『船を編む』 三浦しをん

2015年04月19日 14時57分09秒 | 三浦しをん
2012年の話題作がついに文庫化です!



「玄武書房に勤める馬締光也は営業部では変人として持て余されていたが、新しい辞書『大渡海』編纂メンバーとして辞書編集部に迎えられる。個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく。しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか──。言葉への敬意、不完全な人間たちへの愛おしさを謳いあげる三浦しをんの最新長編小説。 」(BOOKデータベースより)

私が読んでいい話だなあと思ったら、最後に表紙を見るんですよ。
いい話を読んだ後に、いい表紙を見ると、そこにすべてが凝縮されていて、すべてが丸く収まるみたいな。

この作品の表紙は、「用例採集カード」を中心に、鳥やら魚やら貝やら、いろんなものが書かれています。
これをみてどう感じるかは人それぞれかと思いますが、私はいい表紙だなと感じたわけです。

さて、この作品はある出版社の辞書編集部で新しい辞書を出版するために奔走する人たちのお話。
主人公はまじめ君こと馬締光也。
自他ともに認める変人だった馬締は営業部から辞書編集部に異動することで、めきめきと実力を発揮するようになる。
そもそも言葉に対する感性が鋭い人なんです。
そんな馬締たちが新しい辞書「大渡海」を編纂するまでの10年を超す月日の物語です。

私が勝手にいい物語の条件と言っているのが
(1)必要最小限の登場人物
(2)意味のないうんちくが書かれていない
の二つなんです。
登場人物が多すぎると、視点が増えすぎて物語に集中できないし
意味のないうんちくは、自分のためになっても、作品の邪魔ものにしかならない。

この「削る」作業というのが、作品をより良いものへと変えていくことだと思います。
削ることで、シンプルかつ的確な表現となって読者を引き込む。
これは辞書でも同じことかなと。

そういったことができる三浦先生が辞書編纂を題材にした作品を書かれたということで、
とても締りのあるよい作品になっているのかと、勝手に思っていたしだいでございます。

『星間商事株式会社 社史編纂室』 三浦しをん

2014年06月22日 16時47分52秒 | 三浦しをん
毎回遅くなって申し訳ないですが、今日も何作か紹介します。


「川田幸代29歳は社史編纂室勤務。姿が見えない幽霊部長、遅刻常習犯の本間課長、ダイナマイトボディの後輩みっこちゃん、「ヤリチン先輩」矢田がそのメンバー。ゆるゆるの職場でそれなりに働き、幸代は仲間と趣味(同人誌製作・販売)に没頭するはずだった。しかし、彼らは社の秘密に気づいてしまった。仕事が風雲急を告げる一方、友情も恋愛も五里霧中に。決断の時が迫る。」(BOOKデータベースより)

星間商事は中堅商社。
創立60周年を記念して作成する予定だった社史だが、60周年記念式典も終わっても一向に出来上がる気配のない社史。
メンバーは、誰も見たことのない幽霊部長、遅刻して仕事もしない課長、合コンに必死のみっこちゃんと矢田、そして同人誌が趣味の幸代。

とある偶然により、この社史編纂室で同人誌を作ることになる。
しかし、幸代以外は同人誌も素人。

そんななか、幸代たち社史編纂室の面々は会社の過去の暗い事実について気づき始めるのだった。
しかし、その事実を確かめるため取材を進めていると、どこからか妨害が。
暗い過去に隠された存在とは。


小説内の小説みたいな感じで、キーポイントが説明されていく感じは昔からあるんですかね。
しをんさんらしく、次が気になる感じとか、意外なところがつながったりとか飽きさせないところがいいですね。

簡単ですいません。

『光』 三浦しをん

2013年12月12日 20時19分03秒 | 三浦しをん
ときにすごい伝えたくて仕方ない作品に出会う。



「島で暮らす中学生の信之は、同級生の美花と付き合っている。ある日、島を大災害が襲い、信之と美花、幼なじみの輔、そして数人の大人だけが生き残る。島での最後の夜、信之は美花を守るため、ある罪を犯し、それは二人だけの秘密になった。それから二十年。妻子とともに暮らしている信之の前に輔が現れ、過去の事件の真相を仄めかす。信之は、美花を再び守ろうとするが―。渾身の長編小説。 」(BOOKデータベースより)


強い作品。
これほど強い作品に出会うことはなかなかない。

主人公の信之は美浜島で生まれ育つ。住民は271人。
子供は少なく、小学校と中学校の校舎は合同で、信之の学年にはほかに美花がいるだけだった。
美花は芸能界にスカウトされるほどの美貌だったが、学校ではそっけない付き合いになっていた。

信之は美花の親が経営するバンガローで美花とひそかにセックスをするのが楽しみで生きていた。
ただ、このところは客が入っており、バンガローが使えない。
そしてバンガローに泊まっている客は美花に色目を使っているらしいのだった。

