『ナイフ』 重松清

2015年10月11日 15時25分06秒 | 重松清
忙しくても暇でも更新が遅れますね。
しばらく頑張ります。



「「悪いんだけど、死んでくれない?」ある日突然、クラスメイト全員が敵になる。僕たちの世界は、かくも脆いものなのか!ミキはワニがいるはずの池を、ぼんやりと眺めた。ダイスケは辛さのあまり、教室で吐いた。子供を守れない不甲斐なさに、父はナイフをぎゅっと握りしめた。失われた小さな幸福はきっと取り戻せる。その闘いは、決して甘くはないけれど。坪田譲治文学賞受賞作。 」(BOOKデータベースより)


重松清の悲しくて幸せな短編集。

悲しくて幸せとは何ぞやっていうところでしょうが、
基本的には悲しいいじめの話。

ある朝学校に行ったらみんなから無視され始めた話。
いじめられている子供の親の話。
ひ弱な子供に強く当たってしまう父親の話。
病気に苦しむ妹と強い転校生に悩むお兄ちゃんの話。
担任教師の方針に納得できない母親に悩む父親の話。

悲しい話の後にハッピーエンドがあったりなかったり。
短編集なので詳しいことは書きませんが、

子供と子供
子供と親
学校と親

そんな現代社会の抱える問題を考えさせられる作品でした

『きみ去りしのち』 重松清

2013年04月18日 20時13分17秒 | 重松清
春の陽気というより、初夏だね。

「幼い息子を喪った「私」は旅に出た。前妻のもとに残してきた娘とともに。かつて「私」が愛した妻もまた、命の尽きる日を迎えようとしていたのだ。恐山、奥尻、オホーツク、ハワイ、与那国島、島原…“この世の彼岸”の圧倒的な風景に向き合い、包まれて、父と娘の巡礼の旅はつづく。鎮魂と再生への祈りを込めた長編小説。」(BOOKデータベースより)


「旅をしている。」

9章にわたるこの作品ですが、ほぼ必ずこの言葉からはじまります。
文字通り主人公である関根が日本中を旅してまわる話です。

関根と妻・洋子のもとに生まれた夕紀也は生後1年と10日で心臓が止まってしまった。
あまりに早すぎる死に、自分を責めることしかできない関根と洋子。
なぜ心臓が止まってしまう前に気付くことができなかったのか。
もしも心臓が止まってしまう前に気付くことができていたら。
自問自答は終わることなく二人を苦しめていた。

関根は2回目の結婚だった。
前の妻である美恵子の間に生まれた明日香は5歳のとき離婚して以来、会うこともなかったのだが、ふとしたきっかけで10年ぶりに再会した。
そしてふとしたきっかけで、関根と明日香は一緒に旅をすることになる。
青森の恐山では風車に見立て、奥尻島では津波でなくなった人たちの悲しみを乗り越えて暮らす人たちに自分を重ねる。
旅を重ねるうちに、関根はいろいろな風景と人たちに出会うのだった。

洋子はそんな関根と居るのがつらくなってしまう。
関根と一緒に居ないときは眠れるのに、一緒には眠れない。
二人には離婚の危機が迫っていた。

そして美恵子は病魔に襲われることになる。
刻一刻と容体が悪化していく恵美子によりそう明日香。

死と、悲しみと、苦しみと、それを乗り越えた人たちの、悲しくて明るい物語です。


旅をしていくたびに、関根と明日香は壮大な景色に心を奪われたり、強く生きる人たちに心励まされたりします。
突然子を亡くしてしまった親と、親とに別れが徐々に近づく子。
すれ違っているような二人も悲しみや苦しみを乗り越えていく。

