Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

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横浜市中区麦田町1-5

丸木スマのカレンダー2013

2012-12-20 11:43:55 | その他
有名な「原爆の図」を描いて世界中に知られている丸木位里、俊夫妻の作品を展示している記念美術館が埼玉の東松山市内にある。里山の緑の中を都幾川の清流がゆっくりと煌きながら流れるのどかな場所にある。サンドイッチやおにぎりでも持ってこの美術館付近を散策したら半日は楽しめそうだ。

晩秋のある日にこの美術館を見学したときに、丸木スマさんという老婆の絵描きさんがかっていたことを知った。画家丸木位里さんの母親らしい。明治の初め頃、広島市の郊外で生まれて、1956年(昭和31年)に東京でその生涯を81歳で閉じている。そのスマさんは戦後になってから、絵を描き始めている。息子の位里さんに画法を教わって素朴な風物の小品をいかにも楽しそうに活き活きと描いている。位里さんや俊さんがベースに持っている西洋古典絵画技法や社会主義レアリズム風の大作タッチとは無縁な、一種の幼児っぽい童画的小品群である。

スマさんの絵は紙に墨や鉛筆で線描したあとに彩色を重ねていて、これが独特な風合いを生み出している。1950年(昭和25年)の作品に「塔」という題の間合いのセンスが不思議な絵がある(カレンダー5・6月所収)。どこか村はずれにあるお堂を描いている。強い風が吹き荒れているのか、お堂の傍に植わっている木々が揺れている。梢や草むらに群がっている鳥は椋鳥やスズメだろう。お堂も屋根の甍付近の一部だけが遠近法を採用して、あとは朱塗りの建物を平面から描いている。小学生の写実みたいな大胆構図だ。風の強さはお堂の背後に太い筆を使って等間隔のライトグレー色を施すことで象徴化させている。鳥が羽ばたく様や餌を啄ばんでいる姿態から、マルク・シャガールの世界にも通じる馥郁とした夢の香りが伝わってくる。

丸木美術館の原爆告発と証言風大作の物量展示にはちょっと気分が沈鬱となるが、丸木スマの素朴絵画の展示群は箸休めっぽくよい風をとおしてくれていて救われた。ちょうど2013年の美術館で編纂した丸木スマのカレンダーも販売していたので購入してみた。2013年の年明けは、丸木スマが描いた家禽や野鳥や動物達が綻んだ梅の木の傍で遊ぶ風景で始まる。この幸せ感がてんこ盛りな絵をダイニングにかけるべきか書庫の部屋にかけるべきかがもっかの小さな悩みである。


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