落合順平 作品集

現代小説の部屋。

オヤジ達の白球(54)親睦大会

2018-01-19 19:35:19 | 現代小説
オヤジ達の白球(54)親睦大会 




 親睦大会の日がやってきた。
心配された台風は昨日、予定よりはやく、はやばや通過していった。
台風一過の青空が早い時間からひろがる。

 午前5時。小山農場のハウスの前へ、メンバーたちが集まって来た。
陽子が、まだ寝ぼけ顏の男たちに、収穫用のキュウリ・カッターを配っていく。
そのとなりで柊が定規を手渡す。

 「カッターは利き手の親指にはめて使う。
 まず片手でキュウリをつかむ。つかんだキュウリを、カッターでツルから切り離す。
 切り口の長さは5ミリ。
 おおきさは、いま配った定規ではかること。
 全長は23㌢。途中にマジックで書かれたラインがあるが、これは19㌢。
 この19㌢から23㌢までのものが、収穫に適したキュウリということになる」

 「19㌢以下は、取るなということか・・・。
 だが23㌢以上の場合はどうする?。
 ほうっておけばさらに成長して、お化けサイズになっちまうぞ」

 「いい質問だ。土木屋にしてはキュウリに詳しいな、北海の熊。
 おおきなものは、ためらわずに収穫してくれ。
 ある程度のおおきさなら、規格外として出荷することができる。
 だが25㌢をこえる超大物は、自家消費になる。
 各自持って帰り、あとでキュウリもみにでもして食ってくれ」

 男たちがキュウリ・カッターと定規を手に、ハウスの中へはいっていく。

 親睦大会は2日間の日程で開催される。1日に2試合をおこなう。
2つのブロックに4チームづつはいる。この4チームで総当たり戦をくりひろげる。
結果におうじて、2日目の最後に順位決定戦をおこなう。
Aブロックの1位と、Bブロックの1位が対戦する。
同じように2位と2位、3位と3位、4位と4位のチームが順位をきめる試合にいどむ。

 初戦をむかえたドランカーズのベンチへ、町の役員がやって来た。
北海の熊があわてて、サングラスとマスクを装着していく。

 「おいおい。手遅れだ。あわてて顔を隠さなくてもいいさ。北海の熊さん。
 聞いたぜ。Aクラスの消防チームを相手に無失点の投球をしたんだって?」

 「そんな情報が伝わっているのか。まいったなぁ・・・
 正式の試合じゃないから投げてもいいかなと思い、ふと、魔がさしたんだ。
 申し訳ない。無期限の謹慎中の身だというのに・・・」
 
 「安心しろ。文句をいいに来たわけじゃない。
 メンバー表を見たら、ミスターXとしてメンバー登録してある。
 だがそれでは、今後も顔を隠す必要がある。
 実名では困るが、北海の熊の通称でいいのなら登録を認める。
 という役員会の結論を伝えに来ただけだ」

 「え・・・素顔で投げてもいいのか!。ホントか。
 いつのまに、永久追放の身から保釈の身になったんだ、おれは?」

 「負けた消防チームからの提言があってな。
 いい球を投げる投手をいつまでも追放処分にしておくのはもったいない。
 再登録をみとめてくれと、突き上げてきた。
 協会の中でも非公式だが、そろそろ解除してもいいという機運もある。
 次のシーズンから実名の登録を認めるから、とりあえず北海の熊として投げてくれ」

 「ありがてぇ。粋な提言をするもんだな、消防の若い者も」

 「出場停止中の相手チームも、来年から活動を再開したいと言ってきた。
 高齢化がすすみ、ソフトボールのチームが少なくなっていく今日この頃だ。
 2ケタのチームが参加してきた親睦大会も、いまじゃわずかに8チーム。
 これ以上、減退させないための苦肉の結論にいたった。
 ということにしてくれ」

