落合順平 作品集

現代小説の部屋。

上州の「寅」(46)年齢不詳? 

2021-01-05 17:17:54 | 現代小説
上州の「寅」(46) 

 
 「おい。おまえ。名前は!」


 「ユキ」


 「その名前はさっき娘から聞いた。そうか。ユキというのは本名だな。
 住所は・・・生まれは何処だ。
 中学生を使うわけにはいかん。親に知らせる。親がいるだろ。
 電話番号と住所を言え。」


 「親はいません」


 「いないわけがないだろ。その歳で天涯孤独の独り身か!」
 
 「家出中です。親はいません」


 「ほら見ろ。やっぱり居るじゃないか。
 住所は何処だ。親の携帯番号を教えろ。すぐ連絡を取る」


 「知りません」


 「嘘を言うな。親の電話番号を知らないはずがないだろう」


 「忘れました」


 大前田氏の追及をユキがのらりくらり逃げていく。
収穫の無い展開に、やがて大前田氏の怒りが頂点へ達していく。
顔がみるみる赤くなる。


 「いい加減にしろ!」


 大きな声を出したとき。大前田氏が背後のざわざわに気がつく。
いつのまにか同業者の人だかりができている。


 「おいこら、おまえら。見世物じゃねぇぞ!。
 集まるんじゃねぇ。仕事の準備をしろ」


 「若頭。大きな声を出して子供をイジメちゃダメだぜ」


 「なんだって。いじめているわけじゃねぇ。
 俺はただこの女の子と紳士的に話をしているだけだ」
 
 「紳士的?。どうだかなぁ。
 わたしらにはとてもそんな風には見えませんが」


 「そうだそうだ。
 頭ごなしにポンポンいうな。怖がっているぞ。相手は子供だ」


 「そういえばそこのチャコだって、働きはじめたのは10歳のときだ。
 おれらは止めた。
 それなのに俺の娘は特別だって無理を押し通したのは若頭だ。たしか」
 
 「テキヤの親方だ。15歳以下をつかっちゃいけねぇのは知ってるはずだ。
 それなにチャコをこき使ってきたからな。このオヤジときたら」


 「看板娘のおかげで、ずいぶん儲けたはずだ若頭は。
 わしらも子供を使いたかったが、おかみに法律で禁止されている。
 おかみに訴えて出るか。
 理事の大前田氏が長年、15歳以下の女の子に仕事させてきましたと」


 「わかった、わかった。
 いったいおまえらはこの俺にどうしろというんだ」


 「その子にも事情があるだろう。
 いいじゃねぇか。年齢不詳ということで2~3日くらいは置いてやれよ」


 「家出中じゃ飯にも宿にもすぐ困る。面倒見てやれ」


 「あたしの口紅を貸してやる。
 真っ赤に塗れば3つや4つ、歳を誤魔化せる」


 「そいつはいい考えだ。あたしのサングラスも貸してあげる。
 これであと3歳はあがるだろ」
 
 「おまえら。本気でこの金髪の家出娘をかくまうつもりか!」
 
 「ここにはまともな奴もいるが、家出同然で商売しているやつもいる。
 いいじゃねぇか。テキヤだ。いろんな奴がごちゃごちゃ居ても。
 ねえちゃん。14歳で金髪にするとはいい根性だ。
 チャコに面倒を見てもらえ。
 融通の利かねぇこの頑固なオヤジより、よっぽど頼りになるぞ」


 「悪かったな。融通の利かねぇ頑固オヤジで!」
 
 こいつらときたら・・・と大前田氏がたちあがる。


 「ユキと言ったな。
 親の住所と電話番号を思いだしたら、チャコへ言え。
 あとで俺が電話して、うまくいっておくから心配するな。
 安心して働け。お前は今日から16歳だ。
 断っておくが最初は見習いだぞ。
 仕事ができる様になったらそれなりの時給をちゃんと払う。
 ここにいるこいつら全員が証人だ。みんなに感謝しろ。
 じゃあな。頑張れよ」


 (47)へつづく


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