重松清の切り取った「死」はあまりに悲しく、辛いものだけど、そこを乗り越えていく人たちにこころ揺れ動かされるような作品です。

飲み会の前には読まないことをお勧めします。w

★★★★☆

next...「スナーク狩り」宮部みゆき
その夜―。関沼慶子は散弾銃を抱え、かつて恋人だった男の披露宴会場に向かっていた。すべてを終わらせるために。一方、釣具店勤務の織口邦男は、客の慶子が銃を持っていることを知り、ある計画を思いついていた。今晩じゅうに銃を奪い、「人に言えぬ目的」を果たすために。いくつもの運命が一夜の高速道路を疾走する。人間の本性を抉るノンストップ・サスペンス。(BOOKデータベースより)

『十字架』 重松清

2013年01月07日 20時22分34秒 | 重松清
あけましておめでとうございます。新年早々、重たい内容になりました。



「いじめを苦に自殺したあいつの遺書には、僕の名前が書かれていた。あいつは僕のことを「親友」と呼んでくれた。でも僕は、クラスのいじめをただ黙って見ていただけだったのだ。あいつはどんな思いで命を絶ったのだろう。そして、のこされた家族は、僕のことをゆるしてくれるだろうか。吉川英治文学賞受賞作。」(BOOKデータベースより)

どう紹介していいのか、まだ迷いながらですが、思いつくままに紹介します。いつにもまして駄文になること必須ですが、ご容赦ください。

主人公は、ごく平凡な中学2年生の真田裕。
裕のクラスではいじめが発生していた。いじめられていたのは藤井俊介。
裕と俊介は幼なじみではあったけど、中学生になってからは特に交流もなかった。
いじめのメインだったのが三島と根本。二人は前々から悪ガキでお互い仲も悪かったのだが、担任に抑え込まれた二人はいじめをすることでストレスを発散していたのだった。
これに堺を加えた3人が主にいじめをしていた。
そして、そのほかのクラスメイトは、自分に火の粉がかかるのを恐れ、また興味がなかったのか、見て見ぬふりをしていたのだった。

ある日、俊介は自宅で首をつって死んだ。中2の9月4日だった。
そして遺書にはこう書いてあった。

 真田裕様。親友になってくれてありがとう。ユウちゃんの幸せな人生を祈っています。
 三島武大。根本晋哉。永遠にゆるさない。呪ってやる。地獄に堕ちろ。

そして、

 中川小百合さん。迷惑をおかけして、ごめんなさい。誕生日おめでとうございます。幸せになってください。

中川さんは、おそらく俊介が片思いしていたのだろう。

なぜ、俊介は中川さんに謝るのか。
俊介は死ぬ直前に中川さんに電話し、プレゼントを渡したいと申し出たのだった。
しかし、特に仲も良くない中川さんはそれを固辞し電話を切ったのだった。
その後、俊介は首をつった。中川さんの誕生日に。

俊介のお母さんは、泣き、衰え、病に倒れてしまう。
お父さんはいじめをしていた人も、それを見て見ぬふりをしていた同級生たちも決して許すことはできない。
弟の健介はなにもしなかった同級生たちに強く当たるようになってしまう。

そして重要な人物があと2人。
地元のブロック紙の記者である本多薫さん。
本多さんは時に中川さんの心の支えになり、時に遺族と裕と中川さんの橋渡しをすることになる。
そしてフリーライタ―の田原昭之さん。
田原さんはみて見ぬふりをする人を決して許すことができず、それを批判する記事を多く書いている記者であった。

知らぬ間に遺書に名前を書かれてしまった裕と中川さんは十字架を背負い続けることができるのか。
いじめで同級生を殺してしまった三島と根本はどうなるのか。
両親と弟は立ち直り、同級生たちを許すことができるのか。
本多さんと田原さんの願いは。
みて見ぬふりをした同級生に罪はないのか。