そんなある夜、美花は信之を山の上の神社に呼び出した。
夜中に家を抜け出した信之は幼馴染の輔とであってしまう。
輔は父親に暴力を振るわれており、体のあちこちに痣や傷が絶えなかった。

仕方なく信之は輔とともに山を登って美花に会いに行った。
美花と会ってまもなく三人は海の異変に気付く。
海の先にある水平線に見える一筋の線は、やがて島を飲み込む大津波となった。
輔は暴力をふるう父親が死ぬことを喜び、街のみんなが死ぬことを喜んだ。
津波は信之と美花、輔、そして数人の大人を残して全員が死亡した。
しかし、輔に暴力をふるっていた輔の父親と、美花に色目を使っていた客人・山中は生き延びていたのだった。

しばらくは学校で寝泊まりをしていたが、あるとき信之は美花と山中の姿がないことに気付く。
変に思った信之は二人を捜しに神社のある山に登る。
そこで、信之は山中が美花を襲っているところを目撃する。
信之は、美花を助けるべく、山中に手をかけるのだった。

ここに始まった暴力の連鎖が、やがて信之を延々と苦しめることになるのだった。


と、長々と紹介してしまいましたが、ここまでが物語の序盤ですね。
このあと三人は離れ離れになってそれぞれが生活してくのですが、そこがとてもつらくて重い。
だれにもひとりくらいずっと忘れることのできない人がいるものですが、信之も結婚して子供を持っていながらも美花のことが忘れられない。
本能のように美花を守ることを優先してしまう。
輔も父から逃れられず、信之のことを頼ってしまう。
一見利用し、利用されている関係のように見えながらも、実はその逆もしかりだったり。
そこに信之や輔の周辺にいる人たちが巻き込まれ、苦しみながらも生きていく。
決して安易に死にのがれたりしない。安易と言っちゃいけないかもしれないけど。

タイトルの「光」というものが何を意味するのか、この物語が何を語っているのかというのは人それぞれでいいと、作者は言っています。
ぼくがこの作品にすごく惹かれたのが信之の感情。
愛してやまない人を心に秘めながら、日々を過ごしている。だからほかの人を愛せない。
すべてが演技のようになってしまう。だが、それがその人を思っているかのように見えるから、はたから見るといい人に見える。
それがまた苦しい。

重要な役割を果たす信之の妻・南海子も。
夫を支え、思い通りにいかない子供に苦悩しながらも、必死に生きている。
夫に疑いをかけながらも、近所の人を疎みながらも日々をこなしている姿。
背伸びしたいのにうまくできないから子供にあたってしまう。
不器用な子供に不器用な親。
ことばではうまく伝えられないけど、読んで感じてもらえたらと思います。

ここに書ききれないこともたくさんありますので、ぜひ読んでもらってぼくと語らいましょう。

『神去なあなあ日常』 三浦しをん

2013年09月10日 21時09分33秒 | 三浦しをん
涼しいですね。



「美人の産地・神去村でチェーンソー片手に山仕事。先輩の鉄拳、ダニやヒルの襲来。しかも村には秘密があって…!?林業っておもしれ~!高校卒業と同時に平野勇気が放り込まれたのは三重県の山奥にある神去村。林業に従事し、自然を相手に生きてきた人々に出会う。」)(BOOKデータベースより)


主人公の平野勇気は高校の成績も芳しくなく、高校を卒業したらしばらくフリーターをするつもりでいた。
しかし、担任から突然就職先を見つけてきたと告げられ、両親にも半ば強引に家を出された。
向かった先は三重県にある神去(かむさり)という小さな小さな村。
勇気はそこで林業に従事することになった。
神去についたとたんから逃げ出したくなった勇気だったが、携帯の電池パックは捨てられ(むしろ圏外)、24時間監視されるような生活で逃げ出すことも許されなかった。
そんななかで、勇気は中村林業という会社で働くことになった。
そこは駅からさらに何十分も車で走った奥地で、車を運転することもできない勇気は完全に逃げ場を失ったのだった。
そんな勇気は、山でもまれ、祭りでもまれ、強くたくましく成長していく。
神去で起こる、濃くて危なくて楽しい生活の始まりでした。


三浦氏らしい作品というか。
なんてこっちゃないストーリーなんだけど、読者を引き込ませ、ぐいぐい進めていくところはさすがです。
林業っていう、ほとんどの人にはなじみのない世界。
それを紹介してくれた作品です。
田舎だからか、人間関係がこゆくて。
噂は瞬く間に広がって、秘密はできない。
そんな小さな村だからこそ広がる話があるってものです。

とても読みやすい作品となっております。

★★★☆☆

next...「幻想映画館」堀川アサコ
趣味はシリトリ。ちょっぴり学校に行きたくない高校生・スミレは、「不思議なもの」がよく見える。ある日、「不思議なもの」と同時に父の不倫現場を目撃。後を追い、商店街の映画館に迷い込む。そこで生まれて初めての恋をしたはいいが、失踪事件に巻き込まれ―生死の狭間に繰り広げられる癒し小説。 (BOOKデータベースより)

