さて、名前だけは知っていた、な第398回は、
タイトル:終着の浜辺
著者:J・G・バラード
文庫名:創元SF文庫
であります。
復刊フェア、と言うことで買ってきました、バラードの短編集。
元は『時間の墓標』だったらしいのですが、改題してるみたいです。
例によって一つずつ感想を書いていきます。
『ゲームの終わり』……死刑判決を受け、その日が来るまで別荘に監禁されているコンスタンチン。いつ、どんな方法で処刑されるのかは知らされていない。彼は付添人であり死刑執行人でもあるマレクから情報を引き出そうと試みるが――。二人の人物の見えざる戦いを描いた密室劇。与えられた娯楽がチェスと数冊の本だけというのがなかなか面白い。ラストのマレクの台詞が衝撃的。
『識閾下の人間像』……フランクリン博士はハサウェイの相手をすることに辟易していた。彼によれば、最近建てられた大型交通標識は識閾下を支配するための通信を行っているらしい。博士は付き合いきれないといった感じで、その考えを一蹴するが――。サブリミナル効果? 資本主義の袋小路を予見したような話。現実問題、CMってこういうものだと思う。
『ゴダード氏最後の世界』……突然、雲一つない空に雷鳴が響き渡った。町の人々は訝しむが、ゴダード氏だけは原因を知ることが出来た。彼が持つ箱庭の町の天井で蛾が暴れていたのだ――。クラインの壺のように、外と内が一体となった箱庭世界の物語。日々、人々を覗き見していながら、自分が良識人で、周囲の信頼を勝ち得ているものと信じ切っているゴダード氏の姿は滑稽。
『時間の墓標』……墓荒らし仲間のお荷物シェプレイはリーダーであるトラクセルから最後通牒を突きつけられた。タイム・トゥームを荒らして稼ぐか、さもなくば仲間を抜けるか――。シェプレイとトラクセル、二人のインテリ崩れの話。センチメンタルな上、最後まで未練がましい姿を見せる主人公シェプレイより、現実派のトラクセルの方が断然魅力がある。(爆)
『ヴィーナスの住人』……天文学研究所の一員としてバーノン山にやってきたワード。しかし、金星人を見たと主張するカンデンスキーと関わるうちに、何かが狂い始める――。ありえない物と遭遇した時、人はどう行動するのか? カンデンスキーには同情するが、ワードの行動を責める気にもなれない。
『マイナス1』……グリーン・ヒル精神病院から一人の患者が姿を消した。警察当局には知らせず、内々で穏便に事を済ませようとする医師達。しかし、いつまで経っても行方不明者は発見できず――。こわ~いお話。ラストの一文とリンクしているタイトルは秀逸。これ、舞台を村にしたら怪談話が一個作れそう。
『ある日の午後、突然に』……突然、激烈な発作に襲われたエリオット。何とか持ち直したが、同時に訪れたこともない筈のカルカッタの景色が脳裏に浮かんできた。記憶が混乱する中、さらなる発作が――。いわゆる、サイコホラー。エリオットが追い詰められていく描写は、スプラッタなど一つもないのにも関わらず、物凄くグロテスクに感じる。好きだけど。(笑)
『終着の岸辺』……原水爆実験の爪痕が残るエニウェトック島。廃墟の迷路をさまようトレーブンが見る様々なもの――。時間も空間も無視して内面世界を描きたくなる気持ちは解るけど、死と終末ばかり並べ立てられてもくたびれるだけ。おまけに物凄く読みづらい。
どの作品も暗いトーンに覆われています、明るい話が好きな人には不向き。
好きな作品はあるけど、全体的には微妙……。
――【つれづれナビ!】――
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タイトル:終着の浜辺
著者:J・G・バラード
文庫名:創元SF文庫
であります。
復刊フェア、と言うことで買ってきました、バラードの短編集。
元は『時間の墓標』だったらしいのですが、改題してるみたいです。
例によって一つずつ感想を書いていきます。
『ゲームの終わり』……死刑判決を受け、その日が来るまで別荘に監禁されているコンスタンチン。いつ、どんな方法で処刑されるのかは知らされていない。彼は付添人であり死刑執行人でもあるマレクから情報を引き出そうと試みるが――。二人の人物の見えざる戦いを描いた密室劇。与えられた娯楽がチェスと数冊の本だけというのがなかなか面白い。ラストのマレクの台詞が衝撃的。
『識閾下の人間像』……フランクリン博士はハサウェイの相手をすることに辟易していた。彼によれば、最近建てられた大型交通標識は識閾下を支配するための通信を行っているらしい。博士は付き合いきれないといった感じで、その考えを一蹴するが――。サブリミナル効果? 資本主義の袋小路を予見したような話。現実問題、CMってこういうものだと思う。
『ゴダード氏最後の世界』……突然、雲一つない空に雷鳴が響き渡った。町の人々は訝しむが、ゴダード氏だけは原因を知ることが出来た。彼が持つ箱庭の町の天井で蛾が暴れていたのだ――。クラインの壺のように、外と内が一体となった箱庭世界の物語。日々、人々を覗き見していながら、自分が良識人で、周囲の信頼を勝ち得ているものと信じ切っているゴダード氏の姿は滑稽。
『時間の墓標』……墓荒らし仲間のお荷物シェプレイはリーダーであるトラクセルから最後通牒を突きつけられた。タイム・トゥームを荒らして稼ぐか、さもなくば仲間を抜けるか――。シェプレイとトラクセル、二人のインテリ崩れの話。センチメンタルな上、最後まで未練がましい姿を見せる主人公シェプレイより、現実派のトラクセルの方が断然魅力がある。(爆)
『ヴィーナスの住人』……天文学研究所の一員としてバーノン山にやってきたワード。しかし、金星人を見たと主張するカンデンスキーと関わるうちに、何かが狂い始める――。ありえない物と遭遇した時、人はどう行動するのか? カンデンスキーには同情するが、ワードの行動を責める気にもなれない。
『マイナス1』……グリーン・ヒル精神病院から一人の患者が姿を消した。警察当局には知らせず、内々で穏便に事を済ませようとする医師達。しかし、いつまで経っても行方不明者は発見できず――。こわ~いお話。ラストの一文とリンクしているタイトルは秀逸。これ、舞台を村にしたら怪談話が一個作れそう。
『ある日の午後、突然に』……突然、激烈な発作に襲われたエリオット。何とか持ち直したが、同時に訪れたこともない筈のカルカッタの景色が脳裏に浮かんできた。記憶が混乱する中、さらなる発作が――。いわゆる、サイコホラー。エリオットが追い詰められていく描写は、スプラッタなど一つもないのにも関わらず、物凄くグロテスクに感じる。好きだけど。(笑)
『終着の岸辺』……原水爆実験の爪痕が残るエニウェトック島。廃墟の迷路をさまようトレーブンが見る様々なもの――。時間も空間も無視して内面世界を描きたくなる気持ちは解るけど、死と終末ばかり並べ立てられてもくたびれるだけ。おまけに物凄く読みづらい。
どの作品も暗いトーンに覆われています、明るい話が好きな人には不向き。
好きな作品はあるけど、全体的には微妙……。
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