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論文)新たに見出された細胞外オーキシン受容体

2024-04-07 10:27:13 | 読んだ論文備忘録

ABLs and TMKs are co-receptors for extracellular auxin
Yu et al.  Cell (2023) 186:5457-5471.

doi:10.1016/j.cell.2023.10.017

Auxin-binding protein 1(ABP1)は、膜貫通型キナーゼ(TMK)の細胞外ドメインとオーキシン依存的に物理的に相互作用し、細胞外オーキシン受容体として働くことが知られている。しかしながら、シングルコピーのABP1 遺伝子をノックアウトしたシロイヌナズナに明らかな形態異常が見られないことから、その役割については論争が続いていた。一方で、機能的に冗長な4つのTMK 遺伝子をすべてノックアウトすると、シロイヌナズナの胚や芽生えの致死を含む様々な表現型が誘導される。中国 福建農林大学のYangらは、TMKとともに細胞外オーキシンを感知するABP1以外の細胞外ABPが存在すのではないかと考えた。そこで、TMKと相互作用する他のABPの存在を確認するために、まず、オーキシン結合とオーキシンによるTMK1との相互作用を低下させるH94Y変異を持つABP1-5abp1 変異体で発現させ、その影響を調べた。その結果、ABP1-5;abp1 は、ABP1;abp1 や野生型植物とは異なり、tmk1;tmk2;tmk3;tmk4 四重変異体と類似した様々な生長・発達異常表現型を示し、オーキシン応答性が損なわれていることが判った。このことから、ABP1-5タンパク質の蓄積は、TMKが調節するオーキシン応答に影響を与え、おそらくABP1の欠損を機能的に補う他のABPに対してドミナントネガティブな効果をもたらすことが示唆された。アミノ酸配列のホモロジー検索からはABP1 遺伝子ホモログは見出されなかったので、免疫沈降解析によりTMK1と相互作用するタンパク質の探索を行なったところ、ABP1が属するGLPファミリーのメンバーが見出され、これをABP1-like protein 1(ABL1)と名付けた。ABL1AT1G72610)とその近縁ホモログABL2AT5G20630)は、それぞれ208残基と211残基のポリペプチドをコードしており、互いに高いアミノ酸配列類似性(64.42%の同一性)があった。ABL1とABL2は、ABP1との類似性は低い(それぞれ26.26 %と18.44 %)が、オーキシン結合に関与すると予測されるアミノ酸残基を持つ保存された金属イオン結合モチーフを有していた。また、ABL1とABL2のAlphaFoldによるタンパク質立体構造シミュレーションでは、ABP1に非常に類似した立体構造が予測された。さらに、ABL1およびABL2タンパク質の構造に基づくブラインド・ドッキングにより、ABP1と同様にオーキシン結合モチーフが保存されていることが予測され、ABL1およびABL2が新たなABPとして機能する可能性が示唆された。免疫電顕観察により、ABL1はアポプラストに局在することが確認され、共免疫沈降(coIP)アッセイや蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)解析により、TMK1の細胞外ドメインとABL1/ABL2は植物細胞において複合体を形成し、この相互作用はオーキシン濃度に依存して高まることが判った。ABL1/2の機能喪失による表現型の変化を観察したところ、abl1 変異体、abl2 変異体では、生長・発達において明確な異常は見られなかったが、abl1/2 二重変異体では、芽生えが矮化し、葉の湾曲、敷石細胞の形状の変化など、明らかな形態異常がみられ、ABL1とABL2の機能重複が示唆された。abp1;abl1 二重変異体は明らかな表現型の変化を示さなかったが、abp1;abl2 二重変異体の芽生えはわずかな生長低下を示した。abp1;abl1/2 三重変異体は、abl1/2abp1;abl1abp1;abl2 の各二重変異体のいずれよりも重篤な生長・発達障害を示し、ABP1がABL1/2を介する過程に寄与していることが示唆された。三重変異体の生長障害は、pABL1::ABL1 を導入することでほぼ完全に相補されたが、pABP1::ABP1 またはpABL1::ABP1 の導入では部分的に相補された。さらに、葉の湾曲などのいくつかの表現型は、pABP1::ABP1 でもpABL1::ABP1 でも相補されなかったが、pABL1::ABL1 では完全に相補された。これらの結果から、冗長的に作用するABL1とABL2は、ABP1と機能重複してはいるが、ABP1とは独立した生理機能も持っていることが示唆される。abp1;abl1/2 三重変異体は、ABP1-5;abp1tmk1;tmk2;tmk3;tmk4 四重変異体に類似したオーキシン応答性の欠損を示し、ABL1/2は植物の生長・発達とオーキシンシグナル伝達においてABP1と機能重複していると考えられる。abp1 変異体、abl1 変異体、abp1;abl1 二重変異体と、軽度の生長障害を示すtmk1-/+;tmk4 ヘテロ接合二重変異体をそれぞれ交配して変異を集積した変異体の表現型を解析し、ABP1、ABL1が、植物の発達とオーキシン応答の制御においてTMK1、TMK4と遺伝的に相互作用することが確認された。よって、ABLs/ABP1とTMKは、オーキシン応答の制御において同じ経路で作用していると考えられる。オーキシン結合アッセイから、ABL1タンパク質はIAAやNAAと結合し、オーキシン結合モチーフが変異したABL1-M2は結合しないことが確認された。ABP1-5やABL1-M2をabp1;abl1/2 三重変異体で発現させても生長障害が相補されないことから、ABP1、ABL1がオーキシンと結合することは生理機能にとって必要であることが示唆される。TMK1タンパク質細胞外ドメイン(TMK1-ex)もオーキシンと直接結合し、TMK1-exとABP1またはABL1の混合物は、ABP1/APL1またはTMK1-ex単体と比較してオーキシン親和性が高く、TMK1とABP1/APL1は相乗的なオーキシン結合を示した。このことから、ABL1/ABP1とTMKは、アポプラストのオーキシンコレセプターとして作用していると考えられる。以上の結果から、今回新たに見出されたABL1とABL2は、ABP1と重複するが異なる機能を持ち、TMKとともに細胞外オーキシンのコレセプターとして機能していると考えられる。

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