オヤジ達の白球(54)親睦大会
親睦大会の日がやってきた。
心配された台風は昨日、予定よりはやく、はやばや通過していった。
台風一過の青空が早い時間からひろがる。
午前5時。小山農場のハウスの前へ、メンバーたちが集まって来た。
陽子が、まだ寝ぼけ顏の男たちに、収穫用のキュウリ・カッターを配っていく。
そのとなりで柊が定規を手渡す。
「カッターは利き手の親指にはめて使う。
まず片手でキュウリをつかむ。つかんだキュウリを、カッターでツルから切り離す。
切り口の長さは5ミリ。
おおきさは、いま配った定規ではかること。
全長は23㌢。途中にマジックで書かれたラインがあるが、これは19㌢。
この19㌢から23㌢までのものが、収穫に適したキュウリということになる」
「19㌢以下は、取るなということか・・・。
だが23㌢以上の場合はどうする?。
ほうっておけばさらに成長して、お化けサイズになっちまうぞ」
「いい質問だ。土木屋にしてはキュウリに詳しいな、北海の熊。
おおきなものは、ためらわずに収穫してくれ。
ある程度のおおきさなら、規格外として出荷することができる。
だが25㌢をこえる超大物は、自家消費になる。
各自持って帰り、あとでキュウリもみにでもして食ってくれ」
男たちがキュウリ・カッターと定規を手に、ハウスの中へはいっていく。
親睦大会は2日間の日程で開催される。1日に2試合をおこなう。
2つのブロックに4チームづつはいる。この4チームで総当たり戦をくりひろげる。
結果におうじて、2日目の最後に順位決定戦をおこなう。
Aブロックの1位と、Bブロックの1位が対戦する。
同じように2位と2位、3位と3位、4位と4位のチームが順位をきめる試合にいどむ。
初戦をむかえたドランカーズのベンチへ、町の役員がやって来た。
北海の熊があわてて、サングラスとマスクを装着していく。
「おいおい。手遅れだ。あわてて顔を隠さなくてもいいさ。北海の熊さん。
聞いたぜ。Aクラスの消防チームを相手に無失点の投球をしたんだって?」
「そんな情報が伝わっているのか。まいったなぁ・・・
正式の試合じゃないから投げてもいいかなと思い、ふと、魔がさしたんだ。
申し訳ない。無期限の謹慎中の身だというのに・・・」
「安心しろ。文句をいいに来たわけじゃない。
メンバー表を見たら、ミスターXとしてメンバー登録してある。
だがそれでは、今後も顔を隠す必要がある。
実名では困るが、北海の熊の通称でいいのなら登録を認める。
という役員会の結論を伝えに来ただけだ」
「え・・・素顔で投げてもいいのか!。ホントか。
いつのまに、永久追放の身から保釈の身になったんだ、おれは?」
「負けた消防チームからの提言があってな。
いい球を投げる投手をいつまでも追放処分にしておくのはもったいない。
再登録をみとめてくれと、突き上げてきた。
協会の中でも非公式だが、そろそろ解除してもいいという機運もある。
次のシーズンから実名の登録を認めるから、とりあえず北海の熊として投げてくれ」
「ありがてぇ。粋な提言をするもんだな、消防の若い者も」
「出場停止中の相手チームも、来年から活動を再開したいと言ってきた。
高齢化がすすみ、ソフトボールのチームが少なくなっていく今日この頃だ。
2ケタのチームが参加してきた親睦大会も、いまじゃわずかに8チーム。
これ以上、減退させないための苦肉の結論にいたった。
ということにしてくれ」
じゃよろしくと町の役員が去っていく。
(ふぅ~ん。俺のために動いたのは消防だけじゃねぇな、たぶん。
キュウリ農家をグランドへ引っ張り出すため、キュウリの収穫を手伝うチームだ。
監督か、柊だろうな、こんな洒落たことを考えつくのは。おそらく・・・)
だが素顔で投げられるとはなんともありがてぇことだ、と熊がつぶやく。
