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論文)オーキシンによる胚軸伸長制御におけるアブシジン酸の関与

2024-04-02 14:54:01 | 読んだ論文備忘録

Abscisic acid biosynthesis is necessary for full auxin effects on hypocotyl elongation
Emenecker et al.  Development (2023) 150:dev202106.

doi:10.1242/dev.202106

オーキシンは、状況に応じて細胞増殖を促進したり抑制したりする。細胞拡大を促進するオーキシン濃度には最適な範囲が存在し、オーキシン濃度が最適を超えると細胞拡大が抑制される。米国 デューク大学Straderらは、シロイヌナズナ変異体集団の中から、暗黒下で育成した芽生えのインドール-3-酪酸(IBA)処理による胚軸伸長阻害に対して抵抗性を示す変異体を単離した。このうちのhypocotyl resistant 12(HR12)は、IBA以外のインドール-3-酢酸(IAA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、2,4-ジクロロフェノキシ酪酸(2,4-DB)による胚軸伸長阻害に対しても抵抗性を示した。このことから、HR12の欠損は胚軸のオーキシン応答性に影響を与えていることが示唆される。HR12の原因変異を同定するために、変異体の戻し交雑F3世代のバルクDNAの全ゲノムシークエンスを行ない、アブシジン酸(ABA)生合成経路の最終過程を触媒するABSCISIC ALDEHYDE OXIDASE 3(AAO3)をコードするAt2g27150 に未成熟終止コドンをもたらす変異を見出した。この変異(aao3-12 と命名)がHR12に見られるオーキシン抵抗性の原因であるかどうかをさらに調査し、aao3 変異の他の複数の対立遺伝子が黄化芽生えの胚軸伸長におけるオーキシン感受性を低下させ、これらの対立遺伝子は互いに相補的でないこと、野生型AAO3 を導入することでaao3-12 変異表現型が相補されること見出した。よって、HR12(aao3-12)におけるオーキシン応答の欠損は、AAO3の機能低下に起因すると考えられる。AAO3はABA生合成経路の酵素なので、ABA生合成の阻害がaao3-12 変異体に見られるオーキシン抵抗性を引き起こすのであれば、ABA生合成経路の他の過程に欠損を持つ変異体も胚軸伸長のオーキシン抵抗性を示すはずだと考え、ABA DEFICIENT 2ABA2)とABA DEFICIENT 3ABA3)のT-DNA挿入変異体について解析を行なった。その結果、ABA2ABA3 のどちらの変異体もオーキシン抵抗性を示した。また、ABAシグナル伝達の変異体abi1-1 も部分的にオーキシン抵抗性示した。したがって、ABAの生合成と応答は、黄化芽生えの胚軸におけるオーキシンの効果に対する完全な感受性に必要であると考えられる。ABA生合成変異体は野生型植物よりも弱い程度にオーキシンに対して応答していることから、オーキシンによる胚軸伸長制御機構には、ABA依存的なものとABA非依存的なものが存在することが示唆される。黄化芽生えをオーキシン処理すると2時間後には内生ABA量の増加が確認された。また、aba2 変異体黄化芽生えのオーキシンによる胚軸伸長阻害は、ABA処理をすることで野生型植物と同等にまでに回復した。これらの結果から、ABAが黄化芽生え胚軸のオーキシン応答を調節していることが示唆される。野生型植物の芽生えを合成オーキシンpicloramで処理すると、明所で育成した芽生えでは胚軸伸長が促進され、暗黒下で育成した芽生えでは阻害される。picloram処理による明所育成芽生えの胚軸伸長促進は、aao3-12 変異体では野性型植物と同等に見られたが、ABA生合成が強く抑制されたaao3-4 変異体、aba2-3 変異体、aba3-1 変異体、gin1-3 変異体(ABA2 の変異体)では伸長促進の程度が弱くなっていた。また、aba2-3 変異体では育成温度の上昇による胚軸伸長促進が見られなかった。したがって、オーキシンによる胚軸伸長制御のABA依存性は芽生えを育成する光条件とは関係がないこと、ABA生合成変異体の胚軸伸長はオーキシンや温度上昇に対しての応答性が低いことが示唆される。芽生えの根はオーキシンによって伸長が阻害されるが、ABA生合成変異体の根のオーキシン感受性は野生型植物と同等であった。したがって、ABA生合成の変化は、胚軸伸長のオーキシン応答性のみ弱めている。RNA-seq解析の結果、黄化芽生えをオーキシン処理することによって発現量が変化する遺伝子(DEG)は、根とシュートの間で殆ど重複しておらず、オーキシンがこれら2つの組織において異なる効果を持つというモデルと一致していた。対照的に、ABA処理によって誘導されたDEGの多くは根とシュートで重複していた。ABA生合成の第一段階を制御している9-CISEPOXYCAROTENOID DIOXYGENASE(NCED)ファミリー遺伝子の転写産物の蓄積を調べたところ、NCED5 転写産物のみがオーキシン処理したシュートにおいて発現上昇しており、オーキシン処理によってシュートの内生ABA量が増加するという結果と一致していた。オーキシンとABAの転写に対する作用は、シュートでも根でもほとんど重複しておらず、多くの転写産物において相反する効果を示していた。オーキシン処理とABA処理で共通して発現量が低下している遺伝子に胚軸伸長に関連しているものは見られなかったが、発現上昇する遺伝子には胚軸伸長制御に関連するものが含まれており、例えば、胚軸伸長を抑制すると考えられているOVATE FAMILY PROTEIN 1AT5G01840OFP1)、SHI-RELATED SEQUENCE 5AT1G75520SRS5)、IAA METHYLTRANSFERASE 1AT5G55250、IAMT1)、胚軸伸長を促進すると考えられているSHORT HYPOCOTYL 1AT1G52830IAA6)、CYCLING DOF FACTOR 5AT1G69570CDF5)があった。これらの共通の標的は、ABAとオーキシンの処理による黄化芽生え胚軸伸長に対する共通のメディエーターである可能性がある。ABA生合成の欠損がオーキシンによって制御を受ける遺伝子の発現にどのように影響しているか解析するために、野生型植物とaba2-3 変異体の黄化芽生えシュートのRNA-seq解析を行なったところ、両者の間ではオーキシンの制御を受ける遺伝子の発現に顕著な違いがあり、オーキシン処理に応答して蓄積量が減少した野生型植物黄化芽生え胚軸の転写産物のうち、71 %はaba2 変異体でオーキシン応答性を示さなかった。逆に、野生型植物でオーキシン処理に応答して蓄積量が増加した転写産物のうち、aba2 変異体で応答性を示さなかった転写産物はわずか22 %であり、ABA生合成は胚軸においてオーキシンが発現を抑制している遺伝子に対して大きく影響していることが示唆される。したがって、オーキシンによる転写産物の蓄積量の制御は、野生型植物とaba2-3 変異体とでは異なっており、このことが野生型植物とaba2-3 変異体での生理作用の違いに反映されている可能性がある。aba2 変異体で特異的に発現量が変化するオーキシン誘導遺伝子には、細胞壁修飾、成長調節、細胞増殖、ホルモンへの応答、生合成過程の調節に関連するものが含まれていた。しかし、オーキシンによって蓄積量が増加する転写産物のほとんどは、aba2 変異体では変化していないので、オーキシンによる胚軸伸長の制御のある側面がABAの影響を受けており、ABAに完全に依存してはいないと考えられる。以上の結果から、オーキシンは、胚軸伸長制御のいくつかの側面においてアブシジン酸生合成に依存していると考えられる。

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