『光』 三浦しをん

2013年12月12日 20時19分03秒 | 三浦しをん
ときにすごい伝えたくて仕方ない作品に出会う。



「島で暮らす中学生の信之は、同級生の美花と付き合っている。ある日、島を大災害が襲い、信之と美花、幼なじみの輔、そして数人の大人だけが生き残る。島での最後の夜、信之は美花を守るため、ある罪を犯し、それは二人だけの秘密になった。それから二十年。妻子とともに暮らしている信之の前に輔が現れ、過去の事件の真相を仄めかす。信之は、美花を再び守ろうとするが―。渾身の長編小説。 」(BOOKデータベースより)


強い作品。
これほど強い作品に出会うことはなかなかない。

主人公の信之は美浜島で生まれ育つ。住民は271人。
子供は少なく、小学校と中学校の校舎は合同で、信之の学年にはほかに美花がいるだけだった。
美花は芸能界にスカウトされるほどの美貌だったが、学校ではそっけない付き合いになっていた。

信之は美花の親が経営するバンガローで美花とひそかにセックスをするのが楽しみで生きていた。
ただ、このところは客が入っており、バンガローが使えない。
そしてバンガローに泊まっている客は美花に色目を使っているらしいのだった。

そんなある夜、美花は信之を山の上の神社に呼び出した。
夜中に家を抜け出した信之は幼馴染の輔とであってしまう。
輔は父親に暴力を振るわれており、体のあちこちに痣や傷が絶えなかった。

仕方なく信之は輔とともに山を登って美花に会いに行った。
美花と会ってまもなく三人は海の異変に気付く。
海の先にある水平線に見える一筋の線は、やがて島を飲み込む大津波となった。
輔は暴力をふるう父親が死ぬことを喜び、街のみんなが死ぬことを喜んだ。
津波は信之と美花、輔、そして数人の大人を残して全員が死亡した。
しかし、輔に暴力をふるっていた輔の父親と、美花に色目を使っていた客人・山中は生き延びていたのだった。

しばらくは学校で寝泊まりをしていたが、あるとき信之は美花と山中の姿がないことに気付く。
変に思った信之は二人を捜しに神社のある山に登る。
そこで、信之は山中が美花を襲っているところを目撃する。
信之は、美花を助けるべく、山中に手をかけるのだった。

ここに始まった暴力の連鎖が、やがて信之を延々と苦しめることになるのだった。


と、長々と紹介してしまいましたが、ここまでが物語の序盤ですね。
このあと三人は離れ離れになってそれぞれが生活してくのですが、そこがとてもつらくて重い。
だれにもひとりくらいずっと忘れることのできない人がいるものですが、信之も結婚して子供を持っていながらも美花のことが忘れられない。
本能のように美花を守ることを優先してしまう。
輔も父から逃れられず、信之のことを頼ってしまう。
一見利用し、利用されている関係のように見えながらも、実はその逆もしかりだったり。
そこに信之や輔の周辺にいる人たちが巻き込まれ、苦しみながらも生きていく。
決して安易に死にのがれたりしない。安易と言っちゃいけないかもしれないけど。

タイトルの「光」というものが何を意味するのか、この物語が何を語っているのかというのは人それぞれでいいと、作者は言っています。
ぼくがこの作品にすごく惹かれたのが信之の感情。
愛してやまない人を心に秘めながら、日々を過ごしている。だからほかの人を愛せない。
すべてが演技のようになってしまう。だが、それがその人を思っているかのように見えるから、はたから見るといい人に見える。
それがまた苦しい。

重要な役割を果たす信之の妻・南海子も。
夫を支え、思い通りにいかない子供に苦悩しながらも、必死に生きている。
夫に疑いをかけながらも、近所の人を疎みながらも日々をこなしている姿。
背伸びしたいのにうまくできないから子供にあたってしまう。
不器用な子供に不器用な親。
ことばではうまく伝えられないけど、読んで感じてもらえたらと思います。

ここに書ききれないこともたくさんありますので、ぜひ読んでもらってぼくと語らいましょう。

『限界集落株式会社』 黒野伸一

2013年12月12日 20時18分50秒 | 読書
3つ目です。すいません。

「起業のためにIT企業を辞職した多岐川優が、人生の休息で訪れた故郷は、限界集落と言われる過疎・高齢化のため社会的な共同生活の維持が困難な土地だった。優は、村の人たちと交流するうちに、集落の農業経営を担うことになった。現代の農業や地方集落が抱える様々な課題、抵抗勢力と格闘し、限界集落を再生しようとするのだが…。集落の消滅を憂う老人達、零細農家の父親と娘、田舎に逃げてきた若者。かつての負け組が立ち上がる!過疎・高齢化・雇用問題・食糧自給率、日本に山積する社会不安を一掃する逆転満塁ホームランの地域活性エンタテインメント。 」(BOOKデータベースより)