 じゃよろしくと町の役員が去っていく。

 (ふぅ~ん。俺のために動いたのは消防だけじゃねぇな、たぶん。
 キュウリ農家をグランドへ引っ張り出すため、キュウリの収穫を手伝うチームだ。
 監督か、柊だろうな、こんな洒落たことを考えつくのは。おそらく・・・)

 だが素顔で投げられるとはなんともありがてぇことだ、と熊がつぶやく。

 
 
 (55)へつづく 

オヤジ達の白球(53)心意気

2018-01-17 18:43:20 | 現代小説
オヤジ達の白球(53)心意気




 採りたてのキュウリは鮮度が違う。
折った瞬間、透明の水がしたたり落ちる。キュウリは95%が水分といわれている。
カリウムが含まれている。しかし栄養はほとんどない。
ギネスブックで世界一栄養価の低い野菜として、認定されている。

 「栄養はほとんど有りません。しかしそのぶん効能が有ります。
 カリウムが余分な水分を外に出してくれます。むくみの解消に効果があります。
 イソクエルシトリンという成分があり、こいつには利尿作用があるそうです。
 ほとんどが水分ですので、熱を冷まし身体を冷やしてくれます」

 「そうよね。夏バテの時に食べると身体がすっきりするものねぇ。
 体を冷やしてしまうので冷え性のひとは、食べ過ぎに注意が必要なのよねぇ。
 美容にいいという話も、どこかで聞いたことがあるわ」

 陽子の言葉に男がニコリと笑う。

 「よくご存じです。シリカという成分は、髪やツメを丈夫にしてくれます。
 実はこいつ、薄毛予防にも効果があると言われているんです。
 あ・・・けっして先輩の頭を見て言っているわけではありません。
 念のため」

 あははと男が、楽しそうに笑う。

 「あたりまえだ。キュウリなんぞに頼らんで、自力でなんとかするわい。
 それより、どうなんだ。出来たばかりの呑んべェチームを手伝ってくれるのか?。
 俺たちにはおまえさんの打力と、捕手の能力が必要なんだ」

 「監督さんと、美人のスコアラーさんがわざわざ来てくれました。
 必要だから来てくれと言われれば、断る理由はありません。
 俺で良ければ、よろこんでお手伝いしたいと思います」
 
 「よく言った。それでこそ俺の後輩だ。
 じゃそういうことで、この話は決まりだ。よかった、よかった。万々歳だ。
 これで安心して4番を譲り渡すことができる」

 「ちょっと待ってください」男が柊をさえぎる。

 「じつはちょっとした問題があります。
 ソフトボールは春と秋本番の時期に、大会がひらかれることが多いですよねぇ。
 この季節はキュウリの生産がピークなんです。
 スポーツに最適な陽気は、野菜にとっても最適の季節なんです」

 「そうよねぇ。勤め人なら日曜は休みでも、農家は収穫で大忙しなのよねぇ。
 育ち盛りの野菜に、土曜も日曜も関係ないもの。
 まして1人で仕事していたのでは、大会に参加する時間の余裕なんて、ないわよねぇ」

 「じつはそんな事情もあって、これまでソフトボールに2の足を踏んでいたんです。
 しかし。今回は大先輩からの提案なので断ることも出来ず少々、頭が痛いです」

 「なぁに、そのことなら心配いらねぇ。ちやんと対策を考えてある。
 試合のある日はチームのメンバーを集め、朝早くからキュウリを収穫させる。
 試合したあと、箱詰め作業を手伝えば仕事もはやく終わる。
 おれが声をかければ、10人や15人は集まるさ。
 そうすりゃお前さんもみんなと一緒に、勝利の美酒を呑むことができる。
 どうだ。わるい話じゃないだろう?」

 「実にありがたい提案です。
 しかし、それじゃチームの皆さんに、迷惑をかけてしまうことになります」

 「遠慮することはない。これから同じ釜のメシを喰うんだ。
 メンバーはソフトボールのために、日曜日のまるまる1日を確保してある。
 すこしくらい朝早く集めても、バチは当たらないさ。
 朝の5時に集合させる。
 みんなで手分けしてハウスへ入れば、2時間くらいで収穫できるだろう。
 ただし。ちゃんと指導しないと大変なことになる。
 なにしろ全員がど素人だ。
 規格にあったキュウリを収穫させるため、ちゃんと教えないと
 あとでおまえさんが酷い目にあう。
 ま・・・農家指導員だったおれさまも手伝うから、なんとかなるだろうがな」
 
