『オーデュボンの祈り』 伊坂幸太郎

2010年05月28日 22時02分59秒 | 伊坂幸太郎


コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのか。(新潮文庫より引用)

この小説は伊坂幸太郎のデビュー作で、新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した作品。

まず設定からして、何でもありの小説。
①江戸時代から鎖国、いや、鎖島状態で
②外部から150年間誰も来ず
③ただ一人だけが外界と行き来しており
④未来が見えるカカシがいて
⑤殺人が許される人がいる
島。

ちょうど前の記事で書いた「失われた町」でも超現実的とかいたけど、この作品はそれを超える超現実。
何を書いても、ストーリーが面白ければ許される。

伊坂幸太郎は、いわばこんな作風で売れているんだから、別にそれは構わないと思うけど、
やっぱりまだ、デビュー作なんだなっていう感想はもちました。


ただ、おもしろいです。


★★★☆☆

『失われた町』 三崎亜紀

2010年05月20日 20時41分47秒 | 読書
難しいですね。



ある日、突然にひとつの町から住民が消失した――三十年ごとに起きるといわれる、町の「消滅」。不可解なこの現象は、悲しみを察知してされにその範囲を広げていく。そのため人々は悲しむことを禁じられ、失われた町の痕跡は国家によって抹消されていった……。残された者たちは何を想って「今」を生きるのか。消滅という理不尽な悲劇の中でも、決して失われることのない希望を描く傑作長編。(集英社文庫より引用)

三崎亜紀の小説は2冊目です。

三崎亜紀の小説の特徴として、

①ごくごく身近な町で起きている
②超現実的な
③今を描く

作品って気がします。

舞台は普通の町。ま、出てくるのは架空の町だけど、描かれているのは普通にあり得るような街並み。

その中で起きる、現実ではありえないSFチックな出来事。

ただそれは、未来で起きているとか、そういうのじゃなくて、「今」の出来事。



タイムスリップして、未来の世界を描くのは、完全に空想の話だから、何を書いたっていいわけ。
人類が超進歩してようが、機械と共生していようが。

ただ、三崎亜紀の場合は今を書いているのだから、そこに意志を持ったロボットや、進化した人類がいちゃいけないわけ。

でも、そんな制約条件の中でも、やっぱりリアルを超えた部分があるから、多少は人間の形も変わってていたしかたない。
その程度が問題であってね。

三崎亜紀は、その辺のさじ加減が絶妙というか、まあ、一部分でやりすぎじゃないかって思うこともあるけど、多くの箇所ではそれは適度であるといえる。

こういった作品だと、ストーリーに重きを置くことになって、「じゃあ一体何を伝えたかったのか?」、「なんでこの作品を書いたのか?」、そういった部分が見えなくなるんだよね。


そんな作品です。

★★☆☆☆

『使命と魂のリミット』 東野圭吾

2010年05月10日 23時41分30秒 | 東野圭吾
やっぱり東野圭吾は偉大



「医療ミスを公表しなければ病院を破壊する」突然の脅迫状に揺れる帝都大学病院。「隠された医療ミスなどない」と断言する心臓血管外科の権威・西園教授。しかし、研修医・氷室夕紀は、その言葉を鵜呑みにできなかった。西園が執刀した手術で帰らぬ人となった彼女の父は、意図的に死に至らしめられたのではという疑問を抱いていたからだ……。あの日、手術室で何があったのか? 今日、何が起こるのか? 大病院を前代未聞の危機が襲う。(角川文庫より引用)


この作品は、半分も読めば犯人や手口、動機など、主要な推理小説の根幹となる部分が分かります。
東野圭吾にとって、そこはサブストーリーであって、「一番言いたいこと」、それをより際立たせるためのお膳立てにすぎません。

医者というものの存在、医療ミス、親と子の関係、師弟関係、それらをひっくるめて、最後の一言に集約されるんじゃないかと思います。


「最後の一行」

それは、小説においてその出来を左右する締めくくり。
読者への訴えかけ。

その一行によって、その作品が、その本の中でとどまるのか、それとも、読者の心の中、そして世間に訴えかけるような外向的なものになるのか決まる。

自分は、この作品の最後の一行に、思わず微笑んでしまいました。

★★★★☆

『笑う警官』 佐々木譲

2010年05月08日 11時32分52秒 | 読書
映画化されたあの作品です。



 札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。遺体の女性は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。容疑者となった交際相手は、同じ本部に所属する津久井巡査部長だった。やがて津久井に対する射殺命令が出てしまう。捜査からはずされた所轄署の佐伯警部補は、かつて、おとり捜査で組んだことのある津久井の潔白を証明するために有志たちとともに、秘密裏に捜査を始めたのだったが……。北海道道警を舞台に描く警察小説の金字塔、「うたう警官」の文庫化。(ハルキ文庫より引用)

