(ウォール・ストリート・ジャーナル)米アップル(Nasdaq:AAPL)は中国事業がもたらす可能性と危険をひしひしと感じている。
13日に起きた2つの出来事はこのことを明確に示している。その一つは、米国などの活動家から圧力を受けていたアップルが、同社のサプライチェーン全体の労働環境について、27ページに及ぶ報告書を公表したことだ。サプライチェーンは中国を中心にアジア全体に広がっている。
もう一つの出来事とは、「iPhone(アイフォーン)4S」の販売開始日に北京の直営店に顧客が殺到して、予想外の騒ぎが起きたことだ。
地元の警察は安全への懸念を理由に、アップルに対して同店舗の閉鎖を命じた。同社はその後、中国本土にある5つの店舗でのアイフォーン・シリーズの販売を一時中止すると発表した。
中国当局は混乱には厳しく、アップルの幹部は店舗での混乱が及ぼす影響を抑えるために奔走した。しかし、混乱の様子を映した映像は世界中に広まった。
アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)はインタビューで、北京での混乱は「残念」だったが、「われわれは将来のための教訓を学び、変更を行う」と語った。また、同社にとって、安全は「最重要」事項だと述べた。
アップルにとって、中国市場の重要性は増す一方だ。同社が昨秋、明らかにしたところによると、中国の成長率は最も高く、年間売上高が130億ドルに上る。
中国におけるアップルのアイフォーン、「iPad(アイパッド)」、「Mac(マック)」の需要は昨年、最高潮に
達し、北京と上海の直営店を訪れる顧客数は合わせて1日4万人にも上った。
しかし、中国との関係が深化することで、新たな問題が生まれた。2009年、アップルはインターネットにアクセスするための無線LAN「WiFi(ワイファイ)」機能のないアイフォーンを中国国内で発売した。政府の規制に従うための選択だった。
アップルはまた、西側とアジアの活動家から、アジアの供給業者の労働環境について問題点の指摘を受けた。
クック氏はインタビューで、労働環境の改善は長い間、同社の最優先事項だったとしたほか、さらにアップルが業界の「水準を引き上げている」と語った。
アップルは同社と取引のある229の工場について監査を実施、報告書にまとめた。同社が作成した労働環境に関する報告書としては、最も包括的なものとなっている。
アップルによると、同社の指示によって、供給業者は健康状態や妊娠による差別的な選考を廃止した。また、有害化学物質の貯蔵・移動・取り扱いを適切に行っていなかった工場は112あった。
さらに、工場の環境を監視・改善するために新たな措置を講じていることを明らかにした。労働者向けの教育プログラムを拡大したり、マレーシアとシンガポールでは監査の回数を増やすという。
報告書によると、供給業者の3分の1近くが、アップルの定めた賃金と手当の基準を順守していなかった。若年労働者を不法に雇用していた工場は5つあった。
かつて最高執行責任者(COO)としてサプライチェーンを監督してきたクック氏は、「これまで多くの時間を工場で過ごしてきたが、わが社はこの分野では明らかにトップを走っている」と述べた。クック氏はさらに、「製品に新しい考えを取り入れるのと同じだ。障害に集中してもいいし、壁を乗り越えたり、問題を見直したりしてもいい」と述べた。
中国政府からのコメントは13日の時点では得られなかった。
今回、調査対象となったのは156社。これはアップルが原材料、製造、組み立てにかけている費用の97%を占めている。
この中には、ソニーやインテルなど世界的なテクノロジー企業や、知名度の低い天津力神電池といった企業も含まれている。
アップルの主要生産委託先の1つである鴻海精密工業(2317.TW)傘下の富士康(フォックスコン)についても言及した。フォックスコンでは、2010年に広東省深センの工場で従業員の自殺が相次いだ。また、昨年、四川省成都の工場で爆発が起きて、従業員4人が死亡、18人が負傷した。
アップルによると、成都の爆発事故と、上海の別の供給業者の工場で起きた爆発事故(59人が負傷)のあと、可燃性粉塵を取り扱う業者向けに新たな条件を定めた。
アップルは公正労働協会にも加盟し、供給業者が外部の監視を受けることに同意した。
一方、アップルは北京の店舗での混乱の影響に頭を悩ませている。
アップルが注目の新製品を発売すると、多くの顧客が殺到し、収拾がつかない事態に発展することもある。クック氏はインタビューで、同社は「あらゆる必要な予防策を講じてきた」と述べた。さらに、「不意を突かれたと思う」と語った。
中国の国営メディアは北京の直営店での混乱はダフ屋が原因だったとしている。中国当局は13日午前、顧客が店舗に近づけないようにして、集まった報道陣のカメラを遮った。販売は行われないので立ち去るようにと拡声器で告知する男たちの姿も見られた。
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