 「そういうことなら、俺もよろこんで手伝いにくる」と祐介が言えば、
「あたしも!」と陽子がにこりと笑う。
 

 (54)へつづく

オヤジ達の白球(52)有機栽培キュウリ

2018-01-15 18:23:14 | 現代小説
オヤジ達の白球(52)有機栽培キュウリ




 国道を西へ走った車が10分後、ビニールハウスが密集する一帯へハンドルをきる。
群馬県東部のこのあたりに雪は降らない。
露地の野菜畑も見られるが、それ以上にビニールハウスを使った野菜生産が盛んだ。
 
 栽培される野菜は多岐にわたる。
5~6月をピークに、7月中旬まで生産される小玉スイカ。
トマト本来の糖度5~6度を超え、スイカに迫る糖度をほこる「高糖度トマト」。
ホウレンソウや小松菜もビニールハウスの中でつくられる。
夏から秋にかけてキュウリがつくられ、春先からナスを育てる農家もおおい。

 単棟のハウスもある。
しかし、このあたりでは連棟タイプの大型ハウスがやたらに目立つ。
道の両脇にびっしりと連棟のハウスが並びはじめた。

 「このハウスだ。いまの時間、ここで作業しているはずだ」

 ハウスの一角で柊が車をとめる。
「やけに詳しいな、おまえ」車を降りながら勇作が、柊に声をかける。

 「総合土木職の前は、農業試験場で副所長をしていた。
 やたらと有機栽培の普及で奔走した。
 化学肥料と農薬を減らし、安心と信頼の群馬の野菜を育てるためさ。
 道路の補修に駆け回る前は、キュウリやナスの有機栽培を指導していたんだ」

 「なるほど。それでビニールハウスばかりのこのあたりの地理に詳しい訳か。
 俺にはどれも同じに見えて、まったく区別がつかないが・・・」

 「お~い、居るかぁ。俺だぁ~」奥へ向かって柊が、大きな声で呼びかける。
ほどなくして「は~い」という声が戻って来る。

 「珍しいですねぇ、大先輩」日に焼けた顔が、キュウリの向こうからあらわれる。
葉の手入れをしていたようだ。
手にちぎったばかりの大きなキュウリの主葉を握っている。

 「おう。電話で伝えた一件でやって来た。
 こちらが居酒屋の店主。できたばかりのチームの監督をしている祐介だ。
 うしろにいるのはスコアラーの陽子さん。2人は他人の関係だそうだ。
 悪いなぁ。仕事中に邪魔して」

 「どういたしまして」男の日に焼けた顔が柔和になる。

 「呑んべェ軍団のソフトボールチームだ。
 メンバーはだいたい揃った。だが4番を打てる強打者と、正式な捕手がいない。
 そこでその昔、名門高校のソフトボール部を苦しめたお前さんに、
 白羽の矢を立てたというわけだ」
 
 「4番なら柊さんで十分でしょう?」

 「それがな。俺はいま、足裏のを痛めて治療中の身だ。
 いい投手はいる。だがそいつの球を、上手に取れる捕手が居ねぇ。
 おまえさんはうってつけだ。
 どうだ。そういうわけだ。こいつのところのチームへ入ってくれねぇか」

 「大先輩からの頼みではイヤとは言えませんねぇ。立場上・・・」

 日に焼けた顔に笑顔が浮かぶ。
「監督さん。ウチのキュウリ食べます?。スコアラーさんも1本どうですか」
男の指が、20㌢ほどに育ったキュウリをもぎり取る。
祐介と陽子の前へ「どうぞ」と差し出す。

