☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
<用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)
『君がいる幸せ』 四章「心のままに」(短編集)二十一話
Epilogue Bridge「Rebellion」(一話読切)
僕はそのままキースの元に居続けた。
ノアでの事を追求されてからもう十日になる。
大戦後の…四年前の事件の頃の僕は、皆には「ソルジャー・シン」として取り繕っていても、中身はまるで抜け殻のようだった。
自分が生きている事すら罪悪な気がして…運命を探しながら、その運命に身を任せる事もせず、それでいて逃げ道のように「死に場所」を探していた。
僕を恨む人々に殺されるならそれもいいと思っていた。
そんな状態で僕は人々の中に居た。
キースはそんな僕を見抜いて、捨てていってもいいような僕を自分の下に置く事で守ってくれた。
なのに僕はいつまでも悩み続けていた…。
あの時、力が使えなくなったのは僕の所為だったのかもしれない。
コンピューター・テラを探り、その謎が埋まる度に、僕は自分の存在を否定した。
その結果、僕は僕を封じてしまった。
必要最小限の「自分を生かし動かす事だけ」にしてしまったんだ。
それで、あんな事になって…。
「自分はあんな目に遭ってもまだ生きようとしているじゃないか」と思い知った。
まだ生き足掻けと…?
まだ生き続けろと…。
自分がそれを望むのか?
生きたいと?
だから…僕は…。
僕自身が忘れようとしていた過去を無かった物として流さずに、ちゃんと見て前に進めと。
そして、僕達は二人で悩み苦しんだ。
あの事は僕には必要で、僕らの繋がりを強くしてくれたと僕は思う。
僕達はまた一つ障壁を越えたのだろうか?
人と人の間にはいくつ壁があるのだろう。
それはきっと崩したり創ったりしながら進んでゆけばいいのだろう…。
数日前
「あの日、俺の心を読んでいただろう」
とキースが聞いてきた。
そう、あの日の僕はここに入った時から彼の心を読んでいた。
「ノアのあの事だと思いあたってからずっと…不安だった。君の前に行く事もしたくなくて、けれど、逃げる事も出来なくて、部屋に入ってキースを見たら…僕は勝手に君を読み始めた…」
「わかっていた」
「一度、そうなったら、もう止められなくて」
「弁解をしろ。と俺は言っていたんじゃないか?」
「そう。でも僕は謝らなかった。君に嫌われるのが嫌で不安で仕方なかったのに…どうしても言えなかった。それでも、断片ではなく…知っていて欲しくて…」
「俺がお前に自分で説明すると言わせてしまったんだな」
「説明すると言った事で、僕は君を落胆させてしまった」
「そうかもな。お前の口から事件のあらましなど聞きたいとは思っていなかった」
「心を読む事が止めれなくて…読む度に君が混乱していくのがわかって…。言ってしまったのに言えなくて。本当に殺してしまおうか?と思われて、でもそれを僕は嬉しかったんだ」
「……」
「君にしか僕を殺せないんだ。そう思っていたい」
「…強引だな…」
「手荒な事も嫌いじゃないよね」
「では、俺を殺すのもお前ただ一人だと思っていいか?」
「人間のくせに。僕に殺されようと言うの?」
と少し微笑んだ。
「思ってていいんだな?」
「…傲慢だよ…」
「それでいいんだろ?」
「いいよ。君は僕にしか殺せない」
その望みは、叶わない。
そんな事は二人共承知の上だ。
そう。
これは、ただの言葉遊び。
「そんな傲慢なキースに質問」
「いまさら何を聞くんだ?」
「君は僕の過去ばかりを引き合いに出すから、僕も君の過去を聞きたくなった」
「俺の過去?」
「何人と付き合い、何人と寝た?」
「んー」
と数えだすキース。
「あー、…人数はいいよ。もう数えなくて…」
「今、そう聞いただろ?」
「多いのはわかった。だから、質問を変える。僕みたいなミュウとは付き合った?」
「……」
立場的にも、そこは無いと答えるべきでしょ?と思いつつジョミーはまた質問を変えた。
「…変えるね。初めての事してみたいと思わない?」
「何だ。それは」
「君はミュウは禁欲だと言ったけど、僕達はそういうのはあまり必要ないんだ。ミュウはね。精神的に一緒になれるから」
「どういう事だ」
「もうわかり始めてるくせに。教えて欲しい?」
「ああ」
「じゃ、同調させて…」
と両手の手のひらを合わせた。
「初めてだとあわてちゃうから…優しくしてあげるよ。でも、先にイカないでね…」
精神世界に引き込まれてゆくキース。
ジョミーの父性とも母性とも取れるような暖かな世界が拡がっていた。
それはマザーイライザの作る世界と似ているようで、それでいて、もっと安心できる世界だった。
そうか、これは俺が望む世界。
精神的にね。
とジョミーの声。
このまま君に圧力をかけるよ。心を開いて…。
僕に全てをまかせて…。怖くないから…。
不安はない。
とキース。
本当に君は素敵だな…。
とジョミー。
それは、俺がお前を愛していて、お前が俺を愛しているから…そうだろう?