(55)へつづく
親睦大会の日がやってきた。
心配された台風は昨日、予定よりはやく、はやばや通過していった。
台風一過の青空が早い時間からひろがる。
午前5時。小山農場のハウスの前へ、メンバーたちが集まって来た。
陽子が、まだ寝ぼけ顏の男たちに、収穫用のキュウリ・カッターを配っていく。
そのとなりで柊が定規を手渡す。
「カッターは利き手の親指にはめて使う。
まず片手でキュウリをつかむ。つかんだキュウリを、カッターでツルから切り離す。
切り口の長さは5ミリ。
おおきさは、いま配った定規ではかること。
全長は23㌢。途中にマジックで書かれたラインがあるが、これは19㌢。
この19㌢から23㌢までのものが、収穫に適したキュウリということになる」
「19㌢以下は、取るなということか・・・。
だが23㌢以上の場合はどうする?。
ほうっておけばさらに成長して、お化けサイズになっちまうぞ」
「いい質問だ。土木屋にしてはキュウリに詳しいな、北海の熊。
おおきなものは、ためらわずに収穫してくれ。
ある程度のおおきさなら、規格外として出荷することができる。
だが25㌢をこえる超大物は、自家消費になる。
各自持って帰り、あとでキュウリもみにでもして食ってくれ」
男たちがキュウリ・カッターと定規を手に、ハウスの中へはいっていく。
親睦大会は2日間の日程で開催される。1日に2試合をおこなう。
2つのブロックに4チームづつはいる。この4チームで総当たり戦をくりひろげる。
結果におうじて、2日目の最後に順位決定戦をおこなう。
Aブロックの1位と、Bブロックの1位が対戦する。
同じように2位と2位、3位と3位、4位と4位のチームが順位をきめる試合にいどむ。
初戦をむかえたドランカーズのベンチへ、町の役員がやって来た。
北海の熊があわてて、サングラスとマスクを装着していく。
「おいおい。手遅れだ。あわてて顔を隠さなくてもいいさ。北海の熊さん。
聞いたぜ。Aクラスの消防チームを相手に無失点の投球をしたんだって?」
「そんな情報が伝わっているのか。まいったなぁ・・・
正式の試合じゃないから投げてもいいかなと思い、ふと、魔がさしたんだ。
申し訳ない。無期限の謹慎中の身だというのに・・・」
「安心しろ。文句をいいに来たわけじゃない。
メンバー表を見たら、ミスターXとしてメンバー登録してある。
だがそれでは、今後も顔を隠す必要がある。
実名では困るが、北海の熊の通称でいいのなら登録を認める。
という役員会の結論を伝えに来ただけだ」
「え・・・素顔で投げてもいいのか!。ホントか。
いつのまに、永久追放の身から保釈の身になったんだ、おれは?」
「負けた消防チームからの提言があってな。
いい球を投げる投手をいつまでも追放処分にしておくのはもったいない。
再登録をみとめてくれと、突き上げてきた。
協会の中でも非公式だが、そろそろ解除してもいいという機運もある。
次のシーズンから実名の登録を認めるから、とりあえず北海の熊として投げてくれ」
「ありがてぇ。粋な提言をするもんだな、消防の若い者も」
「出場停止中の相手チームも、来年から活動を再開したいと言ってきた。
高齢化がすすみ、ソフトボールのチームが少なくなっていく今日この頃だ。
2ケタのチームが参加してきた親睦大会も、いまじゃわずかに8チーム。
これ以上、減退させないための苦肉の結論にいたった。
ということにしてくれ」
じゃよろしくと町の役員が去っていく。
(ふぅ~ん。俺のために動いたのは消防だけじゃねぇな、たぶん。
キュウリ農家をグランドへ引っ張り出すため、キュウリの収穫を手伝うチームだ。
監督か、柊だろうな、こんな洒落たことを考えつくのは。おそらく・・・)
だが素顔で投げられるとはなんともありがてぇことだ、と熊がつぶやく。
(55)へつづく