落合順平 作品集

現代小説の部屋。

からっ風と、繭の郷の子守唄(101)

2013-09-30 10:23:55 | 現代小説
からっ風と、繭の郷の子守唄(101)
「突然割り込んできた女医先生は、実は美和子の大先輩」




 「大丈夫か、美和子?」


 心配そうに覗き込む康平の視線に促され、美和子の瞑想が現実へ戻ってきます。
ほんの少しの間だけ、美和子はいままで体験してきたあれこれの記憶の連鎖の中を、
とりとめもなく、思い出すままに漂ってきました。
(そうだった・・・千尋の病気の話をするために、私がこのカフェへ康平を誘ったんだ。
 さて。それでは難題の、いったい何から話しだそうか・・・)
中途半端な眠りから、突然起こされたようなけだるさを覚えたままの美和子が、
いまだに留まろうとしている古い記憶を追い払いながら、頭の中を必死に整理しています。


 (いざ話そうとすると、厄介なほど難しいものが山のようにある。
 だいいち既婚者でもない康平に、デリケートな女性特有の病気のことがわかるのかしら。
 こいつは昔から大雑把で、中学の保健体育レベルの知識しか持ち合わせていないし、
 微妙な女の機能の類(たぐい)の話になると、まるで無知だし無頓着者だ。
 まいったなぁ・・・・手に負えるかしら。なんだかあたしの気分まで重くなってきた)


 憂鬱な気分にさえなってきた美和子の目の前に、突然、一人の女性が立ちます。
美和子が驚いて見上げると、そこには奥の座席にいたはずの女医先生が、いつのまにか2人の
そばまでやってきて、にこやかに笑顔などを浮かべています。



 「やっと思い出したわよ。わがテニス部の期待の後輩の美和子ちゃんだ。
 中学時代から軟式テニスで秀でていたから、入部の前からちょっとした注目株だった。
 そしてこちらが、呑竜マーケットで居酒屋さんをやっている康平くんね。
 やっとのことで私も思い出したわ。ねぇぇ・・・・覚えているかしら私のことを。
 去年の今頃、クラス会のあと、あなたのお店に乱入をして、
 さんざん大騒ぎをしたあげくに、メニューにも無いお茶漬けを食べさせろと
 無理矢理を突きつけた、私のことを」


 「あ、そういえばあの時の!。
 そのことなら今でも覚えていますが、まさか、それが貞園の主治医さんとは・・・・。
 でもたしか、夜勤明けでもう帰られたはずでは?」


 「悪かったわねぇ、帰ったはずの人間が此処にいて。
 仕事を終えて真っ直ぐに帰ったところで、簡単には寝られないもの。
 ここのカフェでクールダウンしてから帰るのが、私のいつもの朝のパターンなの」


 「そういえば、たしかに、2年先輩のあの美人だったキャプテン!。
 はい。美和子です。でもあれから随分と経つのに、よく私がわかりましたね」



 「ごめんなさい。あなたたちが入ってきた瞬間から注目をして見ていました。
 だって、病室に居たはずの康平くんが、いつの間にか今度は
 身重の女性とデートなんかしているんだもの。見るなと言われても嫌でも目に入ります。
 それに、あなたにもどこかで見た覚えがあるし、何処で会ったのか
 そればかりを、ずぅ~と考えていたの」


 「やっと思い出していただけて、とても光栄です。
 でも、どう見ても先輩のその様子は、とてもこのまま帰るようには見えません。
 よかったどうですか、ご一緒に相席でも」


 「そのつもりで、のこのこと出しゃばってきました。
 いいかしら、勝手に割り込んでも。呑竜マーケットの康平くん」


 「はい。僕なら一向に構いませんが・・・」


 停滞していた空気がいっぺんに変わりはじめます。
実にタイムリーな女医先生の登場の様子に、なぜか美和子はほっとしたような表情になりますが、
一方の康平には、若干ながら戸惑いの表情があります。
美和子の顔と康平の顔をじっくりと交互に見つめたあと、女医先生が2人へ
近くに顔を寄せるようにと、手で合図を送ります。

 
 「あんたたち。朝からなんという不謹慎な会話をしているの。
 孕み女が、あんたの子を産みたかったなどという暴言をいきなり吐くかと思えば、
 こちらのうすらトンカチは、聞いているのかいないのか、反応がはっきりしていません。
 聞いているこっちのほうが、まったく恥ずかしくて、ハラハラドキドキのしっぱなしです」