どこまでも…傲慢だね…。大好きだよ。
二人の心が本心を語る。
キースの心を引っ張ってリードするはずが、いつの間にかすぐ隣に居て一緒に行こうとする。
ちょっと…待って。もう少し…僕が辛い…。
とジョミーが根をあげた。
急がないで、ゆっくりと。…そして、このまま…。
このまま?
このまま肉体的にもしたら…最高なんだよ。
とジョミーが言った。
「居続け…か…」
それって、遊女の所に客がずっと居るって意味だっけ?
なら今は、客の所に遊女が長居してる感じだなと思いつつ彼を待つ。
キースがここに居るように言った訳ではなく、僕がここに居たいと願った。
会議が終わるまでの間だったけれど僕はミュウとして参加出来そうな議案に参加しながら日々を過ごした。
「関係を継続させるって難しい事じゃないんだね」
「お互いがここから出てここに戻る。それが毎日続いてゆけばいい」
「まるで家だね」
「お前は子供時代の記憶があるのにそれをわかってなかったのか?」
「子供だった僕は、ミュウになり、ソルジャーになった。そうだなぁ…。家そのものになった感じだったな。皆が僕の守る家から出て戻る。僕も皆の所へ戻る。それで精一杯だった」
「それでは俺の方がよっぽど普通に生きてきた事になるな」
「グランドマザーの申し子なのにね」
とジョミーが笑った。
「人間らしく生きるってどういう事?」
と、この何日かの間にジョミーが挑戦していた事があった。
それはお互いの立場を意識しないで友人みたいに話す事だったが、それはちょっと変だった。
「年齢が近いシドと友人みたいに話したいのに微妙に敬語を使ってくるから、そんなに出来ないものなのかと思って…」
とジョミーが言う。
「それで何を話すんだ?」
「うーん。キース、今日は何してたんだ?」
「ノアの防衛線の強化。と、ノアとペセトラの軍事バランスの…」
「違う違う」
と途中で止める。
「じゃあ、昨夜は何をしてた?」
「お前と居たけど…」
「……」
「何を、してたかまで言おうか?」
「…だから、違うって…」
「ジョミー、友達みたいに話すのは、ガキみたいな事を話すのと違うだろ?」
と言ったら「そうだな」と考え込んでしまった。
それを見てキースが笑い出した。
「お前を好きになって良かったと俺は思う」
「な、何を急に…」
「面白いやつだと思って。益々嬉しくなっただけだ」
「あ…ありがとう」
「こんな風に話すだけでいいんじゃないのか?」
「シドとも気にしなくていいって事?」
「そう。あいつともっと話してみればいい。きっと面白いものが出てくるぞ」
とキースがまた笑った。
「面白いもの?」
「ああ」
「何それ?」
「じっくり話してみればわかるさ」
とキースが面白そうに言った。
仏頂面の多いキースが最近は良く笑う。
ジョミーはその意味を嬉しく思った。
二人はこの限られた時間を楽しもうとしている。
何をするでもなく、普通に過ぎる時間を愛おしく思っているのだった。
このまま、その時間を楽しみたいと思った。
けれど、僕にはこの時間を分けなければならない人達がいた。
時間が足りない。
ブルーもこんな風に焦っていたのかな?
