上州の「寅」(55)
「受け入れたのですか、彼からのプロポーズを?」
「言ったでしょ。子持ち女の恋の成就は難しいって。
ひとつだけ条件を出しました。
ユキがあなたのことをあたらしい父親と認めれば、そのとき再婚しますって」
「ユキはあたらしい父親として彼を認めたのですか?」
「ひとの心の奥底の変化を読むのは難しい。
ユキは拒否しなかったけど、積極的に自分から近寄っていくこともしなかった。
いつまで経っても微妙な距離が残っていた。
それでも彼のことを、家族のひとりとして受け入れた。
とわたしは勝手に思い込んでいた・・・
ユキが中学2年になったとき。再婚することを決めました」
「経済的な理由からですか?」
「うふふ。ホント鋭いわね、あなたって。
そう。いちばんの理由はこれから重くのしかかるユキの学費。
高校大学とすすんでいけば、女ひとりの働きでは手に負えなくなる。
父親としてちからになる。彼がそう言ってくれた。
その言葉がこころを動かしたの。
ユキにとっても、最善の選択。そのときはそう信じました」
「ユキが金髪になったきっかけは?」
「聞きにくいことをズバリいうわねあなたって。ほんとに18歳?。
再婚を決めた理由はもうひとつ有るの。
じつはね。妊娠したの。
おろそうと覚悟を決めた時、彼から産んでほしいと懇願された。
ユキも背負っていくから、家族4人で暮していこう。
そういわれてわたしは子連れと妊娠の状態で再婚することを決めました」
「良い方向へ進むように聞こえましたが・・・」
「ユキは敏感な子です。
赤ん坊のときそれをユキから教わったのに、わたしはまたミスを犯しました。
妹が生まれた日。
あたらしい子育ての始まりに、有頂天な気分になりました。
彼もまたおなじ気分でいたようです」
「ユキひとりが蚊帳の外になった、ということですか?」
「その通りです。
退院した日。ユキがすこし淋しそうな目で出迎えてくれました。
なんだろう、この違和感は・・・
気になったのですがそのときは、そのままスルーしてしまいました。
いま思えばそれが最初のボタンの掛け違い。
あの日。ユキにもっとやさしくしてあげれば、ユキのこころの
淋しさがもうすこし、ちがう方向へ進んだと思います。
ユキが部屋へ引きこもるようになったのはその日の夜からです」
部屋へ引きこもるようになったことはユキから聞いている。
(そうか。ユキの引きこもりは妹が家へやって来た日からはじまったのか)
ユキは母親を失ったような気がしたのだろう・・・
部屋へ籠ったユキは、大事にしてきた黒髪を金髪に染めた。
母親にわたしを見てほしいという意味を込めて・・・
「あのう、これ。
わたしの手紙と、高校のお祝いに主人が用意していた携帯です。
わたしの番号がはいっています。
いつでも使えるよう料金は毎月主人が払っています。
ご迷惑でしょうがこのふたつを、ユキに届けていただけるとありがたいのですが」
「迷惑どころか、よろこんでお預かりします。
ユキもきっとよろこぶと思います」
「よろこんでくれるでしょうか、ユキは・・・」
「よろこぶと思います。ユキちゃんは!。
お母さん。ぼくがユキちゃんの面倒を見ます!。
あ・・・誤解しないでください。高校を卒業させるという意味です。
言い遅れました。
ユキちゃんはこの春からインターネットの高校へ入学しました。
ぼくはユキちゃんの家庭教師です。
まかせてください。お母さん。
ユキちゃんを。もちろん高校の勉強も!」
(56)へつづく
「受け入れたのですか、彼からのプロポーズを?」
「言ったでしょ。子持ち女の恋の成就は難しいって。
ひとつだけ条件を出しました。
ユキがあなたのことをあたらしい父親と認めれば、そのとき再婚しますって」
「ユキはあたらしい父親として彼を認めたのですか?」
「ひとの心の奥底の変化を読むのは難しい。
ユキは拒否しなかったけど、積極的に自分から近寄っていくこともしなかった。
いつまで経っても微妙な距離が残っていた。
それでも彼のことを、家族のひとりとして受け入れた。
とわたしは勝手に思い込んでいた・・・
ユキが中学2年になったとき。再婚することを決めました」
「経済的な理由からですか?」
「うふふ。ホント鋭いわね、あなたって。
そう。いちばんの理由はこれから重くのしかかるユキの学費。
高校大学とすすんでいけば、女ひとりの働きでは手に負えなくなる。
父親としてちからになる。彼がそう言ってくれた。
その言葉がこころを動かしたの。
ユキにとっても、最善の選択。そのときはそう信じました」
「ユキが金髪になったきっかけは?」
「聞きにくいことをズバリいうわねあなたって。ほんとに18歳?。
再婚を決めた理由はもうひとつ有るの。
じつはね。妊娠したの。
おろそうと覚悟を決めた時、彼から産んでほしいと懇願された。
ユキも背負っていくから、家族4人で暮していこう。
そういわれてわたしは子連れと妊娠の状態で再婚することを決めました」
「良い方向へ進むように聞こえましたが・・・」
「ユキは敏感な子です。
赤ん坊のときそれをユキから教わったのに、わたしはまたミスを犯しました。
妹が生まれた日。
あたらしい子育ての始まりに、有頂天な気分になりました。
彼もまたおなじ気分でいたようです」
「ユキひとりが蚊帳の外になった、ということですか?」
「その通りです。
退院した日。ユキがすこし淋しそうな目で出迎えてくれました。
なんだろう、この違和感は・・・
気になったのですがそのときは、そのままスルーしてしまいました。
いま思えばそれが最初のボタンの掛け違い。
あの日。ユキにもっとやさしくしてあげれば、ユキのこころの
淋しさがもうすこし、ちがう方向へ進んだと思います。
ユキが部屋へ引きこもるようになったのはその日の夜からです」
部屋へ引きこもるようになったことはユキから聞いている。
(そうか。ユキの引きこもりは妹が家へやって来た日からはじまったのか)
ユキは母親を失ったような気がしたのだろう・・・
部屋へ籠ったユキは、大事にしてきた黒髪を金髪に染めた。
母親にわたしを見てほしいという意味を込めて・・・
「あのう、これ。
わたしの手紙と、高校のお祝いに主人が用意していた携帯です。
わたしの番号がはいっています。
いつでも使えるよう料金は毎月主人が払っています。
ご迷惑でしょうがこのふたつを、ユキに届けていただけるとありがたいのですが」
「迷惑どころか、よろこんでお預かりします。
ユキもきっとよろこぶと思います」
「よろこんでくれるでしょうか、ユキは・・・」
「よろこぶと思います。ユキちゃんは!。
お母さん。ぼくがユキちゃんの面倒を見ます!。
あ・・・誤解しないでください。高校を卒業させるという意味です。
言い遅れました。
ユキちゃんはこの春からインターネットの高校へ入学しました。
ぼくはユキちゃんの家庭教師です。
まかせてください。お母さん。
ユキちゃんを。もちろん高校の勉強も!」
(56)へつづく