夏…蝉の声がする…
俺はこの季節が嫌いになりそうだ…。
生まれて来た事を後悔?
そんなもの…
もうとっくにしてるさ…。
だけど、俺はまだ望みを捨てたりはしていない。
まだ俺は見たことも無い世界が見てみたいんだ。
「秋月海。お願いだ。誠記の為に死んでくれ」
「…三鷹……」
俺が目を覚ました時には、三鷹幸一当主は俺の部屋にいた。
俺はまだ我皇と戦ったダメージが抜けていなくて、満足に立って歩く事もできなった。
三鷹幸一は俺に馬乗りになって、首を絞めてくる。
腕に力が入らない。
けれど、それでも俺は必死でもがいた。
「なん…で…お…れが…なにを」
殺されなきゃならないなら、その訳が知りたかった。
次期当主の誠記が俺を疎ましく思っているのは知っている。
だけど、そんな事で「三鷹」が俺を殺す?
こんな方法で?
苦しい…。
当主なら、式で殺せばいいじゃないか。
頭痛がする…。
意識が遠のく…。
俺は死ぬのか…何故…こんな所で…
「おまえは三鷹の脅威になるのだ」
脅威…?
「秋月…晦」
「お前は、何も、何一つ知らずにいていいのか?…生きたいと思え!もっと!」
もう何も…息が出来ない…俺はもう…。
俺の意識は薄れた。
「イヤだ…死にたくない…幸一…伯父さん…止めて」
幸一の手が緩んだ。
「秋月海。お前…知っているのか?」
殺さないで…幸一さん…
「柚さん!」
バッグの中の独鈷が輝きだす。
俺は俺の上に居る三鷹幸一を突き飛ばした。
「黄龍…」
「千年。いや、十年でも人は堕落する…」
「何故、お前が…ここに」
「動けぬ者を騙して連れてきて殺す?愚の骨頂だな。愚か者め。わたしが居る事にも気付いていなかったのか?」
「千年前、お前の一族は浜に打ち上げられていたわたしを救った。その礼にわたしは、力を貸した。だが、人は堕落した。すぐ降ろせる者が居なくなった。あれは…二百年前か?」
「まだ、我々一族に力を貸して頂けるのですか?」
「千年など瞬きの間の事よ。お前達がわたしを必要としなくなるまで居るつもりでおったのだがな、降ろせぬのであれば、意味はないが」
「では、今までは何処にお隠れに?」
「隠れてなどおらぬ。わたしはお前達と共にあった。呼べる者がおらなんだだけだ」
「呼ぶもの?」
「おお、わたしは呼ばれ、独鈷の中におった。いつか降ろせる者が出ると待っておった」
「……」
「久しいのぉ、御田華(ミタカ)」
「…ならば、黄龍よ。私の息子に力をお与え下さい。あの者は不運な子にございますゆえ」
「ふん。この器では気に入らぬと申すのか?」
「いえ、いえ。力をお貸し頂ければ」
「力と申すが、わたしの意志だけは発動はせぬのだ。器の意思も必要となる。この者は、お前の血縁であろう?ならば、この者を押し立てればよいのだ」
「!そ、それでは、わが子は、どうなります?」
「この者と、時を同じくして生まれたのが最大の不幸と言えるのかもしれぬな。諦めよ。ささいな事じゃ」
「そ、そんな。黄龍さま…」
「ならば…。こうすれば良い。わたしは、まだこの世界をよく知らぬ。いろいろと変わったようだな…人にとっては永い眠りだったからな…。また暫く眠るゆえ…。答えはどうとでも出すがよい。この者をここでお前が殺し、次の何百年を待つのもよかろう…」
「………」
「この者と時を同じくして生まれたのが不幸……」
三鷹誠記が呟く。
秋月晦と時を同じくして生まれたのが、私の不幸か…。
我皇が秋月晦の式となりたいと言った。
力を封印された状態で「黄龍」を降ろした。
私の式、春野から牙を引き剥がした。そして、燃やした。
やはり、同じ時に生まれたのが不幸だと言えるのかもしれない。
だが、二百年に一人だと言うのなら、この同じ時に生まれたのは幸運だったのかもしれない。
私は、出会えて良かったと思う。
幼い頃は、お前への羨望が何か解らず、ただ憎み、妬んだ。
何百年も「三鷹」が焦がれた「血の結晶」があいつ。
秋月 晦。
この狂いかけた「三鷹」を壊してくれ…。
私はこの先を望まない。
私でこの血を最後にしてくれないか?
それがお前の運命…
それをお前に託すのは私の我侭なんだろうな。
だが、この先、お前には安寧は無い…。
死ぬまで背負ってゆくがいい。
それが、お前を縛る私の呪。
終
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