本当はもっと皆と居たかったのに、貴方が僕に分けてくれた時間。
その大切さを僕は理解していなかった。
僕にはもう時間が無いんだ。
だから…。
「シドに聞いても教えてくれなかったら?知ってるなら、今、教えてよ」
俺は、ちょっと考えた。
「あいつはな、俺を見る目が違うんだ」
「違うって何が?どう違うんだ?」
「俺に嫉妬してる。お前、あいつに何かしたか?」
色目とか使ってないか?と面白そうに言った。
「ええ?い、色目?」
なんで、シドにそんな事…。
「もしかしたら…」
しばらく考えていたジョミーが言い出した。
「色目、使ったのか?」
「ち、違う。確かにそういう力はあるけど…」
「…そんな力が…あるのか?」
「そういうのじゃない。僕のは会話で相手を僕のペースに持っていくだけで…。恋愛で落とすとかそういうのでは使ってない」
イグドラシルの対話で使われたやつか…とキースは思った。
次はノアの事件の後、そんな能力を使われた。「どんな事でもする…どんな事をされてもいい…僕を抱いて…」と言われた時、拒絶するのに苦労した訳だと俺は思った。
「なら、何だ?」
「…メサイアで…君と…その初めて、関係した後、僕を迎えに来たのがシドだったんだ。それで、感情が昂ぶったままだったから…少し彼と話をしたんだ。あれでバレたのかな?」
「それだけ?」
男として勘が良いやつにはわかるのかもしれないなとキースは思った。
「やっぱり、違うかな?それでキースに嫉妬ってないよね。それだとシドが僕にそういう感情があるって事になっちゃう」
「その落とす力ってのを使ってみればいいんじゃないか?ミュウなら拒絶も出来るだろう?」
とキースは言った。
俺とこういう関係になっているのに、相変わらず恋愛に疎いジョミー。
キースは何故ジョミーは俺と居ると、こんな風に子供のようになってしまうのだろうと思っていた。
俺に甘えているというだけでない、悪戯な子供みたいになる。
そんな彼が、本当のジョミーの姿なんだろうな。
ふと、ブルーの言葉が蘇る。
「僕はジョミーに安らぎを与えられなかった。何もかも奪い取ってきただけだった…」
あの時、ブルーは俺にまだ何かを言った。
消える瞬間に俺に言った言葉がある…。
彼は何と言った?
俺の肩に手を置いて、顔を寄せてささやくように、消える瞬間にブルーはー。
「その、心のままに、愛すればいい」
そんな日々を過ごし十三日目の夜が訪れる。
明日には議会は解散し、俺はノアからペセトラ基地へ行く事になっていた。
運命の歯車が回り始める予感がしていた。
その夜、僕はキースに僕の知り得た全てを話した。
「まだ謎は残っているけど、もうこれ以上は解けない…。僕に解っているのはここまで」
「それが、グランドマザーの計画だったのか?」
「僕には四百年という時間が計画より早いのか遅いのかはわからない」
「それがお前だったというだけだと言いたいのか?」
「そう。僕だったというだけ…。人として余りあるこの力の最初から用意された使いどころという事」
「解放したらどうなる?」
「いいとこ。僕は、霧散かな」
「それをお前は受け入れるというのか?」
「それが僕の使命ならば…」
「他に道はないのか?」
「わからない」
「ブルーはマザーの仕掛けた魔法だと言った。俺はマザーの言った通りならお前達を抹殺する計画なのだと思ったが…」
「マザーは人間が作りしもの。ミュウも人に作れられたもの。人間の為に使われるのは当然なのかもしれない」
「それなら、ブルーは俺に何をさせたかったんだ」
「……」
「俺はお前をここに閉じ込めても行かせたくない」
「僕も本音を言えば、行きたくない」
「俺の傍から離れるな」
「何をしても、僕が従わなくても、必ず僕は地球に呼ばれる」
「それまで俺と居ろ。俺の所に」
「僕にはまだしなくちゃいけない事があるんだ」
「…居てくれ…」
「泣かないで。キース」
泣く気はなかった。それでも涙は滲んだ。
「お前も泣くな」
ジョミーも泣いていた。
キースは僕を抱き寄せた。
「まだ泣く気はないのに、これが最後じゃないのに…」
「俺達人間がお前を追い詰めているのか?すべては人間が仕出かした事なのに…お前達を怖がり抹殺しようと追い詰めてきた。そんな人間達の…後始末を…なんでお前が…しないといけない」
「それは…僕が人間だから…。そして、オリジンのブルーの選んだ僕。タイプブルーのソルジャー・シンだから」
キース。
僕は、何をおいても傍に居たい。
何も欲しくない。
ただ君だけが居ればいい。
そんな気持ちを恐ろしく思う。
すべてを捨ててしまいそうで…危険すぎる。
僕には使命がある。
それすらも、捨てていける程の思い。
そう、僕は君が好きだ。
これは期限付きだからなのか?
