Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

弐 湯の旅伊豆半島完全一周

2014-01-10 12:45:10 | 旅行

正月の数日を房総の勝山にある友人Oさんのマンションを借りる予定でいた。海岸に面したマンションの利を生かして磯のテトラポットに潜んでいる魁偉な面持ちの高級魚カサゴでも秋刀魚の切れ身餌持参で狙い釣りしようという魂胆だった。しかし部屋の根幹を成す電気の元を切ってあって、復旧は世間一般の仕事初め頃でないと無理ということがわかった。急いで気持ちを切替えて行き当たりばったりの温泉立ち寄り旅を思いついた。湯河原に住む知人のMさんからかねて薦められていた伊東・宇佐美の街中にある源泉掛け流し銭湯、伊豆急蓮台寺駅から近い、金谷旅館の千人風呂、以前に女友達とドライブ途中で見かけた記憶のある「観音温泉」などの湯煙が頭の中に立ちこめてきて即行動する。

下駄代わりのクルマ、ホンダ「キャパ」は発進時にギヤが滑るような独特な癖というか、不調を持っているが、こういうウイークポイントを意識して走っているときは皮肉なことに故障はやってこないことが長年のカンでわかっている。正月三日、予約も一切なしの行き当り旅だ。海沿いの134号線は箱根駅伝の復路コースに茅ヶ崎海岸付近が重なっているが、沿道の反対車線は予想に反してガラガラに空いていて拍子抜けしてしまう。大磯、二宮、小田原などの国道1号も下り車線は空いていている。伊豆半島に入ってからの135号線も同様だ。自動車専用道路、バイパスめいた安易ルートを選ばない旧道ヘアピン派で通すことで伊豆の海・野山を体感できる旅の気分が一挙に横溢してきた。

第一番目は宇佐美駅前、右裏にある某銭湯。ここは2時にオープンする。タオル持参で350円を支払う。泉質は炭酸成分が主力だ。安価温泉の達人Mさんが推奨するだけのことはある。秋に同行した熱海市街地にある福島屋と同じタイプの昭和風改装不能なレトロ浴場だが、浴槽は必要にして十分な広さだ。福島屋は温度が高くて逃げ場がなくなるほどだった。まさに促成茹蛸の境地である。しかしこちらはやや熱い程度だから救われる。ドボドボ・コンコンと注いでくる豪勢な自噴泉の青みが淡くのったような気持ちのよい温泉に20分程浸かって気分は一新された。昨年来沈殿してきた塵芥も流れ去る気分だ。宇佐美町民のささやかな幸せと贅沢が羨ましい。

350円銭湯の良質に感激した後は伊東市内、伊豆高原・富戸付近へ寄り道してその日の臨時宿を探す。隙間でセブンイレブンの100円セルフコーヒーを飲んだり、伊豆銘菓「千舟」の蓬饅頭をツマミ食いするのんびり旅の風情も楽しむ。あらゆる宿屋は正月かき入れモードで手一杯なのだろうが、眺望が良い露天風呂を謳っている某ペンションが富戸の辺鄙な場所にあって交渉してみた。以外にも素泊まり6000円の答えをもらって安堵する。若い家族連れ、学生の利用が多く場違いの感もあるが、平凡な洋風建築の狭い部屋で雨露を凌ぐことに決める。ここの泉質は伊豆高原一帯に特有な単純強アルカリ泉とある。むろん自噴ではない。どこからの引湯なのだろう。しかしここのメリットは露天風呂の真上に広がる星空の夜景が素晴らしい。そして風呂に立ちはだかる河津櫻も3月頃には良い見頃を迎える様子だ。泉質こそ宇佐美銭湯の歯切れ良さに欠けるが、冷気に囲まれた温もりの中の眺望は捨てがたいものがある。二箇所ある露天風呂に計3回入って熟睡して翌日は下田を目指す。

 

幸いにも4日の宿泊は下田と西伊豆・松崎を繋ぐ県道の途中にある大沢温泉の湯治宿の予約が可能となった。素泊まりが3900円だ。宿の心配はなくなって下田の市中や海岸付近を手ブラ散策する。以前に満開だった爪木崎の水仙は時期がちょっぴり早い。板見漁港付近の潮色はエメラルド色が冬になって冴えてきた。下田市内の昼食はさざえを散らしたかき揚げ丼を食べてみる。さざえの硬い歯応えに妙味のあるものだが、かき揚げは余程の大食漢じゃないと太刀打ちできないような大柄、大味を感じる。

2時から入館できる大沢の湯治場「山の家」は山の渓流に面したバラック建ての山荘だ。ちょうど若い頃愛読していたつげ義春の描いた田舎温泉場の佇まいがいやおうなく漂ってくる。ここの路上には1000CCクラスの大型バイクが数台止まっている。ツーリングを兼ねた温泉旅には最高のロケーションを感じる場所だ。今宵の宿泊予約を確認してみたら、少し離れた所にある新しい平屋が宿ということである。部屋を確認してみる。つげ漫画風うらぶれ感はない清潔内装のせいぜい築10年未満の部屋だった。温泉の休憩所、浴槽は崖下にあり、落葉樹の梢が頭上にまで重なっているような秘境感にとても感動する。肝心の温泉はマニア諸氏がネット等で激賞するように西伊豆では出色の豪快な自噴泉をドンドンと吐き出してくる。湯量も温度も快適な為翌朝まで6回も林道を往復して入浴することになった。石鹸類の設備は一切セットしていない。アメニティグッズなども然りだ。こうしたシンプルで一徹な不便仕様は、意外にも清潔に通じていて簡素な環境循環を行っているものなのだと湯船に浸かりながら痛感する。

翌日は松崎から中伊豆等への省略コースも一切辿らないで、土肥、戸田、大瀬崎等の山沿いの旧道を巡って沼津を目指すことにする。途中の崖上にて食べた二八蕎麦、五平餅、クレソンのサラダなどが望外にも美味かったことで、新年の湯巡り旅はなかなかよい結果になったようだ。


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