落合順平 作品集

現代小説の部屋。

オヤジ達の白球(16)飲んべェのチーム

2017-05-25 19:06:44 | 現代小説
オヤジ達の白球(16)飲んべェのチーム



 北海の熊が、大きなため息をひとつつく。


 「たしかにガラの悪いチームだった。だけど妙に居心地は良かった。
 だが親睦ソフトの大会で、ヤンキーやチーマーが大きな顔をしているようじゃ、
 町の体協は迷惑だ。
 買収事件をきっかけに、永久追放されたって文句は言えねぇさ」


 じゃ帰るか俺もと、北海の熊が立ち上がる。
「おい。最後まで話を聞いていかねぇのか」岡崎が熊をひきとめる。

 「大将に頼んで、居酒屋のチームをつくるって話か?。
 俺は参加しないぜ。
 もうソフトボールなんかには、興味がねぇ。
 坂上の野郎が、俺が投げると張り切っているじゃねぇか。
 新しいチームは、坂上に投げさせればいいだろう」


 引き留めんな、つまらない話でと北海の熊が帰っていく。
ガタンと音を立て、入り口のガラス戸が閉まる。
「じゃ、そろそろ帰るか、おれたちも」かたずけを終えた祐介が立ち上がる。
岡崎と祐介の自宅は、帰る方向が同じだ。
ふらりと表に出た2人が、堤防の道を千鳥足で歩き出す。


 「なぁ大将。
 坂上のやつが本気で投げ始めたら、ソフトボールのチームを作ってくれるかい?」


 「常連客へ声をかけてもいい。
 飲むだけなら全員がホームランバッターだが、野球の経験者はほとんど居ない。
 それでもいいのなら集めてみるが、なんだか前途は多難だな・・・」


 「素人ばかりのソフトボールチームが誕生するのか・・・
 たしかに前途は多難だ。
 だけどよ。誰かが本気で声をかけてくれなきゃ人は集まらねぇ。
 ソフトは団体競技だ。
 のんべぇばかりでも、10人も集まればなんとか格好になるだろう」

 
 「酒ばかり呑んでいるのでは、たしかに身体に悪い。
 身体を動かして汗をかくのはいいことだ。
 飲んべェばかりの、ど素人のソフトボールチームか。
 まぁいいか・・・そんなチームがこの世にひとつくらい存在しても」



 突然の話だが、まだ実感はない。
実現するとは思えないが、手がけてみるだけの価値はある。
ぼんやり祐介がそんな風に考えはじめたとき、岡崎が生真面目な顔で振り返る。


 「なぁ大将。ここだけの話だ。
 いちどでいいから俺は坂上の奴に、何かを成し遂げさせてやりたいと思っている。
 あの野郎はみんなが言うように、取り柄の無いどうしょうもない男だ。
 長続きした趣味なんか、ひとつもねぇ。
 だがよ、こんどばかりは、あいつの瓢箪から駒を出してやりてぇ」


 「同級生だからな、おまえさんは。
 肩を持ちたい気持ちはわかる。
 しかし。そんな簡単にウインドミルのピッチャーにはなれないぜ」


 「熊の話じゃ、ものになるまで最低でも3年はかかるそうだ。
 だがよ。そんな呑気なことは言ってられねぇ。
 のんびり構えていたら、また坂上の気持ちがかわっちまう。
 どうだろう。こんどの秋の大会に、居酒屋のチームとして参加するというのは」


 秋の大会といえば半年後だ。
(短すぎる。いくらなんでも性急すぎるだろう)祐介が異を唱えようとしたとき、
岡崎が自信たっぷり、祐介を正面から見据える。


 「そのくらいでちょうどいいんだ。
 あいつの性格は長年つきあってきた俺が、一番よくわかっている。
 ブタもおだてりゃ木に登る。
 そういう男だぜ。坂上という超単細胞は」


 「おだてりゃ木に登るのか、坂上は?」


 「馬鹿はとににかくおだてるに限る。長い目で見るのは駄目だ。
 短期決戦で、早めに結果を出すようにさせる。こいつが一番効果的だ。
 秋の大会にエントリーしたから、早くウインドミルをマスターしろと持ち上げる」


 「うまく行くかな?。こちらの思惑通りに・・・」


 「うまくいかない場合もある。
 そのときのために、隠し玉として、北海の熊に投げさせればいい。
 あいつは実績がある。坂上が間に合わなくても、充分に穴埋めは出来る」


