エミリア・ペレス監督「エミリア・ペレス」(★★★★★)(2025年03月28日、キノシネマ天神スクリーン3)
監督 ジャック・オーディアール 主演 カルラ・ソフィア・ガスコン、ゾーイ・サルダナ
奇想天外(と言ってはいけないのかもしれないけれど)のストーリーなのだが、そこから「奇想天外」を取り除き、「芸術」に昇華させているのは、この映画がミュージカル仕立てであることだ。ストーリーを突き破って、登場人物の感情が爆発するとき、それが「会話」のトーンから「音楽」にかわる。「芸術」になる。
この映画は、ストーリーをみせるものではなく、「感情」を爆発させる、「感情」そのものをみせる映画なのである。
と、書いて、ふと思うのは、「ミュージカル」に相当する日本の芸能(演芸)とはなんだろうか、ということ。歌舞伎、かもしれないが……。私は、この映画を見ながら、あ、これは「文楽」だなあ、と感じた。人間ではなく、人形が演じる。しかも、その人形をあやつっているひとも見える。「文楽」は、最初から、これは「現実そのものではない」と言っている。あるいは「ストーリーを見せるものではない」と言って、芝居を始める。そこで展開されるのは、あくまで「感情」である。その「感情」を太夫が声で響かせる。人形は、太夫の声(感情)を引き立たせるためのものである。(こう断定してしまうと、まあ、間違っている、という指摘が来るだろうけれど。)
この映画でも、ストーリーを中心に見ていくと、まあ、ご都合主義だね。でも、映画はもともとストーリーなんかがなくても成立するものである。だから、ご都合主義でかまわない。芸術というものは、だいたいそうだろうと思う。表現したいものがあれば、それに焦点をあてて、浮き彫りにする。あとは、テキトウ。
この映画のポイントは、麻薬王が女性になりたいという欲望(感情)をどう説得力のあるものとして描き出すか、なのだが。
いやあ、おどろいた。もしかすると「紋切り型」かもしれないけれど、「紋切り型」にはやはり「紋切り型」ならではの強さがある。なぜ、麻薬王は女性になりたいと思ったのか。幼いときから願望があったのだが、それを抑えきれなくなったのはいつか、なぜなのか。妻が「二人目のこどもが生まれてから」と言うようなことを言う。こどもが生まれ、接しているうちに「父性愛」ではあらわしきれない「母性愛」が生まれたということだろう。それは、妻への愛(異性愛)を超えるほどに強烈だったのである。
彼(彼女というべきか)の暮らしは、この「母性愛」(こどもと一緒に暮らしたい)という感情にひっかきまわされる。クライマックスの引き金は、妻がかつての部下(?)と結婚すると言ったことよりも、結婚するとき「こどもを連れて行く」と言ったことが原因である。こどもがもし彼の家にとどまるなら、彼は何もしなかったのである。
この「母性愛」は、その前にも「伏線」として描かれている。失跡した息子の情報を求めて街をさまよう女性。彼女から、「失跡した息子のビラ」をもらうと、彼は刑務所にいるツテを利用して「遺体」を探し出す。そこから、失跡者探しは彼の仕事になっていくのだが、この原動力も「母性愛」である。あのビラを配っていたのが父親だったら、彼があんなに熱心になったかどうかわからない。
セックスも描かれるのだが、この奇想天外なストーリーのなかで「母性愛」を芯に据えたことが、この映画を揺るぎないものにしている。欲を言えばというか、この映画の唯一の弱点は、その「母性愛」が歌のメインになっていないことだろうなあ。主人公が、眠れない息子の部屋にきて、ベッドで添い寝しながら語りかけるシーンがあるが、そのときのやりとりというか、語りかけが「主題歌」になれば、とてもいいと思う。(文楽ならば、ここが泣かせどころ、サビである。)このシーンは、何やら部屋に飾られた「宇宙」の星々が主人公にふりそそぐという「映像」で処理されているのが、とても物足りない。まあ、監督としては、「母性愛は宇宙の広さに匹敵する」という思いを込めたのかもしれないが、そんなものは「意味」だからね。「感情」になっていないからね。
でも、今年見たなかでは(そんなに見ているわけではないが)、「ブルータリスト」についでおもしろい作品だといえる。
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