この作品のメインストーリーはほぼすべてが1日で終結する、臨場感があふれる作品です。
佐伯警部補ら数人の警官で一晩にして真犯人を突き止め、確保し、裏に潜む実情まで暴いていく。

正直、ストーリー的にはうまくいきすぎな部分があります。実際の捜査でこれほど順調に事件が解決されていくとは思えないし、真犯人がこうも簡単につかまり、自白するとは。
コナン・ドイルとかエルキュール・ポアロとか名探偵ものじゃあるまいし。
(名探偵ものは閉鎖的な空間であったり、登場人物がかなり限られていたりしているから、操作というよりどうやって犯行を行ったのかが重要なわけで、それを名探偵が上手に解き明かせばいいだけだから基本的に1日で終わりますよね)

でも、それを差し置いてこのスピード感、臨場感、なかなかの書き手だと思います。
それに警察小説といったら「警視庁」という常識を払しょくしてくれるところもいいですね。

★★★☆☆

『模倣犯(五)』 宮部みゆき

2010年05月03日 15時08分55秒 | 宮部みゆき
長かったこの話も完結です。



 真犯人Xは生きている――。網川は、高井は栗橋の共犯者ではなく、むしろ巻き込まれた被害者だと主張して、「栗橋主犯・高井従犯」説に拠る滋子に反論し、一躍マスコミの寵児となった。由美子はそんな網川に精神的に依存し、兄の無実を信じ共闘していたが、その希望が潰えた時、身を投げた――。真犯人はいったい誰なのか? あらゆる邪悪な欲望を映し出した犯罪劇、深い余韻を残してついに閉幕!(新潮文庫より)

全五巻中の五巻目です。

今回は今まで四巻にわたって事件の詳細が語られてきたので、誰がどのようにやったかということはもう眼中にありません。

誰が、どうやって真相を暴き、真犯人を追いつめるのか。

前畑滋子か。
有馬義男か。
塚田真一か。
警察か。
あるいは真犯人が暴走し、、、。

そこにいかに樋口めぐみが、水野久美が、“建築屋”が、前畑昭二が・・・。


と、書きましたが、話はそんなことではありません。笑

確かにこの中の誰かが真相に近づいていきます。
一人か二人か三人か。。。それは自分読み進めてください。

宮部みゆきが書きたかったのはそんな事件の究明とか、トリックの解読とか、そんなことじゃないんです。

ここで自分が感じたこと書いても意味がないことです。
ちょっと逃げですけどね。
それぞれが感じることが重要ですから。

自分はまだ宮部みゆきが言いたかったことのほんの一部しか読みとれてないと思います。
もっと勉強です!



『模倣犯(四)』 宮部みゆき

2010年05月03日 14時57分16秒 | 宮部みゆき
話も完結に向かっていきます。



 特捜本部は栗橋・高井を犯人と認める記者会見を開き、前畑滋子は事件のルポを雑誌に掲載し始めた。今や最大の焦点は、二人が女性たちを拉致監禁し殺害したアジトの発見にあった。そんな折、高井の妹・由美子は滋子にあって、「兄さんは無実です」と訴えた。さらに、二人の同級生・網川浩一がマスコミに登場、由美子の後見人として注目を集めた――。終結したはずの事件が再び動き出す。(新潮文庫より)

模倣犯5巻中の4巻目です。


あまり話の内容に入ると、初期の物語のネタばれになってしまうから、気をつけながら書かないといけないのがつらいです。

この回ではあまり話に進展がありません。
5巻でうまく話をまとめるための序章といった感じでしょうか
だから、読んでいてもなかなか疲れるというか。
ちょっと中休み的な部分です。
まあ、最初から最後まで突っ走れるような、そんなに短い作品でもないから難しいところですが。

ただ、最初のころからのキーパーソンである「ピース」の神話が崩れてくる。
高井由美子と樋口めぐみの対比。

その辺は見どころでしょうか。