 「熊は駄目だ。あいつは永久追放のチームの一員だ。
 そんなやつを投手として登録したら、町の体協が絶対にウンと言わないだろう」


 「ミスターⅩとして登録しておくのさ。
  本番になったら、サングラスとマスクで変装させればいい」

 「おいおい。いいのかよ、そんないい加減なことで・・・」



 「構うもんか。なんとかなるだろう。
 しょせんは飲み屋に集まるのんべぇのチームだ。
 多少のことなら、許されるだろう」

 (17)へつづく


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オヤジ達の白球(15)土方(どかた)ヤンキー

2017-05-23 18:46:46 | 現代小説
オヤジ達の白球(15)土方(どかた)ヤンキー



 土方とは道路工事や治水工事、建築の現場で働く作業員のことを指す。
ただし。土方という表現には、差別意識がつきまとう。


 作業員の中で特に資格や技術を必要としない部署で働く人や、
日雇い労働者たちをイメージして使われる事が多い。
丸山明宏(現:美輪明宏)の代表曲『ヨイトマケの唄』の中に、
土方という表現がある。
差別用語を使った曲として、放送禁止に指定された。
しかし。差別用語としてわけることこそが差別ではないかという意見もある。
嘲う意を込めた派生語、『ドカチン』という言葉もある。


 作業員の一部に、土方ヤンキーと呼ばれる元気な集団が居る。
高校を卒業したばかりのヤンキーたちが、そのまま土木業界へ流れ込んで来た。


 ヤンキーにも語源が有る。
南北戦争の時代。北軍の兵士や北部諸州人を軽蔑した呼び方が『Yankee』だった。
『ヤンキー』はのちに、アメリカ人全体をさす言葉になった。


 日本で不良っぽい若者たちのことを『ヤンキー』と呼ぶようになったのは、
大阪難波の『アメリカ村』からはじまった。
1970年代から80年代にかけて、アメリカ村で買った派手なアロハシャツや
太いズボンを履き、繁華街をウロウロする若ものたちを、ヤンキーと呼ぶようになった。
やがて不良少年全体をさすようになり、西日本を中心に全国へひろまった。


 髪の毛は金色。耳にピアス。だぶだぶのポッカニッカに地下足袋のいでたち。
見た目と裏腹に、かれらは額に汗して真面目に働く。
かれらが汗を流すことで、やがてビルが建ち、道路が舗装されていく。
真夏。炎天下でのアスファルト舗装は、太陽の照り付けをまともに受ける。
足元は、百度単位でドロドロに溶かされたものを扱う。
暑さと厳しさは半端ではない。

 
 彼らの楽しみといえば、やはり、仕事上がりの酒になる。
そうじて品行は良くない。呑めば地が出る。
学校は卒業しているが、学業のほうはさぼりっぱなしだ。
中には漢字をろくに読めない者もいる。



 そんなかれらの楽しみが、業界が作ったソフトボールだ。
ナイター設備の整った球場での試合は、週末における最大の楽しみだった。
誰に遠慮することなく、思う存分、自分を発散できるからだ。


 土木業界にも狙いが有った。
暴走しがちの若い世代を、コントロールしたかった。
酒に走らせるより、スポーツで体力を浪費させた方がリスクが少ない。
チームプレーはまた全体の連帯感を生む。
上下関係や、集団で何かを成し遂げることの意味合いを試合を通して
理解させることもできる。


 残党たちで作ったソフトのチームに、そうしたメンバーたちが戻って来た。
声をかけてきたのは、地元でチーマーをまとめてきた若頭。



 チーマーとは、1990年代に流行した不良のスタイル。
その前の世代に流行したヤンキーや暴走族とは異なる。
アメカジ(アメリカンカジュアル)や古着を身に纏ったファッショナブルな
スタイルが最大の特徴だ。
その後ファッションは、ブラックを基調にしたギャング系に変っていく。


 彼らは悪知恵が利く。目的を達成するためにはどんな手も使う。
道徳観のないヤツが多い。
頭がキレるタイプの場合、社会へ出たら、正攻法でいくのが一番効率的だと気がつく。
しかし。いざ大きいビジネスとなると、ある程度のリスクだったら普通やらないような
手口を使ってしまうこともある。
そのようにして会社の中で、成長していくヤツも居る。