命が永遠ならそうは思わないのか?
君の為に生きたい。
君の為に死にたい。
君と共に生きたい。
君と共に死にたい。
叶わぬ願いだとわかっている。
だから傍に居られない。
自分を制御する手立てが見つからない。
君を殺してしまうかもしれない。
僕の場所に連れてゆきたい。
そして僕の中に君を閉じ込めてしまいたい。
出来ぬ願いだから望むのか?
会いたい。
会えない。
何もかもが憎くなる時がある…。
僕はこんなに浅ましかったのか…。
運命というものがあるのならば、それを超えて行きたい。
その先に行きたい。
今は出会えた喜びをただ抱いて。
それだけをただ見つめていよう。
だから、今は許して欲しい。
今は泣けるだけ泣こう。
そして、未来(さき)に進もう。
そして、未来が辛く厳しくても何が起きても君は進め。
いつか、再び会える日を信じて。
Rebellion 終
<用語>
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)
『君がいる幸せ』 四章「心のままに」(短編集)二十一話
Epilogue Bridge「Rebellion」(一話読切)
僕はそのままキースの元に居続けた。
ノアでの事を追求されてからもう十日になる。
大戦後の…四年前の事件の頃の僕は、皆には「ソルジャー・シン」として取り繕っていても、中身はまるで抜け殻のようだった。
自分が生きている事すら罪悪な気がして…運命を探しながら、その運命に身を任せる事もせず、それでいて逃げ道のように「死に場所」を探していた。
僕を恨む人々に殺されるならそれもいいと思っていた。
そんな状態で僕は人々の中に居た。
キースはそんな僕を見抜いて、捨てていってもいいような僕を自分の下に置く事で守ってくれた。
なのに僕はいつまでも悩み続けていた…。
あの時、力が使えなくなったのは僕の所為だったのかもしれない。
コンピューター・テラを探り、その謎が埋まる度に、僕は自分の存在を否定した。
その結果、僕は僕を封じてしまった。
必要最小限の「自分を生かし動かす事だけ」にしてしまったんだ。
それで、あんな事になって…。
「自分はあんな目に遭ってもまだ生きようとしているじゃないか」と思い知った。
まだ生き足掻けと…?
まだ生き続けろと…。
自分がそれを望むのか?
生きたいと?
だから…僕は…。
僕自身が忘れようとしていた過去を無かった物として流さずに、ちゃんと見て前に進めと。
そして、僕達は二人で悩み苦しんだ。
あの事は僕には必要で、僕らの繋がりを強くしてくれたと僕は思う。
僕達はまた一つ障壁を越えたのだろうか?
