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日朝関係の展望

2014年06月01日 | 三千里コラム

局長会談を終えた朝鮮・日本の両国代表(5.28,ストックホルム)



5月28日、日朝両政府はストックホルムでの局長会談を通じて、日本人拉致問題の再調査に合意しました。また、再調査が開始される時点で日本政府は、対北独自制裁を解除すると約束しています。

2002年9月の日朝首脳会談と平壌宣言から、12年が経過しました。早期の国交正常化をうたった両首脳の宣言は、拉致問題がネックとなって不信と敵意だけを増幅させてきました。今回の合意が両国間の関係改善に向けた第一歩を踏み出すことになるのか、期待を持って見守りたいと思います。

今回の合意で注目されるのは、①開催場所、②合意文の履行意志、③東北アジア情勢への影響、などです。

① その間、金正恩政権下で開かれた日朝間の実務協議は、2012年8月北京、11月ウランバートル、2013年5月ピョンヤン(飯島勲・内閣官房参与の訪朝)、2014年3月北京、といった場所で開催されています。決定的な会合となった今回の交渉が、北京ではなくスウェーデンの首都で開かれたのは、中朝関係の微妙な現状を反映しているのかもしれません。

対外貿易における中国の比重は圧倒的ですが、金正恩政権は中国と一定の距離を置くことで自主的な外交を展開してきました。北京は日朝両国にとって地理的にも便利な場所です。しかし、その分、中国の徹底した監視下に置かれます。敢えて北京を回避したのは、朝鮮政府の強い意向があったからでしょう。

② 5月29日午後6時半、合意文がピョンヤンと東京で同時に発表されました。日本では関係閣僚との協議を経た安部首相が直接、合意内容を発表しています。局長会談の内容を首相が公表するのは異例のことですが、拉致問題にかける強い意志を表明したかったのでしょう。安部首相らしいパフォーマンスです。

筆者が注目したのは発表形態よりも、合意文にある“最終的に”という表現でした。朝鮮中央通信の報道によると、「朝鮮政府は包括的な調査を進め、日本人に関するすべての問題を最終的に解決する意思を表明した。...日本政府は独自的に行っている対朝鮮制裁措置を、最終的に解除する意思を表明した」となっています。

双方が共に、相手側の核心的な要求事項を“最終的に”解決する意思があると表明しているのは、単なる外交辞令とは思えません。相互の意思確認ができたからこそ、両国政府は「平壌宣言に則って不幸な過去を精算し懸案問題を解決して、国交正常化を実現する意思を再び表明した」のでしょう。

③ 米日韓の三国はその間、「北朝鮮の核放棄先行が対話の前提」とする共同の圧迫政策を展開してきました。米韓両国は今回の合意に賛同しつつも、安倍政権が拉致問題の解決に傾倒して「北朝鮮の武装解除」を蔑ろにしてはならないとの警告を発しています。

しかし、軍事的圧迫と経済封鎖を中心とする北朝鮮への制圧政策(戦略的忍耐)では、朝鮮半島の軍事緊張は一向に緩和されず、「北朝鮮核問題」の解決も遠のくばかりです。6者会談を速やかに再開し、問題の“包括的で最終的な解決”に向け、関係諸国が真摯な交渉を続けるしかありません。実は日朝国交正常化も、2005年9月に交わされた「第四回6者会談の共同声明」に含まれている履行内容です。

参考資料として、5月30日付『ハンギョレ新聞』の社説を紹介します。(JHK)


[社説]朝日合意を6者会談再開の契機に

北朝鮮と日本が29日に重要な合意を交わした。日本人拉致問題の再調査と対北制裁の一部解除を核心とするこの合意は、朝日関係の改善だけでなく、行き詰まった朝鮮半島情勢を打開する転機になり得るという点で意味がある。これを契機に、6者会談の再開および南北関係の進展に向けた努力が強化されるよう期待する。

朝日間の電撃合意には、両国の置かれた状況が大きく作用している。北朝鮮は金正恩・国防委第一委員長が権力を継承して以降、国際的な孤立から抜け出せずにいる。伝統的な友邦である中国さえも、北朝鮮指導部とは距離をおく姿勢を見せている。北朝鮮としては、このような構図を変えねばならない切実な必要性があったのだろう。

一方、安倍政権は攻撃的な対外政策と歴史問題で韓国・中国と葛藤を生じさせてきた。今回の合意で安倍政権は、局面転換に活用できる新しいカードを手に入れたと言えよう。

だが、朝日間の合意が順調に履行されるか、疑問である。まず、日本人拉致問題と関連して、日本が期待する水準と北朝鮮ができることの間隙が大きい。また、核・ミサイル問題が解決されない限り、日本が取り得る制裁解除措置には根本的な限界がある。その上、米韓両政府は等しく、今回の合意に渋い反応を見せている。

両国は今回の合意が、北朝鮮を圧迫する政策基調の亀裂につながると見ているようだ。中国は日本の発言力が高まることに対しては不満であるが、韓国とアメリカの対北強硬基調を批判してくる可能性が大きい。

望ましいアプローチは、関連諸国が今回の合意をうまく活用することだ。確かに、核問題より朝日関係の改善が先んじては、事態がさらに複雑になりかねない。核問題を議論する基本枠組みである「9・19共同声明」においても、朝日関係は二次的に言及されている。

だが、韓国とアメリカが、北朝鮮と日本の接近にブレーキをかけるのは誤りだ。それよりも、6者会談の早期再開に向け努力することが正しい態度だ。現状は、米韓の両国政府が、北朝鮮と日本が合意を成し遂げたような柔軟性を持つならば、6者会談の再開が決して難しくない雰囲気でもある。

韓国政府の選択が、とりわけ重要な局面を迎えている。アメリカが北朝鮮との対話に積極的に取り組むよう説得できるのは、我が国を置いて他にはない。南北関係においても、「5・24措置」(李明博政権が2010年に発した南北関係の断絶措置:訳注)を解除・緩和するなど、先制的なアプローチが求められている。

明らかなのは、この間の「待つ戦略」を固守していたのでは、核問題を解決する機会を失うだけでなく、朝鮮半島問題に関する発言権も弱くなるばかりであるという点だ。

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