 酔ってくると話が物騒になる。
『●●が帰ってきたぜー』などという会話が、ふつうにはじまる。
いったい何処から帰って来たんだ、という話になるが、あまり関わらないほうがいい。
警察からの逃れるため海外へ逃亡していたとか、懲役へ行き、刑期が満了して
シャバへ出てくるという話に、きっとなるからだ。


 あたらしく誕生したチームには、こうしたヤンキーやチーマーたちがごまんと居る。
それが北海の熊が去年まで所属していた、残党たちのソフトボールチームだ。

(16)へつづく



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オヤジ達の白球(14)民事再生法

2017-05-22 18:04:01 | 現代小説
オヤジ達の白球(14)民事再生法




 熊の勤めていた土木会社も、バブル崩壊の影響をまともに受けた。
完工高は40億ちかくにふくれあがっていた。
しかし。約束していた銀行からの融資が受けられず、5億の手形が落ちなくなる
瀬戸際に追い込まれた。
追い打ちをかけるように工事中だった大きな現場が、つぎつぎ完成していく。
下請け業者への支払いの期日が切迫してくる。
こうなると資金繰りが、ますます厳しい状況になっていく。


 さいわいなことに、元請の大手建設会社から融資を受けることが決まっていた。
だが頼みの綱の元請本体が、銀行から大規模な債務保証を受ける状態に陥ってしまった。
結局。融資は実現しなった。
ここまで追い込まれてしまうと、あとは銀行管理になるか倒産するかの
選択しか残されていない。


 3代目の社長は、事業を継続してこそ意味が有ると考えた。
三日三晩の寝ずの検討を重ねた結果、民事再生の道があることを知る。
民事再生法を申請し、事業をつづけながら弁済していくという、いばらの道を選択する。



 民事再生法は、日本における倒産法のひとつ。
中小企業の再建を目的として、2000年から施工された法律だ。
「破産手続開始の原因の生ずるおそれ」または「事業の継続に著しい支障を来すことなく
債務を弁済できないこと」が裁判所に認められれば、債務を大幅に減らすことができる。
また経営方針や業務内容を見直すことで、事業を継続しながら会社再建を
目指すこともできる。


 倒産と会社更生法と、民事再生法には大きな違いが有る。
「倒産」は、事業継続が困難になった会社が破産・清算をおこなうことを言う。
倒産することで、すべてを荼毘(だび)に付してしまう。
その時の傷は大きいが、時がたてば当時の代表者はまた新しい会社を設立することも
出来るし、クレジットカードを持つこともできる。


 会社更生法は、主に中小企業の再建を念頭に置いたものだ。
裁判所が選任した管財人の下で事業の再建を目指す。
当然トップ経営陣は一新される。それまで在籍していた代表者はそこでお役御免になる。
しかし。民事再生法を受けた会社は、事業も代表者もそのまま継続することができる
債務額は大幅に削減されるが、弁済しながら事業を続けていくことになる。



 民事再生受理1週間後。説明会を開いたところ、200名以上の債権者が集まった。
血気盛んな業者も多く、紛糾して収集がつかず。翌週もう一回行うことになった。
罵倒、怒号の限りを浴びながらも、理解してもらうまで話し合いを重ねる日々がつづいた。
すべての清算が済めば解放される倒産と違い、民事再生法は事業も代表者も継続する。
このときの思いを「全身に包帯をぐるぐる巻にした重症患者が、なんとか自力で
会社を建て直している感じだった」と3代目の社長は振り返っている。

 
 民事再生法下の会社は、銀行からの融資を受けられない。
今までの取引先も離れていく。
申請前は40億あった完工高が、僅か1億まで落ちこんでいく。
四面楚歌の中。厳しい資金繰りをこなしながら、会社は第一回目の弁済をおこなう。
以後。10回にわたり弁済を行っていく。


 ピークの時には70人いた社員が、わずか4人になった。
その4人の中に、北海の熊が居た。
長く居た社員たちが次々と去っていく中。熊は迷わず社長と運命を共にした。
別に深い考えが有ったわけでは無い。
自分にソフトボールの投手という新しい出会いを作ってくれた会社と社長に
深く感謝をしていたからだ。
ただそれだけで、会社と運命をともにすると最初から決めていた。


 民事再生から5年。会社が弁済を完了する。
1億前後と低迷していた受注が、わずかずつだが上昇していく。
そうなるとかつての社員たちが、ひとりふたりと会社へ戻って来る。


 熊は会社の先行きを考えるほど、斬れる頭を持っているわけでは無い。
もとどおりの重機のオペレーターに戻る。
冬になると東北地方や北海道から出稼ぎにやってくる季節労務者たちをまとめながら
あちこちの現場を転々とする生活が、熊に戻って来た。


