように厳密に歴史のなかに詩を組み入れて読んでも、「架空の人物」にカヴァフィスが託した人間の「本質」はつかめないのでは、ということ。「声」にこそこの男の「本質」がある。それは「論理」ではないだろうなあ。





 



カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
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