居酒屋日記・オムニバス (5)
第一話 陽子というおんな ⑤

「あ・・・あの、その、ねっ、姐さん。
肩なんか組んで仲良く帰ってきたもんで、てっきり間男だろうと勘違いしゃした・・・」
「阿保か、お前たちは。
酔っぱらって肩を組んだら、それだけで間男か。
この人は歩くのがおぼつかないあたしを助けて、ここまで送ってくれたんだ。
お茶の一杯くらい、出してあげるのが仁義だろう。
あんたまでなんだい。
若い者のガセ情報を信じ込んで、深夜にやって来るなんて女々し過ぎます。
真夜中にサングラスなんかかけているから、事実が見えなくなるのよ。
そんなことじゃ、もう、2度とさせてあげないからね!」
(させてあげない?・・・もしかしたらそれって、男と女のエッチの事か!・・・)
幸作の目が、ふたたび真ん丸になる。
陽子の剣幕に気後れを覚えたジジィが、あわててサングラスに手をかける。
サングラスの下から、人の良さそうな老人の目が出てきた。
「そんなに本気で怒るなよ、陽子ちゃん。
若い衆に悪気はねぇ。
仲良さそうに2人で入っていったから、怪しいと俺に電話してきただけだ。
いやいや。俺もおめえの事は、ちゃんとすべて信用している。
これっぽっちもおめえのことは、疑っちゃいねぇ」
「このトウヘンボク。
あたしを信用していないから、いつまでも子分を見張りに立たせているんでしょ。
いいかげんで子分を撤収させないと、あんたも出入り禁止にしちまうよ。
いいのかい。金輪際2度と、愛人の部屋へ入れなくなってしまっても!」
「悪かった、客人。俺の全面的な勘違いだった。申し訳ねぇ、許してくれ」
勘弁してくれと、老人が頭を下げる。
(いえいえ、とんでもありません・・・)幸作も、老人に向かって丁寧に頭を下げる。
苦笑を浮かべた陽子が、老人のお茶を入れるためキッチンへ立っていく。
「客人にわびを入れなきゃならねぇな。タダと言う訳にゃいかねぇ。
おいお前。車ヘ行って例のアレを持ってこい」
「へい会長。例のアレってのは、・・・例のアレのことですか?」
「俺がアレっていえば、アレのことに決まってるだろう!。
機転が利かねぇなぁ、お前も。
俺に恥をかかせるんじゃねぇ。いいからさっさと持ってこい!」
へぇと答えたボデイガードのひとりが、猛ダッシュで部屋から駆け出していく。
バタンと飛び出した後。エレベータが待ちきれないのかドタドタと階段を
駆け下りていく気配が伝わって来る。
目の前に座った着流しの老人が、急に小さく見えてきた。
陽子とは、20歳ちかく離れているだろう。
そんな気がするほど目の前に座っている老人が、歳老いているように見えてきた。
組のトップという事は、このあたりを仕切っている関東大前田一家の親分だろうか。
だがサングラスを外した老人のまなざしは、意外なほどやわらかい。
(見た目ほど、悪い人間ではなさそうだな・・・)幸作が、ほっと肩の力を抜く。
「持ってきやしたぁ~」息を切らして、ボデイガードが戻ってきた。
また階段を全力で駆け上がって来たのだろう。激しく肩が上下に揺れている。
「これでよござんすか」白い包みを老人に差し出す。
「馬っ鹿野郎。かたぎのモンに、御法度のシャブをプレゼントしてどうすんだ!。
少しはこの場の展開を考えろ、この役立たず。
客人にプレゼントするものといえば、世間で合法のアレのことだろう。
アレと言えば、ナニを元気にするバイアグラだ。
指示しなくてもそのくらいのことは、この場の空気で理解しろ!」
(6)へつづく
新田さらだ館は、こちら
第一話 陽子というおんな ⑤

「あ・・・あの、その、ねっ、姐さん。
肩なんか組んで仲良く帰ってきたもんで、てっきり間男だろうと勘違いしゃした・・・」
「阿保か、お前たちは。
酔っぱらって肩を組んだら、それだけで間男か。
この人は歩くのがおぼつかないあたしを助けて、ここまで送ってくれたんだ。
お茶の一杯くらい、出してあげるのが仁義だろう。
あんたまでなんだい。
若い者のガセ情報を信じ込んで、深夜にやって来るなんて女々し過ぎます。
真夜中にサングラスなんかかけているから、事実が見えなくなるのよ。
そんなことじゃ、もう、2度とさせてあげないからね!」
(させてあげない?・・・もしかしたらそれって、男と女のエッチの事か!・・・)
幸作の目が、ふたたび真ん丸になる。
陽子の剣幕に気後れを覚えたジジィが、あわててサングラスに手をかける。
サングラスの下から、人の良さそうな老人の目が出てきた。
「そんなに本気で怒るなよ、陽子ちゃん。
若い衆に悪気はねぇ。
仲良さそうに2人で入っていったから、怪しいと俺に電話してきただけだ。
いやいや。俺もおめえの事は、ちゃんとすべて信用している。
これっぽっちもおめえのことは、疑っちゃいねぇ」
「このトウヘンボク。
あたしを信用していないから、いつまでも子分を見張りに立たせているんでしょ。
いいかげんで子分を撤収させないと、あんたも出入り禁止にしちまうよ。
いいのかい。金輪際2度と、愛人の部屋へ入れなくなってしまっても!」
「悪かった、客人。俺の全面的な勘違いだった。申し訳ねぇ、許してくれ」
勘弁してくれと、老人が頭を下げる。
(いえいえ、とんでもありません・・・)幸作も、老人に向かって丁寧に頭を下げる。
苦笑を浮かべた陽子が、老人のお茶を入れるためキッチンへ立っていく。
「客人にわびを入れなきゃならねぇな。タダと言う訳にゃいかねぇ。
おいお前。車ヘ行って例のアレを持ってこい」
「へい会長。例のアレってのは、・・・例のアレのことですか?」
「俺がアレっていえば、アレのことに決まってるだろう!。
機転が利かねぇなぁ、お前も。
俺に恥をかかせるんじゃねぇ。いいからさっさと持ってこい!」
へぇと答えたボデイガードのひとりが、猛ダッシュで部屋から駆け出していく。
バタンと飛び出した後。エレベータが待ちきれないのかドタドタと階段を
駆け下りていく気配が伝わって来る。
目の前に座った着流しの老人が、急に小さく見えてきた。
陽子とは、20歳ちかく離れているだろう。
そんな気がするほど目の前に座っている老人が、歳老いているように見えてきた。
組のトップという事は、このあたりを仕切っている関東大前田一家の親分だろうか。
だがサングラスを外した老人のまなざしは、意外なほどやわらかい。
(見た目ほど、悪い人間ではなさそうだな・・・)幸作が、ほっと肩の力を抜く。
「持ってきやしたぁ~」息を切らして、ボデイガードが戻ってきた。
また階段を全力で駆け上がって来たのだろう。激しく肩が上下に揺れている。
「これでよござんすか」白い包みを老人に差し出す。
「馬っ鹿野郎。かたぎのモンに、御法度のシャブをプレゼントしてどうすんだ!。
少しはこの場の展開を考えろ、この役立たず。
客人にプレゼントするものといえば、世間で合法のアレのことだろう。
アレと言えば、ナニを元気にするバイアグラだ。
指示しなくてもそのくらいのことは、この場の空気で理解しろ!」
(6)へつづく
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