 スーパーで見るような、緑色に輝いたキュウリではない。
表面に白い粉がういている。
カビや農薬ではない。
熟した野菜や果物の表面によくみられる、ブルームという粉上のろう物質だ。
人体にはまったくの無害。そのまま食べても何の問題もない。

 「そのまま口にして安全です。ウチは農薬を使っていません。
 俺の顔をたてて絶対に農薬を使うなよと、先輩からくどく言われていますから。
 そのせいで他所から比べると、収穫が2割ほど落ちますけどね」

 あははと男が白い歯を見せて、うれしそうに笑う。

 (53)へつづく

オヤジ達の白球(51)郊外へ

2018-01-11 17:37:01 | 現代小説
オヤジ達の白球(51)郊外へ




 車が橋を渡る。郊外へ出る。
運転しているのは柊。助手席に監督の祐介。後部座席に陽子が座っている。

 「ひとつ聞く。つきあっているのか、おまえさんたちは?」

 前を向いたまま柊が、祐介に語りかける。

 「難しいな。どの程度からつきあっていると言うのかな?」

 「ハグする。軽く触れる。このあたりまでならセーフだ。
 しかしそれ以上の行為になると、付き合っていることになる。
 寝たかもう、おまえさんたちは?」

 「ずかずか切り込んでくるな。おまえさんも」

 「ぞっこんに惚れていただろう、昔の陽子さんに」

 「初恋の人だ。たしかに昔は惚れていた。
 まだ遠いのか、怪童の家は?」

 「話題をそらしたな。それ以上はノーコメントいう意味か?」

 「そういうつもりはない。だがそういう意味だ」

 「国道を西へあと10分も走れば、もと怪童の家に着く」
 
 「後輩ということだが、歳はいくつになる?」

 「3つ下。俺が卒業する。あいつが入学してくるのすれ違いだ。
 だが、あいつが入ってからのソフトボール部の躍進はすごかった。
 常勝の新島学園から優勝旗を奪ったのは、あいつが入った我が高校のソフト部だ」

 「新島学園というのは、そんなに凄いのか?」

 「日本ソフトボール協会のある理事が、この世界で石を3つ投げたら2つは
 新島学園のOBに当たると言ったことがある。
 それほどの名門校だ。
 インターハイ優勝は5回。準優勝は4回。
 創部から半世紀をこえる。
 この間のOBの数は、ゆうに500人を超える。
 日本代表に名を連ねる選手を数おおく輩出している。
 それだけじゃない。おおくのOBが全国に指導者として散らばっている」

 「それほどの名門高校に勝ったのか、怪童の入ったソフトボール部は!」

 「2年と3年の夏、2度も新島学園に競り勝った。
 そのまますすめばそいつは、全日本の捕手になるのも夢ではなかった。と思う」

 「と思う?。アクシデントが発生したのか、そいつの身に?」

 「オヤジが急逝した。あいつが高校3年の秋のことだ。
 進学をあきらめ、オヤジのあとを継いでキュウリ農家になった」
 
 「お前さんの母校は商業高校のはずだ。
 なんで農家の後継ぎが、普通高校に在籍していたんだ?」

 「あいつがなにを目指していたかは知らん。
 たぶん、農家を継ぐのではなく、違う分野で身を立てることを考えていたらしい。
 親も苦労ばかりおおい農業を、我が子に継がせたくなかったらしい」

 「それがなんで農家を継ぐことになったんだ?」

 「兄弟がおおい。怪童は5人兄弟の長男だ」

 「兄弟を育てるために親の跡をついだのか。
 将来の夢を諦めて、キュウリ農家になったということか?」

 「くわしいことは知らん。
 将来を期待された選手が高校3年の秋に、とつぜん消えたという現実だけが残った。
 いまから30年前の話さ。
 怪童はいま48歳。ただの働き盛りのキュウリ農家ということになる」

