東日本大震災からの復興事業が動き出した。政府は2011年度補正予算と12年度予算で総額18兆円の復興費を投じる。史上最大級の財政出動はデフレに悩む日本経済の下支え役となる。東北の復興は日本の復活につながるか。
午前7時。宮城県石巻市にある牛丼店、吉野家は作業着姿の男性客で混み合っていた。駐車場にはトラックやワゴン車がずらりと並ぶ。
同僚4人と朝食をとっていた矢倉新也(38)は神戸市から来た。津波が直撃した魚市場の解体を請け負う。阪神大震災の復興にも携わったが「今回の被害は比べものにならない」。工事関係者が全国から集まり、同県内の吉野家の売上高は前年比2割増えた。
岩手県釜石市。午前8時の幹線道路はコンクリートを積んだタンクローリーで渋滞していた。港湾や住宅地の復旧が急ピッチで進む。清水建設など大手ゼネコン(総合建設会社)は東北の人員を1~2割増やす計画だ。
復興予算18兆円は岩手、宮城、福島の被災3県の予算の7年分の規模だ。麻生太郎内閣がリーマン・ショック後に組んだ「過去最大の経済対策」の予算規模15兆円も上回る。巨大な需要をめがけ、ヒト、モノ、カネが被災地に流れ込む。国土交通省は震災関連の建設投資は57万人の雇用を生み出すと試算する。
建設業では人手不足が起きている。宮城県の土木作業員の賃金は月額1万~3万円ほど増えた。被災3県の昨年11月の有効求人倍率は0・73倍と全国平均(0・69倍)を上回る。
運輸業で働く40歳代の男性は今年の正月、仙台市の百貨店「藤崎」で1万円のゴルフウエアを買った。生活必需品以外の買い物は震災後初めてだ。荷動きがようやく戻り、買い物に出かける心の余裕が生まれた。
東北の大型小売店売上高は11月に前年同月比4・3%増え、12月の新車登録台数は1・4倍になった。巨額の復興投資が被災地の家計を潤し、個人消費に回り始めた。
被災地の復興は日本経済の再生にもつながる。伊藤忠経済研究所によると、11年度の補正予算は累計で国内総生産(GDP)を12兆円押し上げる。日本が直面する需給ギャップ15兆円の大半が埋まる計算だ。
もちろん公共工事に頼るだけでは早晩息切れする。復興予算の執行は12年度がピークだ。阪神大震災の時は予算の8割が5年間で消化された。民間投資を呼び込んで産業を興さない限り成長は持続しない。
民間なお低調
民間の設備投資は伸び悩んでいる。日銀仙台支店がまとめた昨年12月の東北地区の設備投資計画は8・1%増と、9月時点より6・7ポイント下振れした。サバ味噌煮製造の山徳平塚水産(石巻市)は津波で流された工場を再開できないでいる。工場があった水産加工団地の復旧が遅れたためだ。社長の平塚隆一郎(52)は「再開は早くて今年の秋だ」と話す。
仙台市と周辺ベッドタウンを結ぶ鉄道、JR東日本の仙石線は一部区間が不通のままだ。12年度予算でも復旧予算は計上されていない。沿線のサラリーマンは不便な生活を余儀なくされ、企業の求人に影を落とす。
一方で被災地を隅々まで結ぶ高規格国道「復興道路」には、今後10年間で1兆4000億円の事業費投入が決まった。新規着工区間には過疎地も多い。ゼネコンからも「工事の順番が違うのでは」と疑念の声が上がる。
東大教授の伊藤元重(60)は「新しい産業を生み出すインフラ整備を戦略的に進める必要がある」と指摘する。巨額投資の効果を膨らませ、日本経済の再生を通じて復興を速める知恵が求められている。
(敬称略)
【図・写真】被災地に向かうトラックなどで渋滞する三陸道(18日、宮城県松島町)