『まほろ駅前番外地』 三浦しをん

2012年11月18日 08時24分33秒 | 三浦しをん
Sundaymorningにコメダからの投稿ですw



「東京都南西部最大の町・まほろ市の駅前で便利屋を営む多田と、高校時代の同級生・行天。汚部屋清掃、老人の見舞い、庭掃除に遺品整理、子守も料理も承ります―。多田・行天の物語とともに、前作でお馴染みの星、曽根田のばあちゃん、由良、岡老人の細君が主人公となるスピンアウトストーリー七編を収録。」(BOOKデータベースより)

ご存知の方も多いかとは思いますが、「まほろ駅前多田便利軒」(以下便利軒)の続編?いや、スピンオフ?どっちでもないような感じですが、便利軒の1年後ぐらいを描いた作品になってます。

便利軒の登場人物も多く出てきて、というかほとんど出てきているでしょうか。便利軒の話を受け継いで、それを補完するかのような話になっています。

認知症の曾根田のおばあちゃんのお見舞いの話ではおばあちゃんの過去の恋愛ストーリーが出てきたり、あぶないアルバイトをしていた由良がまた危ない橋を渡ったり、バスの間引き運転を指摘したい岡老人の奥さんの心情がわかったり。多田と行天が喧嘩したり。
多田が恋したり・・・(本当?)


短編小説なので短い時間でも読み切りやすいし、全体的に難しい話は出てこないし、ほんわかしたムードがあって心地作品でした。
まあ、基本的に私は短編が好きじゃないので(なら読むな)、評価はそれほどになってしまいますけどねー。

ま、でも行天がいいキャラしてるので、ちょっと盛っておきます。


★★★★☆

next...「主よ、永遠の休息を」誉田哲也
通信社社会部の記者・鶴田吉郎は、コンビニ強盗の犯人逮捕を偶然スクープ。現場で遭遇した男から、暴力団事務所の襲撃事件について訊ねられた吉郎は、調査の過程で、14年前に起きた女児誘拐殺人事件の“実録映像”がネット配信されていたことを知る。犯人は精神鑑定で無罪とされていた…。静かな狂気に呑み込まれていく事件記者の彷徨を描いた傑作、待望の文庫化。 (BOOKデータベースより)

『風が強く吹いている』三浦しをん

2010年09月27日 18時38分04秒 | 三浦しをん
「箱根駅伝を走りたい――そんな灰二の想いが、天才ランナー走と出会って動き出す。「駅伝」って何? 走るってどういうことなんだ? 十人の個性あふれるメンバーが、長距離を走ること(=生きること)に夢中で突き進む。自分の限界に挑戦し、ゴールを目指して襷を繋ぐことで、仲間と繋がっていく……風を感じて、走れ!「速く」ではなく「強く」――純度100%の疾走青春小説。」


スポ根青春小説です。竹青荘の住人10人でいどむ箱根駅伝。ほとんどが素人のメンバーで、強豪に挑んでいくストーリーです。

三浦しをんらしい軽快な書きっぷりと、先はある程度読めちゃう感があるけど、それを乗り越え、有り余るほどの構成力。

スポ根小説っていったら、弱小が強豪に打ち勝つってのが規定路線で、でもそれでも先が気になって仕方ないです。


爽やかになりたいときに。

★★★★☆

『まほろ駅前多田便利軒』 三浦しをん

2010年03月14日 22時20分35秒 | 三浦しをん


まほろ市は東京のはずれに位置する都南西部最大の町。駅前で便利屋を営む多田啓介のもとに高校時代の同級生・行天春彦がころがりこんだ。ペットあずかりに塾の送迎、納屋の整理etc.―ありふれた依頼のはずがこのコンビにかかると何故かきな臭い状況に。多田・行天の魅力全開の第135回直木賞受賞作。(「BOOK」データベースより)


直木賞受賞作ということで、初めて三浦しをんさんの本を手にとりました。
内容はまあ、上に書いたとおりです。

便利屋の多田、その高校時代の同級生の行天のお話。
最初は、何なんだろうこの物語は・・・っていう感じに進んでいきます。
一冊の本の中にいくつかのストーリーがあって、それぞれ章が分かれて書いてあるんだけど、話は全部つながっていて、短編チックな長編っていうい感じ。
テイストは全然違うけど、白夜行とかそんなかんじ。
読めば読むほどわかってくる多田の過去、行天の過去。
一緒に住んでいる間に芽生えてくる友情らしきもの。

子供への愛情。家族というもの。友情。
そういったものが改めて認識させられるような、そんな作品です。

愛。

読めば読むほど、三浦ワールドに引き込まれていく。
納得の直木賞受賞作。

どうぞごらんあれ。