オヤジ達の白球(75)ピンクの割烹着
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/31/416bcb82da843b82b5669118e30fea1f.jpg)
日曜日。午前4時。
祐介が厨房で、せっせと弁当を作っている。
5升炊きの業務用ガス炊飯器を今日のために借りてきた。
100個の握り飯を、22分で炊くことができる。
むらしの時間を入れても30分でにぎりめし用の米が炊きあがる。
午前4時30分。
入り口のガラス戸があく。完全武装の陽子があらわれた。
「なんだ。色気のない白熊の登場か。どうした、アラスカへでも行くつもりか?」
「ごめんなさいね。色気のない白熊で。
何度あると思ってんの。氷点下なのよ、おもての気温は」
「そんなに寒いか。表は・・・」
「あら、表の気温もわからない状態なの、もしかして。
ひょっとして、昨夜から泊まりこみ?」
「出てきたのは午前3時。そういえば・・・たしかに寒かったなぁ」
「お弁当のことで頭がいっぱいなのね。
全員分のお弁当をつくるなんて大風呂敷をひろげるから、こんなことになるのよ。
コンビニのおにぎりでもいいし、各自に弁当を持参させてもよかったのに」
「チームとして動くんだ。
それにビニールハウスが倒壊した慎吾を、俺なりの方法で激励したい。
そんなことばかり考えていたら、家にいられなくなった」
割烹着へ手を伸ばす陽子を、ちょっと待てと祐介がとめる。
「そいつじゃねぇ。
そのとなりに置いてある割烹着を、着てくれないか」
「となり?。なにこれ。白じゃなくてピンクじゃないか。
いやだよあたしは。
こんな派手なピンクの割烹着なんか好みじゃないよ。小娘じゃあるまいし」
「そうでもないと思うがな。
このあいだのピンクのパジャマ、よく似合っていた」
「正妻は白。2号はピンクか・・・趣味が悪いんだねぇ、あんたという男は」
「いやならいままで通り白を着ればいい。俺はいっこうに構わねぇ」
「はじめてのプレゼントだ。ピンクにします。
ねぇ知っている?。
ピンクが女子の色というイメージは、フランスからうまれたのよ。
18世紀のフランス。貴婦人たちがドレスや家具や食器、あらゆるものをピンクで彩ったの。
それから大流行がはじまったのよ。
もうひとつ。
男の子の赤ちゃんはキャベツから、女の子の赤ちゃんはバラから産まれる。
ということわざもある。
このふたつがあわさって18世紀の後半、ヨーロッパ全土にピンクのブームが広がったのよ」
「大袈裟だな。たかがピンクの割烹着だ。
着るために、そこまで大義名分をつけなくてもいいだろう」
「唐変木。最大限によろこんでいるというのに、まったくわからないんだから」
「嬉しいのか・・・たかが1枚の割烹着のプレゼントが?」
「つまらないことに感心している場合じゃないでしょ。
手も動かしてちょうだい。
のんびりしていたら、20人分のお弁当が間に合わないよ」
「おっとっと。
そうだ。のんびりしている場合じゃねぇ。
超特急で頑張らねぇと、全員の弁当が間に合わねぇ。
すまねぇが陽子。そこにあるたくわんをトントンと切ってくれ!」
「あいよ、おまえさん!」
「お・・・おまえさん?。なんだか可笑しくねぇか、返事の仕方が?」
「気にしないでよ。ただの社交辞令さ。
大好きなピンクのプレゼントをもらったんだもの。ささいなお返しさ」
「なんだか、良くわからねぇけど・・・」
(ふふん。唐変木のあんたには、わからないでしょよ。
不意にプレゼントをもらったときの、女のときめきが。うっふっふ)
(76)へつづく
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日曜日。午前4時。
祐介が厨房で、せっせと弁当を作っている。
5升炊きの業務用ガス炊飯器を今日のために借りてきた。
100個の握り飯を、22分で炊くことができる。
むらしの時間を入れても30分でにぎりめし用の米が炊きあがる。
午前4時30分。
入り口のガラス戸があく。完全武装の陽子があらわれた。
「なんだ。色気のない白熊の登場か。どうした、アラスカへでも行くつもりか?」
「ごめんなさいね。色気のない白熊で。
何度あると思ってんの。氷点下なのよ、おもての気温は」
「そんなに寒いか。表は・・・」
「あら、表の気温もわからない状態なの、もしかして。
ひょっとして、昨夜から泊まりこみ?」
「出てきたのは午前3時。そういえば・・・たしかに寒かったなぁ」
「お弁当のことで頭がいっぱいなのね。
全員分のお弁当をつくるなんて大風呂敷をひろげるから、こんなことになるのよ。
コンビニのおにぎりでもいいし、各自に弁当を持参させてもよかったのに」
「チームとして動くんだ。
それにビニールハウスが倒壊した慎吾を、俺なりの方法で激励したい。
そんなことばかり考えていたら、家にいられなくなった」
割烹着へ手を伸ばす陽子を、ちょっと待てと祐介がとめる。
「そいつじゃねぇ。
そのとなりに置いてある割烹着を、着てくれないか」
「となり?。なにこれ。白じゃなくてピンクじゃないか。
いやだよあたしは。
こんな派手なピンクの割烹着なんか好みじゃないよ。小娘じゃあるまいし」
「そうでもないと思うがな。
このあいだのピンクのパジャマ、よく似合っていた」
「正妻は白。2号はピンクか・・・趣味が悪いんだねぇ、あんたという男は」
「いやならいままで通り白を着ればいい。俺はいっこうに構わねぇ」
「はじめてのプレゼントだ。ピンクにします。
ねぇ知っている?。
ピンクが女子の色というイメージは、フランスからうまれたのよ。
18世紀のフランス。貴婦人たちがドレスや家具や食器、あらゆるものをピンクで彩ったの。
それから大流行がはじまったのよ。
もうひとつ。
男の子の赤ちゃんはキャベツから、女の子の赤ちゃんはバラから産まれる。
ということわざもある。
このふたつがあわさって18世紀の後半、ヨーロッパ全土にピンクのブームが広がったのよ」
「大袈裟だな。たかがピンクの割烹着だ。
着るために、そこまで大義名分をつけなくてもいいだろう」
「唐変木。最大限によろこんでいるというのに、まったくわからないんだから」
「嬉しいのか・・・たかが1枚の割烹着のプレゼントが?」
「つまらないことに感心している場合じゃないでしょ。
手も動かしてちょうだい。
のんびりしていたら、20人分のお弁当が間に合わないよ」
「おっとっと。
そうだ。のんびりしている場合じゃねぇ。
超特急で頑張らねぇと、全員の弁当が間に合わねぇ。
すまねぇが陽子。そこにあるたくわんをトントンと切ってくれ!」
「あいよ、おまえさん!」
「お・・・おまえさん?。なんだか可笑しくねぇか、返事の仕方が?」
「気にしないでよ。ただの社交辞令さ。
大好きなピンクのプレゼントをもらったんだもの。ささいなお返しさ」
「なんだか、良くわからねぇけど・・・」
(ふふん。唐変木のあんたには、わからないでしょよ。
不意にプレゼントをもらったときの、女のときめきが。うっふっふ)
(76)へつづく