上州の「寅」(40)
オリーブの栽培が本格化したのは1908年(明治41年)。
日露戦争に勝利した日本政府は、北方漁場の海産物を保存する方法として、
オリーブオイルを使用したオイル漬けに着目した。
オリーブオイルを生産するため、農商務省がオリーブの試験栽培を開始。
香川・三重・鹿児島の3県が栽培地として指定された。
その中で香川県の小豆島のみが栽培に成功した。
1911年(明治44年)。74㎏の実を収穫することができた。
小豆島の気候が地中海沿岸とよく似ていたこともあるが、技師たちの
たゆまぬ努力が実を結んだといえる。
3年後。オリーブ栽培が島全体に普及した。いまに続く栽培の礎が築かれた。
「なるほど。それでこの島がオリーブの島になったのですか。
で、ご老人はこの小豆島で日本ミツバチを飼う元祖になったと伺ったのですが、
なぜハチ飼いをはじめたのですか。この島で?」
「若いの。ワシを老人呼ばわりするのはよせ。ワシの名は徳次郎。
敬意をこめて徳じぃと呼べ。
ハチはな、自然を守る偉大な昆虫じゃ」
「自然を守る偉大な昆虫、ハチが?。ホントですか?」
「お前さんときたらホントに何も知らんな。
大学で何を学んでいるんだ。いまどきの学生は」
「デザインを学んでいると言ったでしょ」
「デザイン?。そんなものを学んで何になる?」
「食っていくためです。ぼくが」
「デザインで飯が食えるのか?」
「才能があれば食えます」
「才能があるのか、おまえさんに?」
「卒業して就職してみなければわかりません」
「卒業できるのか?」
「とりあえず、なんとかなると思います・・・」
「なんだ。自信がないのか。なんとも情けない奴じゃのう」
「ぼくのことは放っておいてください。それより先ほどの話を教えてください。
ハチが自然を守るというのはどういう意味ですか?」
「世界中からハチが消えているという報告があとをたたない。
減少し始めたのは1990年代の後半から。
2011年、国連がミツバチの激減について初の報告書を出した」
「詳しいですね。ご老人は」
「こら!。言ったではないか、徳ジィと呼べ。若いの!」
「ぼくの名は寅です」
「よく聞け、寅。
ミツバチは花の蜜を集め、巣に蓄えることではちみつを作る。
だがそれだけではない。
はつみつをつくる以外に、じつは重要な役割をはたしているんじゃ」
「重要な役割?」
「そうじゃ。ハチは自然界で重要な役割を果たしている。
どういう意味かは自分で見つけろ。
それを学ぶため、おまえさんたちはここへ来た」
(41)へつづく