落合順平 作品集

現代小説の部屋。

上州の「寅」(44)メロンソーダ

2021-01-01 17:02:18 | 現代小説
上州の「寅」(44)メロンソーダ


 喫茶店で寅が頼むのは、いつも決まってメロンソーダー。
メロンソーダー以外、頼んだことがない。


 母といっしょに初めてカフェへ寄ったとき。
寅の目にいきなり、涼しそうな緑の飲み物が飛び込んできた。
なんだろう?。
サイダーのような液体に、鮮やかな色がついている。


 「ママ。シュワシュワしている、あの緑が呑みたい」


 「ダメ。あれは身体によくない炭酸飲料です。
 それにあの緑色は人工甘味料のかたまり。
 どちらもこどもの体によくありません。他のものを頼みなさい」


 「身体によくないの?」


 「炭酸飲料に子供にひつような栄養ははいっていません。
 炭酸は骨を溶かすのよ」


 「骨が溶けるの?。でもあの人は呑んでるよ」


 「大人は良いの」


 「大人になれば呑めるのか。いつになれば呑めるの。ぼくは」


 「親から独立した時。
 お給料をもらい、ちゃんと生活できたとき。それまでは駄目です」


 「自分のお金で呑むならいいの?」


 「そういう考え方もあります」


 「じゃ僕は貯めたお年玉を使って呑む。それならいいでしょ」


 「あなたが働いたお金じゃないでしょ。好意でもらったものは問題外です。
 我慢しなさい」


 「我慢できない!」


 「妙にこだわりますねあなたも。体に良くないのよ。
 それでも呑みたいの?」


 「呑みたい!」


 「石の橋を叩いても渡らないくせに・・・。
 こういうときだけ自己主張しますねぇ、あなたって子は。
 負けました。しかたありません。いいでしょ。何事も経験です。
 こんかいだけ許可しましょう」


 メロンソーダを呑むたび、根負けした母を思い出す。
「こら。寅。聞いてのか。ひとの話を!」
いきなりチャコの怒鳴り声で、寅の意識が現実へ引き戻された。


 ここはホームセンター脇にたっているちいさな喫茶店。
巣箱をつくるための買い物を済ませた後、小豆島のさいしょの休日を
寅は、チャコと2人で過ごしている。


 (あれ?。チャコが目の前にいる。
 なんでチャコと2人でお茶してんだ?。こんなところで俺は・・・)
 
 クスクス笑う声が聞こえてきた。寅があわてて周りを見渡す。
店内にいるのは5~6人。
チャコの怒鳴り声がまわりの好奇の目を集めたようだ。


 「あれれ・・・まわりはいったいぼくらを、どんな風に見ているのかな?」


 「なに。いきなり?」


 「デート中の若いカップル。仲の良い兄妹。
 いったいどんな風に観られているのかな・・・」


 「どちらも外れ。
 どうしたのさ。人が説明しているのに聞きもせずぼう~とうわの空で。
 失礼にもほどがあります」
 
 「説明?。なんだっけ・・・いったいなんの話していたんだ?。俺たちは」


 「いまさらとぼけないで。
 あたしの話をまったく聞いていなかったんだね。あんたって人は」


 「だから何の話だ?」


 「ユキが金髪になったいきさつ」


 「あ・・・」


 寅がようやくすべてを思い出した。


(45)へつづく

 あけましておめでとうございます。
コロナにはじまり、コロナに暮れた2020年。
目に見えない敵とのたたかいはあたらしい章へ突入しました。


 でも人は病にぜったい負けません。
なんどもたちあがり、命ある限り、前へむかってすすみます。
暮れに体調を崩しましたが、こんかいもまたここへ戻って来ることが出来ました。
やはり健康はありがたい。


 2021年も体調に気を配りながら、ひきつづき創作に励みたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。


 2021年。元旦 落合順平


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
新年のご挨拶 (屋根裏人のワイコマです)
2021-01-01 19:36:59
昨年もたくさんの楽しいお話を・・
ありがとうございました。
今年もどうぞ宜しくお願い申し上げます
やはり、体調を崩されて・・何度も同じ
ことの繰り返しは、奥様や娘さんにお叱り
を受けますよ、これからは体調管理
健康にもっと真剣に立ち向かって下さい
その合間の気晴らしにまた読ませて
下さい。お大事に、リコメ不要です
返信する
Unknown (ra9gaki_do)
2021-01-02 18:52:30
明けましておめでとう🌅ございます(^。^)
今年もどうぞどうぞお願い致します。
返信する

コメントを投稿