そして、俊介は何を思い、死を選んだのか。

重くて辛い内容ですが、この本を通じ何を思い何を感じ、そしてどう行動するのか。
年の初めに考えてみるのもいいかもしれませんね。

★★★★☆

next...「真夜中のパン屋さん 午前2時の転校生」大沼紀子
夜が深まる頃、暗闇に温かい灯りをともすように「真夜中のパン屋さん」はオープンする。今回のお客様は希実につきまとう、少々変わった転校生。彼が企む“計画”によりパン屋の面々は、またもや事件に巻き込まれていく。重く切なく、でも優しい、大人気シリーズ第3弾。 (BOOKデータベースより)

『とんび』 重松清

2012年07月09日 18時39分05秒 | 重松清
最近ときどきブログランキングに載るようになりました。ありがとうございます。




「昭和三十七年、ヤスさんは生涯最高の喜びに包まれていた。愛妻の美佐子さんとのあいだに待望の長男アキラが誕生し、家族三人の幸せを噛みしめる日々。しかしその団らんは、突然の悲劇によって奪われてしまう―。アキラへの愛あまって、時に暴走し時に途方に暮れるヤスさん。我が子の幸せだけをひたむきに願い続けた不器用な父親の姿を通して、いつの世も変わることのない不滅の情を描く。魂ふるえる、父と息子の物語。 」(BOOKデータベースより)


とんび(とび)が鷹を産む。

=平凡な親がすぐれた子を生むことのたとえ。

不器用な父親(ヤスさん)と息子(アキラ)の物語。

昭和の父親というものを俺は知らない。
むしろ平成の父親も知らない。

だが、理論よりも情や直感で生きているようなヤスさんには、昭和の父親という称号がとっても似合うのじゃないかと思う。
アキラが幼い時に事故で母親(美佐子)を失くしてしまう。
アキラをかばって死んだ美佐子。
その事実をアキラに伝えることができず、一人心の奥底に秘めているヤスさん。
不器用ながらも、アキラを愛し、懸命に子育てをするヤスさんにとっても感動してしまいました。
電車で涙流してたら、変な人に思われるじゃないですか。
いや、変な人かもしれないけど。

去年、父親を亡くしてからか、こういった親の愛を描いたような物語に弱くなってます。
親と別れて長い人、親に反抗的な態度しか取れない人、そして親のことが大好きなあなたに読んでほしい一冊です。


★★★★★

next...「5年3組リョウタ組」石田衣良
希望の丘小学校5年3組、通称リョウタ組。担任の中道良太は、茶髪にネックレスと外見こそいまどきだけれど、涙もろくてまっすぐで、丸ごと人にぶつかっていくことを厭わない25歳。いじめ、DV、パワハラに少年犯罪…教室の内外で起こるのっぴきならない問題にも、子どもと同じ目線で真正面から向き合おうと真摯にもがく若き青年教師の姿を通して、教育現場の“今”を切り取った、かつてなくみずみずしい青春小説。 (BOOKデータベースより)

『ビフォア・ラン』 重松清

2011年06月21日 21時12分26秒 | 重松清
復帰第一弾


「授業で知った「トラウマ」という言葉に心を奪われ、「今の自分に足りないものはこれだ」と思い込んだ平凡な高校生・優は、「トラウマづくり」のために、まだ死んでもいない同級生の墓をつくった。ある日、その同級生まゆみは彼の前に現れ、あらぬ記憶を口走ったばかりか恋人宣言してしまう―。「かっこ悪い青春」を描ききった筆者のデビュー長編小説。」(「BOOK」データベースより)

私たちの生きている世界は、どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか。

たとえば、美容師になりたい人が美容師になりたい理由は「モテそうだから」で、本当は美容師になりたい確固たる理由がない人が「美容師になりたい」っていうのは嘘なのかとか。
そう突き詰めて考えていくと、この世の中のほとんどは嘘で成り立っている。
嘘っていうのが極端なら、建前ってことかな。