 美和子が苦笑をしたまま、女医先生の目を見つめています。
うすらトンカチと呼ばれた康平も、まだ続けて何かいいたそうな女医先生を
ひたすら見つめています。



 「まず最初に、あの過呼吸症の女の子でしょ。
 次に健康そうだけど、かすかに病院の匂いがしている、不思議な女の子が現れました。
 最後に登場したのが、あたしのテニス部の後輩で、現在は『孕み女』の美和子。
 昨日の夜から、あっというまにこれで3人の女が相次いで登場したのよ。
 康平くん。あなたの女性遍歴の過去は、いったいどんなふうになっているの。
 あ、最後に私が突然に乱入をしたから、これで4人揃った計算になるわね。ふふふ」


 「先輩。病院の匂いがかすかにする女の子って、いったい誰のことなの?」



 「座ぐり糸作家の女の子でしょ。あの子は。
 あんたも座ぐり糸では同期のはずだから、知り合いのはずよねぇ。
 なんといったかしら。最近は、小さなアトリエを作って頑張っているはずだけど・・・」


 「千尋です。
 でもなんで、千尋から病院の匂いがしているのですか?。先輩」


 「見た目は、丈夫で健康に見えます。
 でもね。医者の第6感というか、病院通いをしている患者さんからは、独特の匂いがするの。
 もちろん昔のように、誰にでもわかるように、消毒液やクレゾールの匂いが、
 あからさまにするわけじゃありません。
 なんとなくですが、治療中や経過観察中の患者さんは、雰囲気だけでピンとくるの」


 「先輩は、千尋がどんな病気にかかっているか、予測ができますか?」


 「あら。やっぱり当たっていたの、ふ~うん。
 そうね。若い女性で治療を続けている病気の種類といえば、
 女性特有の病気という点からしぼっていけば、例えば、一番多い症例から言えば
 一位はまず、乳がん。続いて子供を育てるための器官の障害で、子宮周辺の病気も多い。
 20代から30代の女性たちに、急激に増えてきたといわれているのが、子宮頸がん。
 これらが、とりあえず考えられます」

 「さすが先輩。切れ味の良さは、昔とちっともかわっていませんねぇ。
 さすが、天才とまでいわれた鋭い洞察力の持ち主です」



 「鋭い洞察力がどうしたって?。いったい何の話が始まったんだ。俺にはさっぱり・・・」



 「テニスの試合で先輩は、鋭い洞察力を武器に決勝まで勝ちすすんだの。
 早いサーブも使わないし、強い打ち込みもしないのに、なぜか相手をとことんまで崩すのよ。
 相手の目の動きや体の傾き、手と脚の使い方から、ボールがどこへ飛んでくるのか
 たいていは、予測ができるの。
 その鋭い洞察力が、今回も千尋の病気を見事に見抜いたわ。
 それに気がついていたからこそ、わざわざ、わたしたちに声をかけてきたんでしょ。
 いつものことながら、おせっかいが大好きな、私の大先輩」


 「うふふ。そうよ、そうなのよ美和子。
 それこそが私の、もっとも悪い病気のひとつなの。うっふっふ。
 あら。では、そういうことでここへ座ってもいいかしら。立ち話もなんですし。
 たっぷりとこちらへお邪魔をしてもいいかしら。ねェ、康平くん」




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からっ風と、繭の郷の子守唄(100)

2013-09-29 06:43:43 | 現代小説
からっ風と、繭の郷の子守唄(100)
「美和子を襲ったDVと、その背後にひそみつづけている危険な秘密」



 
 (分かっているの、康平くん。
 あの妊婦さんは、ついさっき、『あなたの子供が産みたかった』と、はっきりと言い切ったのよ。
 それが何を意味しているのか、ちゃんと分かって聞いているんでしょうね、あなたは。
 少しピンボケ過ぎる、呑竜マーケットの唐変木くん・・・・)


 カフェの奥の席で本を閉じ、聞き耳をたてている赤いメガネの女医先生が、
メガネの奥で、しっかりと2人の様子に目を光らせています。
しかし美和子と向かい合って座る康平は、あいかわらず呑気に構えています
運ばれてきたコーヒーを一口すすってから、またフラフラと表通りへ目を転じていきます。


 しかし、実はこの時点ですでに、康平の同様は一瞬にしてピークに達しています。
美和子が何気なく言い放ったその一言を、康平は、今回に限ってものの見事に、
真正面からキャッチしていました。


 (たしかに、そう言ったよなぁ。いま美和子は。
 何気ない調子の中ではっきりと、『あなたの子供が産みたかった』って。
 どういうことなんだ。どう言う意味なんだ、それって一体。
 落ち着けよ、とにかく落ち着いてよく考えろ、康平。)


 美和子もハンカチで頬へ風を送ったまま、テーブルの上に視線を落としています。
お互いの想いがそれぞれの交錯を見せる中、会話が途絶えてしまった2人のあいだには、
カフェでの別の会話と、気まずい沈黙の時間だけが流れていきます。