人と人の間にはいくつ壁があるのだろう。
それはきっと崩したり創ったりしながら進んでゆけばいいのだろう…。
数日前
「あの日、俺の心を読んでいただろう」
とキースが聞いてきた。
そう、あの日の僕はここに入った時から彼の心を読んでいた。
「ノアのあの事だと思いあたってからずっと…不安だった。君の前に行く事もしたくなくて、けれど、逃げる事も出来なくて、部屋に入ってキースを見たら…僕は勝手に君を読み始めた…」
「わかっていた」
「一度、そうなったら、もう止められなくて」
「弁解をしろ。と俺は言っていたんじゃないか?」
「そう。でも僕は謝らなかった。君に嫌われるのが嫌で不安で仕方なかったのに…どうしても言えなかった。それでも、断片ではなく…知っていて欲しくて…」
「俺がお前に自分で説明すると言わせてしまったんだな」
「説明すると言った事で、僕は君を落胆させてしまった」
「そうかもな。お前の口から事件のあらましなど聞きたいとは思っていなかった」
「心を読む事が止めれなくて…読む度に君が混乱していくのがわかって…。言ってしまったのに言えなくて。本当に殺してしまおうか?と思われて、でもそれを僕は嬉しかったんだ」
「……」
「君にしか僕を殺せないんだ。そう思っていたい」
「…強引だな…」
「手荒な事も嫌いじゃないよね」
「では、俺を殺すのもお前ただ一人だと思っていいか?」
「人間のくせに。僕に殺されようと言うの?」
と少し微笑んだ。
「思ってていいんだな?」
「…傲慢だよ…」
「それでいいんだろ?」
「いいよ。君は僕にしか殺せない」
その望みは、叶わない。
そんな事は二人共承知の上だ。
そう。
これは、ただの言葉遊び。
「そんな傲慢なキースに質問」
「いまさら何を聞くんだ?」
「君は僕の過去ばかりを引き合いに出すから、僕も君の過去を聞きたくなった」
「俺の過去?」
「何人と付き合い、何人と寝た?」
「んー」
と数えだすキース。
「あー、…人数はいいよ。もう数えなくて…」
「今、そう聞いただろ?」
「多いのはわかった。だから、質問を変える。僕みたいなミュウとは付き合った?」
「……」
立場的にも、そこは無いと答えるべきでしょ?と思いつつジョミーはまた質問を変えた。
「…変えるね。初めての事してみたいと思わない?」
「何だ。それは」
「君はミュウは禁欲だと言ったけど、僕達はそういうのはあまり必要ないんだ。ミュウはね。精神的に一緒になれるから」
「どういう事だ」
「もうわかり始めてるくせに。教えて欲しい?」
「ああ」
「じゃ、同調させて…」
と両手の手のひらを合わせた。
「初めてだとあわてちゃうから…優しくしてあげるよ。でも、先にイカないでね…」
精神世界に引き込まれてゆくキース。
ジョミーの父性とも母性とも取れるような暖かな世界が拡がっていた。
それはマザーイライザの作る世界と似ているようで、それでいて、もっと安心できる世界だった。
そうか、これは俺が望む世界。
精神的にね。
とジョミーの声。
このまま君に圧力をかけるよ。心を開いて…。
僕に全てをまかせて…。怖くないから…。
不安はない。
とキース。
本当に君は素敵だな…。
とジョミー。
それは、俺がお前を愛していて、お前が俺を愛しているから…そうだろう?
どこまでも…傲慢だね…。大好きだよ。
二人の心が本心を語る。
キースの心を引っ張ってリードするはずが、いつの間にかすぐ隣に居て一緒に行こうとする。
ちょっと…待って。もう少し…僕が辛い…。
とジョミーが根をあげた。
急がないで、ゆっくりと。…そして、このまま…。
このまま?
このまま肉体的にもしたら…最高なんだよ。
とジョミーが言った。
「居続け…か…」
それって、遊女の所に客がずっと居るって意味だっけ?