少しネタばれになるけど、今までまじめな生徒を演じてきた高校生が苦しくなって、病気で自分の思い込みがほんとのことと思ってしまっている人の思い込みにつきあって、本当になりたい自分(思い込みの世界の自分)になる。
まじめな自分と、思い込みの世界の自分はどっちが本当でどっちが嘘なのかはわかんないよね。
現実はまじめな生徒なんだけど、本当はもっと自分勝手に生きていきたいと思ってるんだから。

自分に嘘ついて、できない勉強を必死になってやっているとそれが日常になって、できない勉強をできるようになる。でも本当は勉強はしたくないし、大学受験なんかしたくないのかもしれないし。

そんな悩める高校生のお話。


重松清の手にかかると、どんな日常も活きた文章へと様変わりする。
それは重松清のデビュー作でも同じでした。
本当に心地よい文章を書く作家さんで、お勧めです。

★★★☆☆

『定年ゴジラ』重松清

2010年09月19日 21時28分44秒 | 重松清
久しぶりにかく気になりました。

『開発から30年、年老いたニュータウンで迎えた定年。途方に暮れる山崎さんに散歩仲間ができた。「ジャージは禁物ですぞ。腰を痛めます。腹も出ます」先輩の町内会長、単身赴任で浦島太郎状態のノムさん、新天地に旅立つフーさん。自分の居場所を探す四人組の日々の哀歓を暖かく描く連作。「帰ってきた定年ゴジラ」収録の完成版』(講談社文庫より引用)


本の感想としてよく使われるのが「次が気になって仕方ない」、「ページをめくる手が止まらない」といった表現がまま見られますね。このブログの読者の皆さんはよくご存じでしょう。自分も使います。


この本の感想としては、


「次を読みたくない」


があったんです。


次に進みたくない。




何でかって言うと…


「今読んでるこの文章が心地よすぎて、終わらせたくない」

から。

「この文章にずっと浸っていたい。」

から。


それだけの文章力、構成力、観察力。さすがといったところ。


定年になったサラリーマンが、老後にすることがなくて退屈で、活力がなくなった定年ゴジラたちが、どう生き甲斐を見つけていくかと言うストーリーです。けしてアドベンチャーみたいなスリリングでエキサイティングな展開がある訳じゃなく、ミステリーみたいにあっと驚くトリックがある訳じゃなく(ただ、最近のミステリーはただただトリックだけで話を進めるんじゃなくて、物語性だったり、人間らしさが求められていたりするんだけど)、ラブストーリーみたいに最高の愛がある訳じゃなく、ただただ定年のおっさんたちの物語。だけども、そこにこれだけの魅力を書き込み、読ませる技術はさすがです。


おすすめですね。

☆☆☆☆★

『カシオペアの丘で』 重松清

2010年06月16日 20時04分11秒 | 重松清


丘の上の遊園地は、俺たちの夢だった――。肺の悪性腫瘍を告知された三十九歳の秋、俊介は二度と帰らないと決めていたふるさとへ向かう。そこには、かつて傷つけてしまった友がいる。初恋の人がいる。「王」と呼ばれた祖父がいる。満天の星がまたたくカシオペアの丘で、再開と贖罪の物語が、静かに始まる。(講談社文庫より引用。下巻は略)

ヒューマンストーリー。


久しぶりに涙した。
39歳という若さで癌に侵された俊介。
余命半年と診断された男を中心とした、人情味あふれるものがたり。


なぜ俊介は故郷である北都を離れなければならなかったのか。
なぜ俊介は親友を傷つけてしまったのか。
王と呼ばれた祖父はなぜ冷徹な対応をし続けているのか。


「命」というものを、これほどに胸に訴えかけてくる作品はなかなかない。

これは、俺の憧れでもあるかもしれない。

故郷を捨て、家を捨て、親友を捨て、やってきた東京。
死にゆくことは、とても悲しい。つらい。
けど、それと向き合うことで、今まで許せなかったことに立ち向かう勇気を得られたのかもしれない。


★★★★☆