 (あらぁ・・・・ついに、気まずい雰囲気が立ち込めてきましたねぇ。
 それにしても、やっぱり私は迂闊です。こんな時にこんな状態だというのに、
 ついに、心に秘めてきた本音を漏らしてしまいました。
 5ヶ月目に入った妊婦から、いまさら本音を告白されたところで、もう
 康平にも私にも、絶対絶命といえる『あとの祭り』です。
 あたしの中に住んでいる小悪魔が、やっぱり康平と千尋に嫉妬をしているんだわ。
 まいったなぁ。康平をまた困らせているくせに、その実、喜んでいるあたしがいます・・・・
 お腹のこの子に怒られそうだ。お母さんは根っからの意地悪だって、うふっ)



 美和子がこの場面において、つとめて冷静な態度でいられるのには訳があります。
DV亭主との離別を、自分なりにすでに決意をしているためです。
美和子とDV亭主との出会いは、高崎市にある繁華街、柳川(やながわ)町まで遡ります。
自作の『夜の糸ぐるま』のキャンペーンを始めた頃、かつて東京で一度顔見知りに
なった一人の演歌師と、偶然、夜の街で再会を果たしています。


 何度か食事にも誘われ、酒などを飲むうちに、いつとはなしに同棲生活が始まりました。
先の見えない作詞と歌手活動への、不安が募っていたと言えばそれまでですが、それ以上に
巧妙すぎる男の優しさに上手に幻惑されてしまったことが、なし崩し的に、
美和子が同棲生活を始めるきっかけになりました。


 同棲がはじまってからの一年あまりは、貧しいなりに、平穏な日々が続きました。
亭主からのDVは、正体不明の電話で呼びだされ、泥酔をして帰ってきた日の晩から始まりました。
思いつめたような顔でようやく帰ってきた亭主が、些細な言葉の行き違いから、
今まで見せたことのない理不尽な逆上ぶりを、美和子にみせつけます。
普段なら笑って聞き流すたわいのない言葉を、『反抗的で、実に生意気だ』と頭から決めつけ、
突然、激しい痛みを伴う衝撃が美和子の頬を走ります。


 美和子が生まれて初めて受ける、男性からの暴力です。
罵(ののし)りの醜い言葉の洪水ととに、加減することを一切知らない男の拳が、
一瞬にして美和子の全身と心の奥深くにまで、激しい痛みと屈辱を加え続けます。
決して消えることのない傷跡と痛みを、理不尽なまでに男が刻み込みます。
痛みと怯えにことごとく打ちのめされたまま、美和子は眠れない一晩を過ごします。



 しかし次の日の朝、事態は全く予定外と思える方向へ展開をします。
正気にかえった亭主が、心の底からの改心の様子といたわりを美和子に見せます。
生々しい傷が残ったままの美和子をそっと抱き寄せ、まったく別人のように
髪に触れ、頬を愛撫しながら、心の底からいたわり続けます。
『もう2度としないから、2度と殴らないから俺を許してくれ』という言葉が男の涙とともに、
何度も優しく、美和子の耳元で繰り返されます。


 改心をしたかに見える優しい男の態度に、美和子の心がゆるみます。
しかし男のDVは、やがてその後何度にもわたっておよび、繰り返し爆発するようになります。
突然のDVと、暴力を振るったその直後に必ずやってくるものは、傷ついた美和子へ見せる
男の、なんともいえない、底なしともいえる優しいいたわりです。
しかしこうしたDVの事態は、正体不明の電話がかかってくるたびに決まり事のようにして、
何度も、密室で暮らす2人のあいだで繰り返されていきます。


 DVと亭主の背後に潜む危険な影の存在を、初めて美和子が見つけ出したのは、
妊娠をする1年あまり前のことです。
DVにもすっかりと慣れ、『私が我慢をすれば、それで済むことだ』と思い始めている自分と、
いつかは変わるであろうという淡い期待を持っている美和子がすでに、そこに存在をしていました。
秋も深まり、日に日に寒さが進み、そろそろ冬用の布団を準備しようとして、
美和子が押し入れを開けた時、それはついに発見をされました。


 冬用の布団の上に、埃が落ちているのを美和子が見つけます。
『おかしいわねぇ』と見上げた美和子の目に、かすかにずれている天井板が目に入ります。
電気工事や点検の際に、屋根裏へ潜り込むための開口部には、小さな隙間が見えます
直しておこうと思った美和子が、不安定な体勢のまま押し入れの上の段へ登ります。


 軽く触れたはずの天井板は苦もなく動き、さらに開口部が大きくなってしまいます。
『あら、いやだ。この板は思いのほか、簡単に動くのね』と何気なく、
天井裏を覗き込んだとき、目の前で、ビニールに覆われた異物を見つけ出します。
『なにかしら・・・・』そっと触れた指先へ、固く、危険を思わせる
感触が、瞬時にはねかえってきました。



