つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

資料のつもりだったんだけど

2012-03-24 15:32:02 | 学術書/新書
さて、小説ではないよの第998回は、

タイトル:源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり
著者:山本淳子
出版社:朝日新聞出版 朝日選書(初版:'07)

であります。

Amazonで本を探すと中身がわからない、ってのが欠点だよなぁ。
資料のつもりで買ってみた本書。資料としてははっきり言って役立たずでしたが……。

構成は、

『「序章 一条朝の幕開け」
一条天皇の先帝、花山天皇の退位とそれにまつわる策謀を中心に描く。

「第一章 清涼殿の春」
若くして即位した一条天皇と、その一条天皇に最初に入内した定子との生活を中心に、出仕したばかりの清少納言や定子の兄伊周などの中関白家の面々を加えた生活、一条天皇の政治への思いを垣間見せる章段。

「第二章 政変と悲劇」
時の権力者で関白の藤原道隆が病で死亡したあとの権力争い――伊周と道長との確執の中、発生した花山院と中関白家の次男隆家とが起こした事件から始まる中関白家の没落を基本に、義兄である伊周を断罪せざるを得なかった一条天皇の苦悩、出家してしまった定子の姿を描く。
また、「枕草子」の執筆の契機となった清少納言の心にも触れる。

「第三章 家族再建」
髪を下ろし、出家してしまった定子を一条天皇が連れ戻し、復縁することを描く章段。

「第四章 男子誕生」
定子の出産――敦康親王の誕生と、道長の娘彰子入内にまつわる章段。力をつけつつある道長に迎合して第一皇子誕生にもわびしさの漂う定子近辺の様子を「枕草子」などから引用し、描写。

「第五章 草葉の露」
定子の三度目の出産とその死を中心に、一条天皇の彰子との幼い関係やその苦悩などを描く章段。

「第六章 敦成誕生」
ここからは定子中心から彰子中心へと描写がシフトする。紫式部が夫を亡くし、彰子に出仕する話や彰子サロンでの紫式部の立ち位置、彰子サロンの特徴などが描かれる。
また、章題にあるように彰子が皇子である敦成親王を出産するまでを「紫式部日記」などから描いていく。

「第七章 源氏物語」
道長という後見人を持つ敦成親王の晴れ晴れしい誕生からの儀式の軌跡と、道長、彰子の後援を受けて「源氏物語」が書物として成立していく様を描く章段。

「終章 一条の死」
一条天皇が死の病にかかったころから、皇太子問題などを経て、おとなしくただ父道長の言うがままだった彰子が自らを変えていく姿を描く。』

ほんとうに資料としてはまったく役に立ちませんでした(笑)
でも、読み物としてはとても興味深く、古典に慣れ親しんでいる私から見ても、新たな視点や発見があってけっこうおもしろかったです。

小説ではないので主人公と言うにはふさわしくないかもしれませんが、本書の中心をなすのは一条天皇とその后である定子と彰子。
「この世をば……」で有名な藤原道長の影に隠れて存在感の薄い一条天皇ですが、在位25年に渡る長期政権下で、どのように政治を執り行ったのか、また貴族たちの白眼視が免れない中で行った定子への復縁とその愛情など、実は賢帝として長く治世を敷いた姿が見事に描写されています。

定子の側では定子サロンの特徴や、「枕草子」や「栄花物語」から窺える政治に翻弄される姿、一条天皇との関係などが描かれ、彰子の側でも、サロンの特徴や定子サロンとの違い、幾代もの天皇を見守り87歳まで生きた彰子の成長の記録が描かれている。

個人的には「枕草子」は読んでますし、定子のほうにはさほど目新しいものを感じませんでしたが、彰子の側については特に興味深く読めました。
両サロンの違いはもとより、彰子が自らの子を差し置いて、兄弟順であることを理由に定子の子である敦康親王を皇太子に立てることを道長に直談判したりする逸話や、一条天皇の政治理念を受け継いでその権力をふるう話など、彰子の持つイメージががらりと変わりましたね。

本書は「源氏物語の時代」が主題となっていますが、どちらかと言うと副題の「一条天皇と后たちのものがたり」のほうがしっくり来ます。
もちろん、主人公3人に終始するわけではなく、藤原行成の日記などの資料をもとに、貴族たちの動向や「枕草子」「源氏物語」の成立にまで話題は及んでいますが、柱はやはり一条天皇と定子、彰子の3人です。
なので、「源氏物語」に関する事柄を深く知りたいと思っていると、これはハズレになります。
本書の柱はあくまで主人公3人なので、その点は注意しておく必要があるでしょう。

ともあれ、源氏物語が成立した時代に生きた主人公3人に貴族たちなどを見事に活写した本書は古典好きならまずオススメです。
そうでない方にも学校で習ったはずの「枕草子」や「源氏物語」の時代がどのように流れ、人物が生きてきたかを知ることができる良書です。
学術書に分類はしましたが、読み物としての出来はかなりいいので、総評として良品と言っていいでしょう。


――【つれづれナビ!】――
 ◇ 『つれづれ総合案内所』へ


最新の画像もっと見る