詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(153) 

2019-05-21 10:56:21 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
153 一九〇八年の日々

 若い男の、だらしのない生活が描かれる。

夜を徹しての疲れるゲームが
一週間かそれ以上も続くと、
朝、水浴に行って身体を冷やした。

 その最終連。

あなたは別の彼を見るべきだ。
みっともない上着を脱いで、
継ぎの当たった下着も脱ぎ捨てた、
一点の瑕疵もない全裸の姿、その奇蹟、
櫛を入れてない髪を後ろに流し、
少しだけ日に焼けた手足で、
浴場や砂浜に立つ朝の裸体を。

 「櫛を入れてない髪を後ろに流し、/少しだけ日に焼けた手足」が非常に印象的だ。「一点の瑕疵もない全裸の姿、その奇蹟、」という抽象的な表現を内側から突き破ってあらわれてくる。まるで、服を脱ぎ捨てたばかりの「裸体」のように。
 声を失って、ただ、見つめてしまう。

 池澤の訳、特に最後の一行の、最後の「を」は「一点の瑕疵」を通り越した致命的な傷だ。「あなたは別の彼を見るべきだ。」と呼応しているのだが、この論理的すぎる翻訳がカヴァフィスの音楽を壊している。詩なのだから、論理のことばを隠した方が、ことばが輝くと思うのは私だけだろうか。

 池澤の註釈。

 まるで短篇映画のような作品。生活に困る姿、職を断り、流行遅れの上着を着て夜のカフェで稼ぐ。そして最後の場面で本来の姿を見せる。

 この註釈の「本来の」ということばも、論理のことばだろうなあ。




 



カヴァフィス全詩
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1 コメント

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池澤夏樹のカヴァフィス153 (大井川賢治)
2024-04-23 21:59:16
詩のことばと、論理のことばという2分法からの感想。谷内さんの詩の評論における、大きな視点の一つかなと思っています。
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