 片手でも持てそうな危険物の大きさに納得をした美和子が、包装物を手にします。
ずしりとした包装物の手応えの重さが、危険な気配と不安をさらに美和子の脳裏へ走らせます。
『見てはいけないものかもしれない』しかし、怖いもの見たさが、美和子の行為を続行させます。
ビニールでぐるぐる巻きにされている包装の下には、見覚えのある薄茶色の油紙が見えます。
大きさといい、重さといい、もしかしたら、これは拳銃?・・・・という決定的な衝撃が、
やがて確信に変わり、恐怖が美和子の全身を駆け抜けていきます。


 一度だけ美和子は、暴力団が使う拳銃を目にしたことがあります。
地元の繁華街を周りながら、歌手活動を繰り返していると必然的に、地元の暴力団員や
そうした関係者との顔見知りが、徐々に増えてきます。
同棲時代が始まる前に、よく寄るスナックで顔見知りになった女の子とやがて親しくなり、
時々、お互いのアパートへ泊まりあうようになったことがあります。
ごくまれに泊まりにも来るという彼女の遊び相手は、妻子持ちという暴力団の構成員です。



 『ここは、物資の前線基地なの』と悪びれもみせず、彼女が見せてくれたのが
今回と同じように、まず油紙で包まれ、さらに厳重に幾重にもビニールで包装をされた拳銃でした。
 『構成員たちは拳銃をいちいち持ち歩かないの。有事の際に、いち早く現場へかけつけるため、
 普段から隠し置かれている組の保管庫や、自宅へ取りに戻っていたのでは時間的に間に合わなくなる。
 だからこうして、いくつかある前進基地へ有事にそなえて密かに隠しておくの。
 でもナイショだよ。ばれたらあたしが消されちゃうもの。あっはっは』


 と、お茶目に笑っていた暴力団構成員の愛人から、
今と同じように、拳銃の包みをそっと取り出して、見せてもらったことがあります。
(まったくそれと同じものだ、と思う)そう思いながら美和子はまた、元あった場所へ
気がつかれないようにと、用心深く包装物を元へ戻します。





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からっ風と、繭の郷の子守唄(99)

2013-09-27 12:23:25 | 現代小説
からっ風と、繭の郷の子守唄(99)
「美和子が語る女の気持ち。それに聞き耳をたてている女医の先生」


 

 「ほら、またそんな風にすぐ泣きそうな顔をする。
 困りましたね、あなたには。
 優しすぎるあなたのことだからどうせまた、途方に暮れているんでしょ」


 ため息をひとつ漏らしてから、美和子が康平を手招きします。
『そんな事だろうと思って早めに来たの。でもここじゃまずいわ、人が多すぎる』と、
康平を目の前に立たせたまま、美和子がそっと周囲を見回しています。


 9時を回ったばかりの病院のロービは、時間とともに人の出入りがみるからに増えてきます。
『表のカフェにしましょう』。そういいながら、少し重そうに美和子が立ち上がります。
慌てて差し出す康平の手に、軽く触れながら美和子が思わず失笑を浮かべます。



 「まるで妊婦を気遣う亭主みたいです。康平ったら。
 でもせっかくの好意ですから、表のカフェまでこのまま歩きましょうね。
 5ヵ月目に入ると、安定期と呼ばれ流産の危険は少なくなります。
 適度にからだを動かせと、先生にも言われているの。
 でもね、自分の体であって自分のものじゃないような違和感があるのよ。
 ゆっくり歩いてよ。優しくね。うふっ」


 ゆっくりと歩き始めた美和子は、たしかに全体的にふっくりとしてきました。
母乳の準備のために必要なホルモンが胎盤で作られるため、乳房もだいぶ大き目になり
皮下脂肪がついてきたために、おなかとともにおしりも一段と大きく見えます。
体重も大幅に増えてきたせいか、見慣れたはずの美和子が、康平には
一回りほど大きく見えてしまいます。


 「へぇぇ、本当にお母さんになるんだ。美和子が・・・・」



 「康平ったら。しみじみ見ないでください、照れちゃうわ。
 今までに経験をして無い事や、今まではまったく知らなくても良かったけど、
 妊娠した今になると、知っておかないといけない事などもたくさんあるの。
 母親になるためには、気苦労も多いし、実に大変なことばかりです。
 お腹が大きくなるたびに、新しい不安とプレッシャーが増えてきます。
 男の人には、到底理解をしてもらえないと思いますが・・・・」


 病院の裏手にあるカフェに、客の姿はまばらです。
入口から一番近く、表の通りを見晴らせる場所に康平が席を取ります。
介助するような形で最後まで康平は美和子の手を握り、椅子に座るまでゆっくりと待ち続けます。