なら今は、客の所に遊女が長居してる感じだなと思いつつ彼を待つ。
キースがここに居るように言った訳ではなく、僕がここに居たいと願った。
会議が終わるまでの間だったけれど僕はミュウとして参加出来そうな議案に参加しながら日々を過ごした。
「関係を継続させるって難しい事じゃないんだね」
「お互いがここから出てここに戻る。それが毎日続いてゆけばいい」
「まるで家だね」
「お前は子供時代の記憶があるのにそれをわかってなかったのか?」
「子供だった僕は、ミュウになり、ソルジャーになった。そうだなぁ…。家そのものになった感じだったな。皆が僕の守る家から出て戻る。僕も皆の所へ戻る。それで精一杯だった」
「それでは俺の方がよっぽど普通に生きてきた事になるな」
「グランドマザーの申し子なのにね」
とジョミーが笑った。
「人間らしく生きるってどういう事?」
と、この何日かの間にジョミーが挑戦していた事があった。
それはお互いの立場を意識しないで友人みたいに話す事だったが、それはちょっと変だった。
「年齢が近いシドと友人みたいに話したいのに微妙に敬語を使ってくるから、そんなに出来ないものなのかと思って…」
とジョミーが言う。
「それで何を話すんだ?」
「うーん。キース、今日は何してたんだ?」
「ノアの防衛線の強化。と、ノアとペセトラの軍事バランスの…」
「違う違う」
と途中で止める。
「じゃあ、昨夜は何をしてた?」
「お前と居たけど…」
「……」
「何を、してたかまで言おうか?」
「…だから、違うって…」
「ジョミー、友達みたいに話すのは、ガキみたいな事を話すのと違うだろ?」
と言ったら「そうだな」と考え込んでしまった。
それを見てキースが笑い出した。
「お前を好きになって良かったと俺は思う」
「な、何を急に…」
「面白いやつだと思って。益々嬉しくなっただけだ」
「あ…ありがとう」
「こんな風に話すだけでいいんじゃないのか?」
「シドとも気にしなくていいって事?」
「そう。あいつともっと話してみればいい。きっと面白いものが出てくるぞ」
とキースがまた笑った。
「面白いもの?」
「ああ」
「何それ?」
「じっくり話してみればわかるさ」
とキースが面白そうに言った。
仏頂面の多いキースが最近は良く笑う。
ジョミーはその意味を嬉しく思った。
二人はこの限られた時間を楽しもうとしている。
何をするでもなく、普通に過ぎる時間を愛おしく思っているのだった。
このまま、その時間を楽しみたいと思った。
けれど、僕にはこの時間を分けなければならない人達がいた。
時間が足りない。
ブルーもこんな風に焦っていたのかな?
本当はもっと皆と居たかったのに、貴方が僕に分けてくれた時間。
その大切さを僕は理解していなかった。
僕にはもう時間が無いんだ。
だから…。
「シドに聞いても教えてくれなかったら?知ってるなら、今、教えてよ」
俺は、ちょっと考えた。
「あいつはな、俺を見る目が違うんだ」
「違うって何が?どう違うんだ?」
「俺に嫉妬してる。お前、あいつに何かしたか?」
色目とか使ってないか?と面白そうに言った。
「ええ?い、色目?」
なんで、シドにそんな事…。
「もしかしたら…」
しばらく考えていたジョミーが言い出した。
「色目、使ったのか?」
「ち、違う。確かにそういう力はあるけど…」
「…そんな力が…あるのか?」
「そういうのじゃない。僕のは会話で相手を僕のペースに持っていくだけで…。恋愛で落とすとかそういうのでは使ってない」
イグドラシルの対話で使われたやつか…とキースは思った。
次はノアの事件の後、そんな能力を使われた。「どんな事でもする…どんな事をされてもいい…僕を抱いて…」と言われた時、拒絶するのに苦労した訳だと俺は思った。
「なら、何だ?」
「…メサイアで…君と…その初めて、関係した後、僕を迎えに来たのがシドだったんだ。それで、感情が昂ぶったままだったから…少し彼と話をしたんだ。あれでバレたのかな?」
「それだけ?」
男として勘が良いやつにはわかるのかもしれないなとキースは思った。
「やっぱり、違うかな?それでキースに嫉妬ってないよね。それだとシドが僕にそういう感情があるって事になっちゃう」
「その落とす力ってのを使ってみればいいんじゃないか?ミュウなら拒絶も出来るだろう?」
とキースは言った。
俺とこういう関係になっているのに、相変わらず恋愛に疎いジョミー。
キースは何故ジョミーは俺と居ると、こんな風に子供のようになってしまうのだろうと思っていた。
俺に甘えているというだけでない、悪戯な子供みたいになる。
そんな彼が、本当のジョミーの姿なんだろうな。
ふと、ブルーの言葉が蘇る。
「僕はジョミーに安らぎを与えられなかった。何もかも奪い取ってきただけだった…」
あの時、ブルーは俺にまだ何かを言った。
消える瞬間に俺に言った言葉がある…。
彼は何と言った?
