僕は、割と年季の入った格闘技ファンである。
ボクシング、キックボクシング(ムエタイ)、空手などの打撃系。
柔道(柔術)、アマレス、サンボといった組技系。
総合格闘技、プロレス。
かれこれ40年あまり、競技の別なく、
リアルファイトも、エンターテイメントも楽しんで観戦している。
今回は、その中から特定のジャンルに絞り取り上げてみたい。
好き嫌いが分かれるだろうが、ご一読を。
ほんの手すさび、手慰み。
不定期イラスト連載 第百六十六弾「(日本の)女子プロレス」。
厳密に言うなら「女子プロレス」は、日本にしかない。
海外にも「女子レスラー」はいるし、団体もある。
しかし、女子レスラーたちだけの「興行がコンスタントに成り立ち」、
存在が認知され、一つの市場(しじょう)が確立されている国は、日本だけだろう。
その歴史は、今から80年近い昔まで遡(さかのぼ)る。
敗戦間もない混乱期。
焼け跡の盛り場では、夜な夜な、下着姿の女性同士が取っ組み合いを演じていた。
キャバレー、芝居・ストリップ小屋などで催される酔客・米兵を相手の見世物 --- 。
それが「女子プロレス」の夜明け前の姿だったという。
彼女たちと同じ一座で演芸を披露する者の中に、柔道の心得を持つ男がいた。
彼は、ボクシング経験のあるコメディアンの弟に、思いつきを話して聞かせる。
『おい、海の向こうじゃ、女のレスリングが人気らしい。
色気だけじゃない、力も技も備えた強い女たちの戦いだ。
どうだ!?妹のヤツを鍛えて、日本でも女子プロレスをやろうや!』
兄は、世志凡太・早野凡平らの師にあたる「パン猪狩」。
弟は、カラフルな蛇を操る芸で一世を風靡した「ショパン猪狩」。
妹「猪狩定子」を日本人女子レスラー第一号に仕立て進駐軍キャンプを回ったのは、
「力道山」が大相撲からプロレスに転向する数年前のことだった。
そんな船出が係わっているのか、
日本の女子プロレスは、芸能との縁が深い。
「スター誕生」で山口百恵とデビュー指名を争った「マッハ文朱」。
試合会場に少女ファンを掻き集めた「ビューティ・ペア」。
アイドル歌手から転身した“セクシーパンサー”「ミミ萩原」。
80年代、空前のブームを巻き起こした「クラッシュ・ギャルズ」。
ビジュアルレスラーとして人気を博した「キューティー鈴木」。
彼女たちは皆、歌、ドラマ、映画、出版などで場外乱闘を繰り広げた。
そして今や、場外からリングに上がるタレントが大勢いる。
グラビアやモデルで活動しながら、より活躍の場を増やし、
知名度を上げる狙いからプロレスに挑戦するケースも珍しくない。
これは個人的な意見である。
僕は、女子プロレス観戦の醍醐味は「演劇性」だと思っている。
正直、男性レスラーに比べれば身体能力は劣る。
致し方ない。
神から与えられた体格や筋量が違うのだ。
もちろん技術に優れた男勝りの例外はいるが、総じて競技のレベルは低い。
だが、彼女たちは強い。
女性格闘家とリアルファイトをしたら、歯が立たないだろうが、
相手の攻撃を受け止めるプロレスの試合なら、アスリートを完封できるだろう。
もし一般人が相対したとしたら、たとえ男でも敵わない。
僕も多少の格闘技経験があるが、絶対に負ける自信がある!
単に、強い者が勝つというだけでは、プロ興行は成り立たない。
蹴り倒しノックアウトして秒殺試合終了は許されない。
実力差はあっても、互いの良さを発揮させ、見せ場を作った上で優劣をつけ、
観客を楽しませなければならない。
容姿を整え、肉体を鍛え、ギミックを使いこなし、
対戦相手を信頼して互いを痛めつけ、一緒にドラマを創り上げる女子プロレス。
それは、表現のスキルを磨き、自分ではない何者かになり舞台で輝く演劇と似ている。
さらに、言葉に頼らず、己の身体一つで訴える舞踊にも通じる。
例えるなら、彼女たちは女優兼ダンサー。
強くて美しい肉体派エンターテイナーなのだ。
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