 カフェのドアには、来客を告げるチャペル風の吊り鐘がついています。
クリスマスを思わせるような鐘(ベル)が小さくなった瞬間、通りに面した最奥の席で
読書中の女性が、気配につられて顔を上げます。
『おや?』という顔を見せたあと、妊婦に寄り添う康平の姿を微笑ましく見つめています。



 (過呼吸症の女の子のあとは、妊婦さんの介助ですか。
 まったく忙しい子ですね、あの子も。どうも、どこかで見た覚えがあると思ったら、
 去年、クラス会のあとで立ち寄ったあの居酒屋の男の子だ。
 顔と記憶がようやくつながったけど、残念ながら、肝心のお店の名前が出てきません。
 料理は美味しかったし、最後に無理やりに作らせた『お茶漬け』が、絶品でした。
 なんて言う名前だったかしら。呑竜マーケットのあの子の、お店は)



 見られていることに一向に気のつかない康平は、美和子の体勢が落ち着くのを
見届けてから、向かい側の席へどっかと腰を下ろします。
手にしたハンカチで風を送りながら、美和子は涼しい顔で表の通りを見つめています。


 (あらら。少しだけ、ぎこちのない距離感が2人の間に有りますね。
 ということは、やっぱりご夫婦ではなさそうです。
 では、こんな朝早くから一体なにがはじまるのかしら。すこし興味をおぼえる2人組ですね)
 メガネの奥で目を細めた女性が、再び読書中の本へ視線を落としていますが、
耳の全神経とアンテナだけは、2人の席へきっちりと向けられています。

 「康平は女の人に、自分の言い分を押し通すため、無理矢理を言うタイプじゃありません。
 千尋は何事においても、相手にたいして自分から先に、一歩を引いてしまう性格です。
 では、あいだに立っている私が、承知でお節介役を引き受けるしかありません。
 千尋は自分の病気を告白をするまで、たぶん、この先で長い時間がかかるでしょう」



 「それって、今朝の電話の件かい?」


 「そう。あなたには(結婚をして)幸せになって欲しいし、それは千尋にも同じことが言えます。
 あなたと千尋が付き合い始めたと聞いたとき、最初はとても驚きました。
 でも、自分の妊娠に気がついたとき、これですべての流れが変わると自覚をしました。
 康平のことよりも、最優先すべきはお腹のこの子なんだと、認識をしたの」


 「ということは、夫婦関係も円滑に進み始めたという意味かな?」


 「余計な詮索も、余計なことも聞かないで。
 あなたって、そういうところが大雑把すぎて、無頓着すぎるのよ。
 女性に優しすぎるくせに、相手の気持ちを理解していないから、いつだって墓穴を掘るの。
 空回りばかりをするあなたのせいで、千尋もそのうちにきっと辛い思いをすることになる。
 私の時もそうだったし、貞ちゃんにも同じことを繰り返した。
 3度目の失敗を、また千尋で繰り返そうとしているのよ、あなたは」


 「辛辣だなぁ・・・・だが、君の言い分は的を得ている。
 君のことも、貞園のことも、2ストライク目からの絶好球を見送ったような気がする。
 確かにそれはあるだろう。君の言うとおりだ」



 「あっさりと肯定をされてしまうと、あとが話しにくくなります。
 本当は、あなたの子を産みたかった女が、あなたと別の女との恋路のことで、
 やきたくもない世話を焼いているのよ。
 これって一般的には、まったくありえない話でしょう」

 「え?。俺の子を・・・・!」



 「康平。大きな声は出さないでちょうだい。お腹に赤ちゃんにも聞こえちゃうから。
 5ヶ月目に入るとお腹の中で、身長は約25cm。体重は280g くらいになるの。
 脂肪組織が出来てきて、皮下脂肪がつき始め、全身に胎毛が生えてきて、3頭身になるそうです。
 もう赤ちゃんは、私の中で一人の人間として立派に生きているの」


 (あの妊婦さんったら、いま、凄い発言を、何げに口にしたわよねぇ。
 居酒屋の康平くんは、ちゃんと気がついたのかしら、いまの真意に。人ごとながら心配です)
メガネの女性が視線をあげ、少し上目使いで康平の様子を見つめてはじめます。


 「へぇぇ・・・・5ヶ月に入ると、胎児はもう、そんなに大きくなるんだぁ」



 (やっぱり鈍感だ!。呑竜マーケットの康平くんは。
 胎児がどんなふうに育つかよりも、妊婦がどんな想いで妊娠をしたかの方が大切でしょう。
 あの唐変木め。あとで日本中の女性を代表して、あたしが1発ぶん殴ってあげるから!
 ちょっと待ってよ。あの妊婦さんも、どこかで見たような覚えがあります。
 はてな、・・・・誰だっけ?、あの娘は)


