バグダッドの街の一角、
マルコは、高貴な身分らしい青いヴェールをかけた少女とすれちがい、
その美しさに、思わず立ちつくした。
翌日、街角の寺院で少女が連れていた黒衣の女を見つけ、
マルコはとっさに、回路の奥に消えようとしていた女を追いかけた。
女が消えた建物に近づき、扉の中をのぞくと、すぐ内側にいた女は、
ドギマギするマルコを奥へと案内するのだった。
暗く寂しい室内が、進むにつれきらびやかになってゆき、
突きあたりの大広間には噴水さえ見える。
ヴェールのたなびく部屋が続き、マルコはその奥に、昨日の美しい少女を見つけた。
少女の名はビドア。
旅の話を求められるまま、マルコはヴェネチアのこと、父との旅立ちのこと、
出逢った人々のことなどを語り始めた。
夢のようなひと時が過ぎ、ビドアは明日もまた来てくれるよう頼むのだった。
ある日マルコは、旅人たちがモンゴル軍総攻撃のことについて話しているのを耳にする。
いい知れぬ予感を覚えたマルコは、街の老歴史家を訪ねた。
「ビドア--- 時のカリフ、ムスターシム・ビラーのひとり娘ビドア、
当時16歳--- 戦乱の折、行方不明--- 」
ビドアとの別れは突然おとずれた。私の形見と思って下さい。---と渡される指輪。
もう一度、ビドアに会いたい。
マルコが訪れた建物は、荒れた廃墟になっており、
庭園があったはずの場所には墓碑が何百と並んでいた。
そしてその一つになびく、青いヴェール。
マルコが駆け寄ろうとした時、ヴェールは消えてしまった。
茫然と立ちつくすマルコ。
しかしその手には、しっかりとビドアの指輪が握られていた。(※)
ほんの手すさび 手慰み。
不定期イラスト連載・第百九十七弾は、
「アニメーション紀行 マルコ・ポーロの冒険」より「バグダッドの幻想」。
拙ブログで同作の話題を取り上げるのは、今回で5度目である。
同作は、昭和54年(1979年)からNHK総合テレビで、
一年間に亘り放送された一風変わったテレビアニメ。
NHKの一大ドキュメンタリー「シルクロード」と連動し、
歴史上の人物・マルコ・ポーロの人生を描くドラマ部分は、アニメ。
話の舞台になる場所の風景や風俗は、現地ロケの実写映像で紹介。
そんな実験的作風が災いしたのか視聴率は振るわなかったものの、
一部、熱心なファンもいた。
僕はその1人である。
ちょうど41年前の今時分、土曜日の午後7時半。
13歳の僕は、茶の間のテレビの前に陣取り、
イタリア・ベネチア~中国・北京への壮大な旅に胸を高鳴らせたものだ。
美少女の面影を求めバザールの雑踏を駆け抜ける少年。
モスクの尖塔と、コーランの祈りの声。
暗殺教団の谷。
世界最大の湖・カスピ海のチョウザメ漁。
ナツメヤシの木陰に佇むエキゾチックな顔立ちの女性達。
美しいペルシャ絨毯。
一本の草木もない天山山脈を吹き抜ける風。
バーミヤンの石仏群。
砂の海を往くラクダの隊列。
それらは、僕の心を遥か旅の空へと誘って(いざなって)くれた。
ところで「マルコ・ポーロの冒険」は長年“幻のアニメ”と言われていた。
当時は放送用ビデオテープが大変高価で、他番組を上書きした為、
全43話中41話が消失。--- と思われていた。
しかし、2020年・12月【保管庫から全ての映像を発掘】との嬉しいニュースが届く。
視聴者提供ビデオテープ・カセットテープなどの音声を用い、
復刻作業が進行中という。
いつの日か、観賞できる機会が来るのを心待ちにしている。
(※ 昭和55年 徳間書店刊
「ロマンアルバムDELUXE マルコ・ポーロの冒険」より
「バグダッドの幻想」抜粋/引用 原文ママ)
「マルコ・ポーロの冒険」、
興味を持ってもらえて何よりです。
個人的には大変思い入れのある作品だけに、
共感を得られて大変嬉しく思います!
放送は40年以上前ですので、
画質・音質はよろしくないかもしれませんが、
当時の空気を閉じ込めたあの作品世界を
再び観ることができる日を、待ち侘びております。
既にご存じかもしれませんが、
NHKのアーカイブ、youtubeなどで、
一端はご覧になれます。
もし、未見でご興味あれば、ぜひ。
では、また。
「手すさびにて候 シリーズ」、興味深いテーマの連発ですが、今回は、とても魅かれました。
NHKの「シルクロード」は、父が見ていたこともあり知っていましたが、「マルコ・ポーロの冒険」は、まったくです。多分、陸上バカ真っ盛りの頃だと思います。
僕も観賞できる機会が来ることを切望します。