つばた徒然@つれづれ津幡

いつか、失われた風景の標となれば本望。
私的津幡町見聞録と旅の記録。
時々イラスト、度々ボート。

妖(あやかし)のFOX。

2023年08月18日 21時21分21秒 | 手すさびにて候。
                        
残暑お見舞い申し上げます。

さすがにピークは越えた気はするが、まだまだ高い気温が続く今日この頃。
お互い暑さに負けないよう気を付けていきたいもの。
--- ということで、今回は暑気払いとして「物の怪」を題材にしてみたい。

そもそも日本で「夏≒怪談」が定着したのは江戸時代半ばから。

旧暦の七月一日に地獄の蓋が開き、七月十五日に蓋が閉じる。
その間、霊魂が下界を彷徨う。
そんな大陸の「道教」に端を発する先祖供養の仏教行事「お盆」がある夏は、
自然と「あの世」を身近に感じる季節。
摩訶不思議な話が囁かれた。

また、当時の庶民の娯楽として絶大な人気を誇った歌舞伎も一役買う。
空調設備など影も形もない頃。
蒸し風呂のような夏の芝居小屋から客足が遠のいたのは無理もない。
主役級の役者は、休暇をとったり地方巡業に出たりした。
そこで、関係者が思いついたのが「怪談物」。
ギャラの安い若手を集め、浮かせた制作費は大掛かりな舞台装置につぎ込み、
水張り、早変わり、戸板返しなど奇抜な演出でひと味違う興行を打った。
これがウケて、怪談狂言は人気演目に。
(「牡丹燈籠」「四谷怪談」「番長皿屋敷」などが代表格)
こうした経緯を踏まえ、日本の夏は怪異が跋扈するようになったといわれる。

ほんの手すさび 手慰み。
不定期イラスト連載 第二百二十八弾「妖狐(ようこ)」



上掲拙作に描いた妖狐は二匹。

一匹目<玉藻前(たまものまえ)>

今から900年あまり時を遡った平安時代後期。
宮中に仕える美しい女官がいた。
まるで玉のように輝く後光を纏っていた彼女の名は「玉藻前」という。
優れた容姿に加え、秀でた博識を備え、お上の寵愛を一身に受ける。
深い契りを結んだ夜を境に、天皇は突然重い病に見舞われてしまう。
原因もわからぬまま、病状は日に日に悪化してゆくばかり。

実は「玉藻前」の正体は「白面金毛九尾ノ狐(はくめんきんもうきゅうびのきつね)」。
古代中国の王朝を滅ぼし、天竺(インド)をはじめアジア諸国を破滅させた大妖怪。
日本に狙いを定め、遣唐使船に便乗して上陸していたのだ。

陰陽師によって本性を見抜かれた「玉藻前」は、
絶世の美女から、怖ろしい九つの尾を持つ狐に変身。
逃走し行方を眩ますが、那須野(現・栃木県)で発見され、東国武士に討伐された。
だが、怨霊は消えず「殺生石(せっしょうせき)」に凝固。
その石が鎮座する荒れ地一帯は、硫化水素、亜硫酸ガスなど、
有毒な火山ガスが絶えず噴出している。

<石の香や 夏草赤く 露あつし - 松尾芭蕉>

石が放つ硫黄の香りと熱により、夏草は赤く枯れ、露が煮え立つ。
俳聖がそう詠んだ殺生石は、今も近づく生き物の命を奪い災いを振り撒いている。

ニ匹目<きつねダンス>

「きつねダンス」とは、プロ野球球団「北海道日本ハムファイターズ」のチアチーム、
「ファイターズガール」によるパフォーマンス。
同球団のマスコット、キタキツネに由来する。
“みみカチューシャ”と“しっぽ”を身に付け、楽曲「The Fox」に合わせて踊る。
今も流行っているのかどうか判然としないが、2022年にブレイクしたのは間違いない。
(もちろん実物の尻尾は9つもない)



少々大げさかもしれないが僕が考えるに、人が異形に扮したコレも妖怪文化の一端。
日本の妖怪は「怖いだけではない」のだ。

中世まで、人間を遥かに凌駕する大自然は畏怖すべき存在。
山や川、海、暮らしの境界に出没する妖怪は、自然の恐ろしさを警告していた。
しかし、時代が移り、社会も変わり、人心に変化が生じる。
増加する都市生活者たちにとって、糧は自力で栽培採取するのではなく金銭で手に入れるもの。
自然への敬意・憂慮は薄れ、妖怪を包む神秘のベールも剝がれていった。
--- しかし。

『どうもバケモンってのは、滅多矢鱈にいるもんじゃねえらしいな』
『幽霊の正体見たり枯れ尾花ってか』
『だがよ、それじゃどうにも下らねえ』
『確かに、いねえモンがいるから浮世は面白えんだ!』
『そうだ!知り合いの絵師にひとつ描いてもらおうぜ、
 実はきのう奥多摩帰りのヤツから怖えハナシを聞いたんだよ。
 奴さんが言うことにゃ ---ゴニョゴニョゴニョ---- 』
『くわばら、くわばら』

こんな会話が交わされたかどうかは分からないが、
怪異を怖がる一方で、虚構を楽しみ、身近に捉える感性も育まれた。
それは今も受け継がれている。

ちなみに僕の霊感は鈍感の極み。
お化けも人魂も見た記憶はない。
故人が枕元に立ったこともない。
金縛りも、虫の知らせも、未経験。
かと言って「霊」を全否定しない。
実感はないが、朧気に感じている。
                          
コメント (2)
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