 康平の呑気な受け答えを聞いているメガネの女性が、なぜか自分のことのように
カリカリとエキサイトなどをしはじめています・・・・





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からっ風と、繭の郷の子守唄(98)

2013-09-26 10:35:51 | 現代小説
からっ風と、繭の郷の子守唄(98)
「病は次から次へと連鎖を呼ぶ?。思いがけない千尋からの告白」 




 一通りの荷物を貞園の部屋へ運び終えた千尋が、康平へ目配せをしています。
後ろへついて部屋を出ると、千尋は予想外の方向へ歩きはじめました。
ほどなくして、予期していなかった屋上への階段を上り始めます。
9時を過ぎた屋上には、たくさんの洗濯物がひるがえっています。ところどころで
喫煙をする人たちが、ゆっくりとたなびいていく煙と今日の秋空を交互に見上げています。


 「着替えたいけど、邪魔でしょう。あなたが居たら」


 「それから、もうひとつ」と千尋が手すりにもたれて、ツンと青い空を見上げます。
呼ばれたような雰囲気を察して、康平が2人の距離を詰めます。
染み入る様な青空にまぶしさを感じているのか、千尋が思わず目を細めています。



 「貞ちゃんに心の病がある様に、私にも、あなたに知ってもらいたい病気があるの。
 今朝、私から電話が有ったって、たぶん美和子ちゃんが言っていたと思います。
 群馬で心が許せる友人といえば美和子くらいのものだもの、思い切って相談をしました。
 あたしの身体の秘密を、康平さんに話すべきかどうかって。
 そしたらね。『勇気を持って前進しょうよ』とだけ、美和子が言ってくれた」


 ためらいを秘めたままの千尋の瞳が、一瞬だけ康平の横顔を盗むように見つめます。
深呼吸をするように胸をそらした千尋が、あらためてまた朝の青空を見上げています。
言葉を止めているはずの千尋の唇がいまだにかすかにだけ開いているのは、
自分の勇気を探している時にいつも見せる癖のひとつで、ただいま思案時という仕草です。



 (きっと深刻な話だな、おそらく・・・・)康平も、
千尋の背中を見つめながら、次第にその覚悟を整えていきます。
『どこまで話せばいいんだろう』と思案をしている千尋の心の声が、ここまで聞こえてきそうです。
(こんな時は近くへ寄って肩を抱くべきなんだろうか。それとも離れたまま平静を装って、
あえて静かに、次の言葉を待つのがベストなんだろうか・・・・芸がないなぁ、俺も)
息苦しい沈黙の時間が二人の間を流れる中、こんな場面の経験が少な過ぎる康平は、
ただ狼狽え、千尋の背中で呆然としたまま立ち尽くしています。

 
 朝から晴れた空は、はるかな天空まで澄み切った青さをたたえています。
真夏の頃よりも白さを増した雲たちが、気持ちよさそうに天空を流れていきます。
次の言葉を飲み込んだまま、青空を見上げている千尋の瞳まで空の蒼さに染まりそうです。



 (秋の空は変わりやすく、うつろいやすい。
 さっきあれほど美和子に励まされたばかりだというのに、もう私の心はうつろい始めてきた。
 決心がぐらつきかけてきたどころか、このまま隠し通したいという気持ちにさえ、なってきた。
 『女心と秋の空』って、こんな気持ちの変わりようのことを例えるのかしら・・・・
 どうしましょう。わたしから話のきっかけをつくったというのに)


 千尋の逡巡は、一向に停まる気配を見せません。
軽く開けられている千尋の唇へ、右手の指が伸びてきました。
上下の唇が、押しつけられきた右手の指によって静かに閉じられていきます。
なにかしらの考え事にすっかりと囚われ、周囲を忘れいつのまにか没頭をしかけた時に、
千尋が見せはじめる、そんな仕草のひとつです。
秋特有の雲、高積雲が広がりはじめた空をみつめたまま、さらに千尋の沈黙は続いていきます。


 『無理しなくてもいいさ。また今度にしょうか』
康平が言いかけたとき、ポケットで携帯が鳴り始めました。
液晶画面に表示されたのは、美和子の番号です。
着信音が聞こえたはずの千尋は、あえて振り返りもせず、『どうぞ』と言うように
ゆっくりと、高空に浮かぶ雲の流れを目で追い続けています。



 「美和子です。
 まもなく病院へつきますが、あなたは、いま何処にいるの?」



 「いま病院。ちょうど千尋さんが来てくれたので、交代をしてこれから帰るところ」

 「そう。ちょうど良かった。じゃ下であいましょう。ロビーで」


 それだけを伝えると、一方的にプツリと美和子の電話が切れてしまいます。
(渡りに船かな。千尋の重大そうな話は、また今度にしたほうが良さそうな雰囲気だもの)