 (52)へつづく

オヤジ達の白球(50)同志愛

2018-01-06 17:23:23 | 現代小説
オヤジ達の白球(50)同志愛



 
 「そう言う柊こそ、何してんだ?
 うろうろ歩き回って大丈夫なのか。足はもういいのか?」

 「医療用のインソールを、靴の中へ入れてある。
 痛みは残っているがこいつのおかげで、ずいぶん楽になった」

 「そいつは何よりだ。おまえさんが欠けるとチームの得点力が落ちるからな」

 「そのことなら心配はいらねぇ。
 俺よりずっと役に立つ男を見つけ出した。
 バッターとしても強力だ。だがそれ以上にそいつには、捕手の経験がある。
 これから祐介と2人でそいつを口説きに行く」

 「えっ、監督も来るのか。ここへ・・・
 なんだかぞくぞくと集まって来るなぁ、チームの関係者が。
 でもよ。なんでこんな辺鄙な場所で待ち合わせしたんだ、監督と?」

 「交渉の件もあるが、それだけじゃねぇ。
 風の便りでこのあたりで、敵前逃亡した坂上が練習していることを聞いた。
 祐介もそれなりには心配している。
 だが声をかけるつもりはない。
 遠くから練習している姿だけ見ておこうということになった」

 「へぇぇ・・・噂になっているのか。坂上の秘密練習が」

 「なにが秘密の練習だ。
 あやしい格好をしたオジサンが、こんなところで毎日、壁に向かって
 ソフトボールを投げていればいやでも噂になる」

 しかし。練習の成果はまったく出ていないようだなぁ、と柊が顔を曇らせる。
動きがぎこちない。油が切れたロボットの様な有様だ。
坂上はもともと運動には縁のない男だ。どちらかといえば不器用の部類へはいる。

 暴投するたび。壁から跳ね返ったボールを坂上がひろいへ行く。
しかし。その足取りにまったく覇気がない。
疲れた男が足をひきずり、草むらを転がっていくボールを追いかけていく。
ボールを拾い、戻って来る時の足取りにも元気がない。

 「なんだよ。やる気があんのか、あいつには・・・」

 「チェッ」熊がおおげさに舌を鳴らす。
「おまえ。なに傍観してんだよ。手伝ってやればいいだろう。あいつを」
土手に座り込んでいる岡崎を、横目で睨む。

 「手伝う?。俺が?。なんだよ突然、いったいぜんたいどういう意味だ?」
 
 「初心者が壁に向かって何万球投げても、無駄なだけだ」

 「そんなことはないだろう。
 必死で投げ込んでいるんだ。そのうちにそれなりの成果は出てくるだろう」

 岡崎が真剣な顔で坂上を弁護する。

 「だからド素人は駄目なんだ。
 いいか。暴投を投げようが、いい球を投げようが、壁は一切反応しない。
 投手ってのは捕手のミットめがけて投げるもんだ。
 一方的にただ投げりゃいいって訳じゃない。
 投げる奴が居て、受け取る相手が居る。
 女房役の相方が居てはじめて、打者を相手にしたピッチングが成立する。
 暴投や四球ばかり投げりゃ、受ける捕手が可哀想だ。
 取りやすいいい球を投げてやりたい。そう思う中でコントロールが育っていくんだ」

 「何を投げても反応しない壁じゃ、成長が遅れるということか!」
 
 「なかなか察しがいいな。
 お前。あそこへ座りあいつの球を受けてやれ。岡崎」

 「えっ、俺があいつのキャッチャーをするのか?」

 「そういうことだ。
 コントロールの悪い男の球を受ける。そうするとお前さんの球の取り方もうまくなる。
 どうだ。一石二鳥のいい考えだろ。」

 熊の提案に、「そいつは名案だ」と柊もうなずく。

 「おまえらは昔から、同じ穴のムジナだ。
 同級生のよしみでギャラリーなんかしてないで、あいつの球を受けてやれ。
 それで坂上のコントロールも良くなる。お前さんの球の取り方も上手くなる。
 結果的にやがて、チームのためにもなる。
 いいもんだな。同級生の同志愛というものは。あっはっは」

 柊の笑い声が土手にひびきわたる。
 
 (51)へつづく