初めて読ませていただいた作家さんです。

複数の視点で書かれていますが、主人公は多岐川優。
優はIT企業に勤めていたが、独立し友人と開業するまでの合間、父親の田舎ですごして羽を伸ばそうと考えていた。
優が訪れたのが限界集落・止村(とどめむら)。
まず名前からしてすごいところ。とどめ。
人口はわずか数十人で子供は数えられる程度。
役場にも見捨てられ、バスも通らず、郵便局もない。
子供たちはそこらじゅうでおしっこをしたり、近所の人が勝手に家に上がってご飯を作り始めたり。
とにかく人と人の距離が近い。

そんな集落で、優は農業ビジネスを始めようと決心する。
それぞれが別々に耕していた田畑を統合し、商品価値の低い稲作をやめて低農薬の野菜を作る。
そして農協への依存をやめ、競争原理を農村に持ち込んだのだ。

住民たちの説得や、役場や農協の抵抗、そして新規開拓する顧客になかなか振り向かれないなど、困難に立ち向かいながらも、やがて止村ブランドを構築していった優たちだったが、ある日村で大事件が起きるのだった。
優や止村の住民は、村を守り生き続けることができるのか。


題材はどうであれ、ビジネス系の作品です。
池井戸潤さんさんに近いですかね。

ま、細かいところはどうであれ、なかなか引き込まれる作品でした。
ぼくも気になっていた農業ビジネスってのもあるかもしれませんが。

すこしというか結構、いいように話を進めすぎな感はありますが、最後のほうは手に汗握る話ですね。


『花の鎖』 湊かなえ

2013年12月12日 20時06分04秒 | 読書
連投2つ目です。

「両親を亡くし仕事も失った矢先に祖母がガンで入院した梨花。職場結婚したが子供ができず悩む美雪。水彩画の講師をしつつ和菓子屋でバイトする紗月。花の記憶が3人の女性を繋いだ時、見えてくる衝撃の事実。そして彼女たちの人生に影を落とす謎の男「K」の正体とは。驚きのラストが胸を打つ、感動の傑作ミステリ。」(BOOKデータベースより)

正直3分の2くらいまで読み進めてくじけそうでした。
3つの話がそれぞれ進んでいくんですが、それぞれが少しずつ関係性を持っていくのについていけませんでした。

英会話教師の講師をしていたが、突然その教室がつぶれ、1か月分の給料と退職金が未払いのまま放り出されてしまった梨花。
職場結婚するも子供ができず、親や周囲にいろいろ言われるのに嫌気がさしてきた美雪。
大学時代に山岳部に入り、スケッチした絵がほめられて絵が好きになり、水彩画の講師をしつつ暮らす紗月。

この三人がどうもよく似ていて差別化ができず。
あっちでごっちゃになり、こっちで絡み合い。
わけわかめになってしまいました。よそ事考えながら読んではいけませんね。
きっとちゃんと読めばなかなかいい作品なんじゃないかと思います。
ぼくも時間があったらもう一度読み返してもいいかなと思いました。

ちゃんと紹介できずすいません。

『歌舞伎町セブン』

2013年12月12日 19時57分11秒 | 誉田哲也
いつもアクセスありがとうございます。このブログ、どこかに紹介でもされたのでしょうか?
一気にアクセスが増えてビビっております。w



「歌舞伎町の一角で町会長の死体が発見された。警察は病死と判断。だがその後も失踪者が続き、街は正体不明の企業によって蝕まれていく。そして不穏な空気と共に広まる謎の言葉「歌舞伎町セブン」…。『ジウ』の歌舞伎町封鎖事件から六年。再び迫る脅威から街を守るため、密かに立ち上がる者たちがいた。戦慄のダークヒーロー小説。 」(BOOKデータベースより)

久しぶりに誉田さんの歌舞伎町を舞台にした作品。
メインではありませんが、以前「ジウ」で活躍した東警部補も登場します。
彼のファンの方は是非読みましょうw

さて、歌舞伎町でひそかに噂され始めた「歌舞伎町セブン」という言葉。
それが何を意味するのかわからないが、何人かが動いていることは事実のようだ。
町会長が殺されたことでひそかに調査を始めた地域課の巡査部長・小川は、町会長の死に方に疑問を持った。
以前、新宿区長だった父親が同じような死に方をしていたのだった。
特に外傷がないが、少し違和感のある心不全でなくなっていた。
聞き込みをしていく中で、小川は「歌舞伎町セブン」と「欠伸のリュウ」という二つのことばを聞く。
それをもとに街をかぎまわっていた小川は、あるとき暴漢にさらわれてしまうのだった。


と、かきましたが話の核には全く触れられていません。
そこまで書いちゃうと面白味のかけらもないですもん。
いや、あるだろうけど是非読んでほしいですね。

誉田さんらしい圧倒的な暴力とゆがんだ正義。
ファンなら楽しめると思いますね。ジウやストロベリーナイトのようにえぐいシーンも特にありませんので。
ジウとつながっているといえばそうですが、読んでいなくても大丈夫なお話になってます。