俺の肩に手を置いて、顔を寄せてささやくように、消える瞬間にブルーはー。
「その、心のままに、愛すればいい」
そんな日々を過ごし十三日目の夜が訪れる。
明日には議会は解散し、俺はノアからペセトラ基地へ行く事になっていた。
運命の歯車が回り始める予感がしていた。
その夜、僕はキースに僕の知り得た全てを話した。
「まだ謎は残っているけど、もうこれ以上は解けない…。僕に解っているのはここまで」
「それが、グランドマザーの計画だったのか?」
「僕には四百年という時間が計画より早いのか遅いのかはわからない」
「それがお前だったというだけだと言いたいのか?」
「そう。僕だったというだけ…。人として余りあるこの力の最初から用意された使いどころという事」
「解放したらどうなる?」
「いいとこ。僕は、霧散かな」
「それをお前は受け入れるというのか?」
「それが僕の使命ならば…」
「他に道はないのか?」
「わからない」
「ブルーはマザーの仕掛けた魔法だと言った。俺はマザーの言った通りならお前達を抹殺する計画なのだと思ったが…」
「マザーは人間が作りしもの。ミュウも人に作れられたもの。人間の為に使われるのは当然なのかもしれない」
「それなら、ブルーは俺に何をさせたかったんだ」
「……」
「俺はお前をここに閉じ込めても行かせたくない」
「僕も本音を言えば、行きたくない」
「俺の傍から離れるな」
「何をしても、僕が従わなくても、必ず僕は地球に呼ばれる」
「それまで俺と居ろ。俺の所に」
「僕にはまだしなくちゃいけない事があるんだ」
「…居てくれ…」
「泣かないで。キース」
泣く気はなかった。それでも涙は滲んだ。
「お前も泣くな」
ジョミーも泣いていた。
キースは僕を抱き寄せた。
「まだ泣く気はないのに、これが最後じゃないのに…」
「俺達人間がお前を追い詰めているのか?すべては人間が仕出かした事なのに…お前達を怖がり抹殺しようと追い詰めてきた。そんな人間達の…後始末を…なんでお前が…しないといけない」
「それは…僕が人間だから…。そして、オリジンのブルーの選んだ僕。タイプブルーのソルジャー・シンだから」
キース。
僕は、何をおいても傍に居たい。
何も欲しくない。
ただ君だけが居ればいい。
そんな気持ちを恐ろしく思う。
すべてを捨ててしまいそうで…危険すぎる。
僕には使命がある。
それすらも、捨てていける程の思い。
そう、僕は君が好きだ。
これは期限付きだからなのか?
命が永遠ならそうは思わないのか?
君の為に生きたい。
君の為に死にたい。
君と共に生きたい。
君と共に死にたい。
叶わぬ願いだとわかっている。
だから傍に居られない。
自分を制御する手立てが見つからない。
君を殺してしまうかもしれない。
僕の場所に連れてゆきたい。
そして僕の中に君を閉じ込めてしまいたい。
出来ぬ願いだから望むのか?
会いたい。
会えない。
何もかもが憎くなる時がある…。
僕はこんなに浅ましかったのか…。
運命というものがあるのならば、それを超えて行きたい。
その先に行きたい。
今は出会えた喜びをただ抱いて。
それだけをただ見つめていよう。
だから、今は許して欲しい。
今は泣けるだけ泣こう。
そして、未来(さき)に進もう。
そして、未来が辛く厳しくても何が起きても君は進め。
いつか、再び会える日を信じて。
Rebellion 終