 「誰?」

 「美和子から。もう病院へ着くようだ」



 「もう来てくれたんだ。自分だって大変な時期だというのに。
 ごめんなさい、康平さん。
 大切なお話ですが、今日の私には、まだ告白するだけの勇気が足りません。
 自分から言い出したことなのに、中途半端な形のままでごめんなさい。
 あらためてお話をしますので、もう少し私に時間をください。
 じゃあ。私は貞ちゃんの病室へ戻ります」


 「そうだね。今日はそうしたほうが良さそうだ。
 いつでも千尋さんの都合の良い時に、また、そのあらためてうかがいます。
 じゃあ俺は、下で美和子と会ってから、そのまま帰ります」


 じゃあと言い、千尋が小走りに貞園の病室へ戻っていきます。
康平はエレベーターを使わずに3階分の階段を、一段ずつ噛み締めるようにして降りていきます。
昨夜の過呼吸症騒ぎといい、千尋の戸惑いを見せながらの告白の告知といい、
目まぐるしい展開がひたすら続く中で、康平は後頭部になにやら重い
痛みのようなものを覚えています。



 ゆっくりと時間をかけて階下のロビーまで康平が降りきると、驚いたことに
すでに美和子は到着をしています。椅子に腰掛け、ハンカチで軽く額などを押さえています。
康平に気づいた美和子が、『こちら』というように、そっと手を振ります。


 「なんだか、だいぶ目立ってきた実感があるね」

 「まもなく16週目です。10週あたりからお腹周りがふっくりとしてきました。
 普通は5ヶ月目あたりからふっくりとするそうですが、それにも個人差はあるようです。
 やや細めで筋肉質の女性は、早めにふっくりするそうです」

 「大変な時期だと聞いたけど、大丈夫かい」


 「つわりがひどい。
 もうそろそろ終わる頃だと思うけど、水を飲んでも吐いちゃうんだもの。大変そのものです。
 なんだかなぁ。・・・・逢うなりいきなり、色気のない話ばかりですねぇ、私たち。
 貞ちゃんの具合はどうかしら。一晩たったからもう落ち着いたかしら?
 それから。千尋からは何か、大切な話を聞かされましたか」


 「矢継ぎ早に質問が続くね。
 見当はつかないが、千尋さんの話は深刻なような気がする。
 貞ちゃんはすっかり落ち着いた。
 持病だけど、人前で初めて発作を起こしたという点であれほどのパニックになったようだ」

 
 「男のあんたには分からないだろうけど、女には、いろいろあるのよ。
 貞ちゃんは持病の過呼吸症で苦戦中だし、あたしは激しいつわりで、青息吐息。
 千尋だって、女特有の病気で治療中だし・・・・
 あら。その顔は、もしかして、まだ聴いていないのかしら、病気の中身を?」





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からっ風と、繭の郷の子守唄(97)

2013-09-25 10:25:26 | 現代小説
からっ風と、繭の郷の子守唄(97)
「次の日の朝、康平をめぐる女3人が何故か勢揃いをする」




 その翌朝。
緊急外来の当直を終えた昨夜の女医先生が、病室へ顔を出しました。


 「顔色が、とても良くなりました。
 とても理知的な目をしていますので、それだけあなたは、心が敏感すぎるのかもしれません。
 入院中の4~5日は、私があなたの担当医です。
 久しぶりの当直でなにやら肩が凝りましたが、家に帰れば邪魔をする者が居ませんので、
 貴方たちと同じように、心おきなくゆっくりと眠れます」


 「あら。どうして私に邪魔者がいないとわかるのですか?」


 「あなたの指に、婚姻を示す指輪はありません。
 同様に付き添いの男性の指にも、指輪などは見当たりません。
 さしずめ仲の良い兄弟か、品行方正にお付き合い中の間柄と、お見受けしました。
 医者は初見で、より詳細に患者さんを観察するというのが商売です。
 あなたのように繊細な病気の場合には、その周辺環境にもさりげなく探りを入れます。
 ではまた明日、元気に、お会いしましょう」



 昨夜同様、乾いた靴音を響かせて女医先生が、廊下を立ち去っていきます。
呆気にとられた貞園と、ものの見事に言い当てられた康平が、病室で苦笑いを交わしています。


 「どれ。コンビニで朝飯でも調達をしてくるか。
 なにか欲しいものであるか、貞園」


 「目覚めの苦いコーヒーと、こんがりと焼いたトースト。
 昨日のスポーツの結果が分かる新聞と、朝の贅沢といえば、やっぱり、おはようのキス」



 「新聞以外は、すべて速攻で却下。
 朝からそれくらいの茶目っ気があれば、もう本来の貞園に戻ったようだ。
 ゆっくり待っていろ。俺にも朝の支度というものがある」


 「ベッドでの戦争に備えて、シャワーを浴びるとか、勝負パンツに履き替えてくるとか、
 男にもいろいろと準備は必要ですものね。うふっ」


 「いい加減でお前も、そのくだらない妄想と煩悩から離れろ。
 入院に必要なものはすべて千尋がもってくるし、ついでに美和子へ連絡を入れておこう。
 会いたいだろう、旧知の友人に」