 そんな暮らしが落ち着いてきたころ。
かつてのライバルから、ひさしぶりの電話がかかってきた。


 『熊か。ひさしぶりだな。
 実はよ。土木リーグの残党たちであたらしいチームを作った。
 だが、優秀な投手が居ない。
 どうだ。おれたちのチームへきてもういちど、いっしょにソフトをやらないか』


(15)へつづく

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オヤジ達の白球(13)北海の熊

2017-05-20 19:12:48 | 現代小説
オヤジ達の白球(13)北海の熊


 
 北海の熊は、その名の通り北海道出身。
怪童と呼ばれ、野球で知られる某私立高校で甲子園出場を目指した。
『プロを目指せる逸材』と一部の人たちから、熱い注目をあつめた。


 しかし高校2年の夏。それまでの無理がたたり、ついに肩を壊した。
野球選手が肩を壊せば致命傷になる。投手とくればなおさらだ。
手術することも考えた。
メスを入れれば1年以上、リハビリに専念することになる。
それでは甲子園に間に合わない。


 結局。痛みをこらえて投手をつづけた。
しかし野球の神は、彼に味方しなかった。結果はさんたんたるものになった。
2年生の夏は2回戦で敗退。痛みがさらに激しくなった3年生の夏は、
1回戦で、弱小高校にコールド負けというおまけまでついた。



 傷心のまま高校を卒業した熊が、故郷を離れ群馬の土木会社へ就職した。
土木業は、道路工事などの公共事業を行う業界。
橋や高速道路、ダム、トンネルなどの建設に携わる。
土木業はまず、土地を整備するところから仕事がはじまる。


 土木業界と建築業界は似たもの同士という印象が有る。
建物や施設を作るという意味では同じだが、土木が地面の中や表面の作業を
行うのに対し、建築は地上の建物を担当する。


 土木作業員は工事現場に出て、仕事をする。
重機を運転することもある。
重機や作業の免許などを持っていない若者や初心者は、もっぱら力仕事にまわされる。
一生、力仕事と重機を運転し続けるかというと、そうでも無い。
経験を積み、さまざまなことを覚えていくとやがて会社から、現場を取り仕切る
役割を任されるようになる。
これが俗にいう『現場監督』という役職だ。


 北海の熊の場合。もと高校球児。体力は無限なまでにある。
人の嫌がる現場の力仕事を、みずからすすんで引き受けた。
頭は悪いが、身体は頑丈そのものだ。


 この頃。業界の親睦を深めるための、土木業界のソフトボール大会があった。
土木業界はなぜか、屈強な男たちばかりが集まる。
力と体力を持て余した結果、非行に走られたのでは業界としてたまったものではない。
体力を浪費させるため業界が力を入れたのが、ソフトボール。


 ナイター設備の球場を短期間でつくることなど、朝飯前。
あっというまに、6社からなる業界のソフトボールリーグが誕生した。
週末の度に試合が開催された。
もと高校球児の熊にも白羽の矢が立った。
肩を壊したとはいえ、甲子園出場を目指した本格派の右ピッチャー。


 野球とソフトボールのルールは、ほぼ同じ。
ただし。バッテリー間の距離と塁間が、野球より短くなる。
距離が短くなる分、スピード感がアップする。
プロ野球の選手が女子が投げる、110キロのボールを打てないのはこのためだ。


 もうひとつ。下から投げる投法は肩に負担をかけない。
肩を壊している熊に、ピッチャーとしてのチャンスがふたたびやって来た。
群馬へやってきてから3年目の春。
21歳になった北海の熊が、野球のボールより2周りおおきいソフトボールを握る。
野球のボールより、はるかに重い感触が熊の手におりてくる。


 ソフトボールのウインドミル投法は、このボールの重さを利用する。
腕をまわし、腰の骨あたりで手首か、またはそれよりも肘に近い所を当てる。
当てた衝撃で手のひらが、親指から内側にねじれる。
最終的に手の「こう」が上(天井)をむく。
この手首の回転がソフトボール独特の変化と、スピードを生む。

 
 野球の経験が生きて、北海の熊がわずか1年でウインドミルをマスターする。
ここから熊の所属しているチームの快進撃がはじまる。
無敗の歴史は、10年余りつづく。
しかし。負けを味わう前に、バブルがはじけた。
不況の風が押し寄せる中、土木屋のチームがあちこちで解散してしまう。


