(ダウ・ジョーンズ)英経済は「ゾンビ化」している。
英中銀イングランド銀行は、好況期に絶望的なほど愚かな過ちを犯した人々がその報いを受けるはめにならない
よう最善を尽くしてきた。そのため、英経済は無気力によろめきながら何年もの低成長の道を進んでいく公算が
大きい。
ある意味では、世界金融危機までの数年間の英国の放漫財政は世界最大だった。調査会社マッキンゼーによると
、公的、家計、企業、金融部門で構成される英経済の債務総額は、ピーク時には対国内総生産(GDP)比率がどの
主要国よりも高い水準にあったという。
金融危機以降、英経済はデレバレッジ(債務削減)に失敗しただけでなく、巨額の財政赤字の積み増しによって
対GDP比の債務比率も上昇し続けている。
マッキンゼーの推定によると、英国の対GDP債務比率は現在500%を超えており、主要国の中では日本と同水準に
ある。これとは対照的に、90年代の同比率は200%強だった。
2000年から08年にかけて、英国の対GDP債務比率は177%拡大した。この伸び率は世界でも飛び抜けて大きく、米
国の2.5倍に相当する。08年以降、英国の債務比率はさらに20%拡大した一方、米国のそれは16%縮小した。
では、英中銀はいかにしてゾンビ経済を作り上げたのだろうか。
米国では、不動産価格が急落し、今や過去最低に近い水準で推移している。このような住宅価格の下落を背景に
、家計は極めて大幅な債務縮小を余儀なくされた。家計は保有資産の目減りによって損失を被っており、金融機
関も評価損を計上している。つまり、無計画だった借り手と無責任な貸し手はいずれも損失の計上を余儀なくさ
れているのだ。
マッキンゼーが発表した「債務とデレバレッジ:成長への厳しい道のり」では、90年代にデレバレッジが進んだ
スウェーデンとフィンランドの先例から判断すると、米国の家計はこの過程の約3分の1を通過したと推定してい
る。これとは対照的に、英経済はデレバレッジをほとんど開始していないのだという。
英国の銀行は、差し押さえの急増を回避するため、レバレッジ比率が高すぎる家計に対して支払い猶予を行って
きた。だが、逆にこうしたことがこれまで可能だったのは、英中銀が大幅なマイナス実質金利を維持する政策を
実施したためだ。
借り手と貸し手は、節度のある預金者や年金生活者を犠牲にする形で救済されようとしている。だが英財政赤字
を削減するための取り組みはスローペースだ。マッキンゼーは、英国の家計がバブル崩壊以前の水準までデレバ
レッジを進めるには10年を要すると試算している。財政赤字と家計赤字はいずれも削減しなければならない。景
気減速を回避するためには、非金融企業が投資を拡大する必要があるだろう。
これは実現するだろうか。
そのためには、英ポンド安がさらに進まなければならない。つまり、英中銀はインフレが2%の目標水準を大き
く上回る水準を推移することに対して楽観的な姿勢を維持する必要があるということだ。他方、国内銀行は過度
に割高な住宅不動産への融資に消極的になるだろう。このような物件は、経済の生命線である中小企業を設立す
る際の主な担保となるものだ。
人為的につり上げられた住宅価格への不信はすでに、不動産取引高が痛ましいほど低いことからも明らかであり
、これこそが問題なのだ。この住宅取引の低迷は、労働移動性の低さと税収の減少を意味するだけでなく、移動
を考えていない人々の間にさえ一種の停滞感をもたらしている。
イングランド銀行は、英経済に短期的な痛みをもたらすことを拒否することによって、その長期的な慢性疾患、
つまりゾンビ化を放置しているように見える。
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