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朴槿恵大統領の「平和統一構想」

2014年03月31日 | 南北関係関連消息

ドレスデン工科大学で演説する朴槿恵大統領(2014.3.28)



ドイツを訪問していた朴槿恵大統領はドレスデン工科大学での演説を通じて、北朝鮮に核を放棄し住民の生活向上に向け努力すべきだと主張した。離散家族の面会事業をはじめとする人道的問題と、南北の経済協力などを北朝鮮に提案したのだが、その前提は北朝鮮の非核化であるという点を再度強調したと言えるだろう。

朴大統領は3月28日(現地時間)、同大学で政治法律分野の名誉博士学位を授与された。記念演説で朴大統領は、「人道的支援と南北経済協力が一日も早く実現するよう、北朝鮮は非核化の道に進まなければならない。北朝鮮が核放棄への決断をするならば、これに相応して北朝鮮に必要な国際金融機構への加入、および国際投資の誘致を積極的に支援する」と明らかにした。

朴大統領は北朝鮮に対し、△離散家族面会事業の定例化を含んだ人道問題の解決、△南北共同繁栄のための民生インフラ構築と経済協力の強化、△南北の民族的な一体性回復に向けた交流の活性化、などを提案した。

人道問題に関しては「国連と協力して、北朝鮮の妊婦と2才までの乳幼児に栄養と保健を支援する“母子パッケージ事業”を実施する」との意志を表明した。

また、民生インフラの構築と関連して「北朝鮮地域に農業・畜産・山林を同時に開発する“複合農村団地’”を造成する。そのために南北が力を合わせなければならない」と述べ、農業への支援を提案した。

そして経済協力については「現在、北朝鮮とロシアで推進中の羅津-ハッサン(ロシア領)間の物流センター事業と共に、新義州などを中心に南北と中国の協力事業を推進する」との計画を明らかにした。

さらに、南北の民族的な一体性回復のために「政治目的の事業やイベントよりは、民間次元での出会いを着実に拡大させる歴史研究、文化芸術やスポーツ交流などを奨励していく」と述べ、その実現に向け、相互に「南北交流協力事務所」を設置するよう提案した。

だが、朴大統領の提案が北朝鮮の非核化を前提としている点を考慮するなら、現段階で南北の協議を経て具体的な実現に向かうとは思えない。ソウル大学・統一平和研究員のチャン・ヨンソク専任研究員は、朴大統領の提案に対し「新しいメッセージというよりも、これまでの提案内容をもう一度喚起し、北朝鮮に非核化を強く促したもの」と冷静に評価した。

一方、韓国の市民運動団体『参与連帯』は翌29日に声明を発表し、朴大統領の提案が抱える問題点を次のように指摘している。

「最大の問題点は、現在の南北交流協力における重大な制度的障害物である5.24措置(2010年に李明博政権が採択した包括的対北制裁:訳注)に対し、何らの対策も提示されていないことだ。朴槿恵政府は去年、5.24措置を根拠に民間次元の人道的支援活動を制限した。その結果、民間の対北支援規模が2012年対比で3分の1水準に減少した。民間の人道支援と交流協力を許容する具体的な実行計画なしでは、今回の対北提案も空虚な話に終わるだろう。」

参与連帯はまた、「北朝鮮に核放棄を勧告しているが、不安定な停戦体制の解消と朝鮮半島の平和体制に関しては論議すら回避している」と指摘した。「核放棄を経済支援によって引き出す観点と処理方式は、李明博政府が採択しすでに失敗したことが証明された。前提条件なしで6者会談を再開し、朝鮮半島の核脅威を根源的に解消する方案に関する実質的な議論を始めるべきだ」と強調している。

声明はさらに「今回の演説で朴大統領は、ドイツ統一が歴史的な必然だったと言及しただけで、朝鮮半島統一の実質的なプロセスを提示しなかった。“吸収統一”を目論んでいるとの誤解を招きかねない。7.4共同声明、南北基本合意書、6.15共同宣言、10.4首脳宣言など、南北当局間の既存合意を尊重するとの意志を公開的に表現しないのは、大統領の“平和統一構想”の未来に暗影を投じる要因になるだろう」と憂慮した。

参与連帯の声明はその結びで、「統一問題には北朝鮮という相手と、国民という主体がある。だからこそ統一問題を国内政治に利用しようとする誘惑を捨て、内では民主主義的な手続きを尊重しすべての国民が合意できる代案を用意しなければならない。そして外では、北朝鮮との信頼関係を回復して対話の接点を形成できる実質的な措置を用意しなければならない」と促した。

最後に、3月29日付『ハンギョレ新聞』の社説から、その一部を引用する。

「今回の提案の最も大きな問題点は、北側の要求を考慮しない一方的な内容という点だ。 北側が切実に望むことが何かを考えずに、南側の要求内容だけを羅列したのだ。その結果、現時点で北側が最も必要とする肥料やコメ支援などは抜け落ちた。

 5・24措置の緩和・解除などの大勢を捉えないで、細部事案のみを羅列しているのも限界だ。今回の提案内容はすべて、南北当局間の高位級会談などが正常化すれば議論できる内容だ。その上、今回の提案には政治・軍事分野が全く言及されておらず、現実性に欠けると言わざるをえない。

 現在、南北関係は統一という言葉を持ち出すことすら出来ない状態だ。離散家族の面会事業が再開はしたが、後続の議論は全くなされていない。韓-米軍事演習と北のミサイル発射などで緊張が続くなか、最近では南北の批難合戦も再開している。高位級会談を行うとの2月合意が面目を失うほどだ。今必要なのは朝鮮半島の状況を管理して交流協力を進展させる実質的な方案だ。政府は北朝鮮核問題を解決するための6者会談再開についても、消極的な態度で一貫している。

 今回の提案が南北関係の新しい突破口を開くうえで寄与するには、南北当局間で高位級会談が一日も早く再開されねばならない。“全く違う生活を送ってきた人々を開かれた心(開放的姿勢)で接し、彼らの話にじっと耳を傾けなければならない”というメルケル・ドイツ総理の言葉を、朴大統領が聞き流しにしないことを望む。」

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