 「全部、康平の意中の女ばかりじゃないのさ。よく考えてみたら・・・・
 あれ。いつのまにか美和子も千尋も、馴れ馴れしく、呼び捨てに変わっています、康平くん。
 ははぁ、・・・もう全員と、そういう(肉体の)関係ができているのか。
 手が早いわねぇ。まったくもって、油断も隙もない男ですねぇ。私の兄貴は!」


 「いい加減にしないと、2度と病室へ戻ってこないぞ。
 ついでに、妹の縁もたった今から切り捨てる!」


 ペロリと赤い舌を出した貞園が、布団を引き上げそのまま頭から隠れてしまいます。


(まったく。ちょっと元気になったと思うとすぐあの有様だ。やんちゃすぎて、手に負えん)
音を立ててドアを閉めた康平が、ポケットを探り携帯電話を取り出します。

 長い間にわたり病院内での携帯電話の使用は、自粛ということで規制されてきました。
使用を自粛させる目的は、医療器具への誤作動とアナウンスをされてきましたが、
最近になり、解除の方針をとる病院が増えてきました。
携帯電話により医療器具へ不具合を起こすという可能性は、技術的に存在しないとして、
医療学会などから、携帯電話解禁の動きが目立つようになってきたためです。



 (こちらから美和子へ電話するのは、久しぶりだな)


 数コールの後、『はい。美和子です』と低い声での応答が返ってきました。
(あれ、寝起きの声のようだが?。体調不良かな?・・・・妙に、低い声だ)
意表をつく美和子の低い声に、思わず康平が逡巡をしてしまいます。


 「失礼だわね。康平ったら。
 自分から用事があってかけてきたくせに、無言とはいったいどういうつもりなの。
 どうしたの。こんな朝早くから」


 「あ、いや。体調が悪いのかと思って、少しばかり電話口で躊躇しちまった」


 「電話くらいなら、いつでも出られます。
 風邪気味だけど、お薬は飲めないの。その理由はあなたもよく知っている通りです。
 今日は病院へ行く予定の日ですから、ついででよければ、康平のお店へ顔を出します。
 それとも、もっと急を要する、別の用事なのかしら」


 「相変わらず、君は察しがいい。
 実は昨夜。貞ちゃんが過呼吸の発作を起こして緊急入院をした。
 女医先生の処置が適切で早々と落ち着いたが、経過を観るために少し入院をするようだ。
 よかったら、通院のついでに見舞ってやってくれないか」


 「孕み女が、心身不調で入院中の孤独な女を見舞まえば、それでいいのね。了解です。
 過呼吸は貞ちゃんの持病みたいなものだけど、入院となるとただ事じゃないわねぇ。
 病院はどこなの?。」



 「知っていたのか。貞ちゃんの持病のことを」



 「人前での発作は皆無だったけれど、じわじわと水面下で慢性化の傾向があったもの。
 そんなことにも気づかずにいるなんて、あんたはいったい、貞ちゃんの何処を見つめているのさ。
 おおかた千尋と仲良くなったことで、すっかりと有頂天になっているんでしょ。
 ダメじゃない。可愛い妹から目を離したら。
 パパの再婚話が決まったばかりだもの、情緒不安定に陥るのは当たり前でしょう。
 あんたが目を離すから、貞ちゃんがこんなことになるのよ。
 で、大丈夫なの、元気なの、本人は」


 「なんで君が、千尋のことまで知っているんだ」


 「馬っ鹿じゃないの。
 2年間も一緒に、碓氷製糸場で糸を紡いできた仲なのよ。
 康平から電話が入る前に、千尋からも久しぶりに連絡が入りました。
 これから貞ちゃんの病院へ向かうけど、よかったら病院でゆっくりと会いましょうってね。
 あんたさぁ。のんびりしていると女3人に、まとめて包囲をされちゃうわよ」


 「包囲される?。どう言う意味だ」



 「情報が女たちに共有をされたら一体どうなるのか、少しは考えてみたらどうなのさ。
 貞ちゃんや、私にはもちろん、千尋にも、今後手を出しづらくなるわよ。
 3人が顔を合わせたら、一番立場が悪くなるのは康平だからね。
 わかっているでしょうね、康平くん。あら・・・・もし、もし・・・・
 あらまぁ、返事が帰ってきませんねぇ。どうしたんでしょう、いったい、うふふ」




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