 バブル崩壊をまともに受けた筆頭は、不動産業界。
建築業界と土木業界も、それに負けず劣らずのはげしいダメージを受けた。
バブル後にやってきた未曽有の不況は、あっというまに土木業界のソフトボールチームを
根こそぎ壊滅させた。


(14)へつづく

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オヤジ達の白球(12)瓢箪から駒

2017-05-19 18:55:35 | 現代小説
オヤジ達の白球(12)瓢箪から駒


 
 「あのやろう。
 謎の女の気をひくため、こんどはソフトボールのピッチャーになるってか。
 動機が不純すぎるなぁ。
 そんなことでホントに投手になれると思っているのか、あいつは?」


 北海の熊が呆れる。グビリと苦そうに酒を呑み込む。
「そういうな」岡崎が熱燗徳利を持ち上げる。


 「実のところ、俺だって半信半疑だ。
 あいつの場合。長く続いた趣味がひとつもねぇ。
 確かに熱しやすくて冷めやすい男だ。
 だがよ。今回にかぎりあそこまで、ぜったいにやりとげると強調するのも珍しい。
 ひょっとすると、瓢箪から駒が出るかもしれねぇ」


 「笑わせるな、絶対に出るもんか。
 駒どころか、あいつの頭からはホントの話のひとつも出てこねぇ。
 またいつもの出まかせに決まってる。
 同級生だからってあいつの肩を持ち過ぎだ。おまえさんも」



 「待て待て。話にはまだ続きがある。
 大将に、居酒屋のソフトボールのチームを作ってほしいそうだ。
 投手になっても、投げる場がなきゃ意味がねぇ。
 大将。そういうわけだ。
 飲んべェどもを集めて、ソフトボールのチームを作ってくれないか」


 「おいおい。つまみをオーダーするわけじゃねぇ。
 ソフトボールのチームといえば、最低でも10人は集める必要がある。
 そんなに集まるかよ、こんな貧乏居酒屋で」



 北海の熊が「無理無理」と大きな音を立てて熱燗を呑む。
「悪かったな、貧乏居酒屋で」カウンターの中で、祐介が憮然とする。
しかし。ソフトボールのチームを作るというのは、なんだか面白そうな話だ。


 (たしかに酒ばっかり呑んでいたんじゃ、身体によくねぇ。
 ソフトボールで身体を動かせばいい運動になる。悪くねぇかもしれねぇ発案だな)



 しかし。常連客の中に、野球経験者はほとんど居ない。
ソフトボールの経験者となれば、なおさらだ。
ほとんどがお遊びのようなソフトボールなら、参加したことがある。
チームを作るには、なんともお粗末な実情がある。

 「そういえば熊。おまえさんのチームはどうなった?。
 出場停止で、事実上の空中分解と聞いたが?」


 「だからよ。俺のせいじゃねぇ。
 出場停止を決めた町の連中が悪いんだ。おかげでウチのチームは冬眠中だ」


 「いつ目覚めるんだ。その冬眠から?」


 「そいつは町が決めることだ。俺たちに眠りから覚める権限はねぇ」

 「町のソフト部会はおまえさんたちのチームを、永久追放と決めたそうだ」

 「なんだと。誰がいつ、そんな無茶なことを決めたんだ!」



 「先日のことだ。町の体協の連中が飲みに来た。
 そのとき。熊のチームは永久追放処分にするという話が出た。
 素人の審判を脅迫するようでは、親睦ソフトボールの趣旨におおいに反する。
 そのほかにもおまえさんところは、いろいろと問題のあったチームらしいからな。
 審判の買収事件が、最後の決め手になったらしい。
 当然だ。誰が考えてもそう決断するだろう。
 というわけでお前さんは、ソフトボールで活躍する場を永久に失ったことになる」


 「えっ・・・俺の唯一の楽しみを奪い取るのか、体協の奴らは!」


 「仕方ねぇだろう、北海の熊。身から出た錆だ。
 おまえさんところのチームは優秀な選手が揃っているが、総じてがらが悪い。
 おととしだって審判の判定に、さんざんクレームをつけた。
 問題児ばかりが集まっているチームだ。
 去年の審判恐喝で、ついに体協のおえらがたの堪忍袋の緒が切れた。
 どうする熊。このままじゃホントにお前さんは、ソフトボールから、
 永久に追放されたままになるぜ」

 

(13)へつづく

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