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論文)オーキシン結合タンパク質1(ABP1)によるオーキシンシグナルの制御

2013-11-15 22:46:12 | 読んだ論文備忘録

Auxin-Binding Protein 1 is a negative regulator of the  SCFTIR1/AFB pathway
Tromas et al.  Nature Communications (2013) 4:2496
DOI:10.1038/ncomms3496

オーキシンは2種類の異なる受容体、transport inhibitor response 1(TIR1)/auxin-related F-box proteins(AFB)およびオーキシン結合タンパク質 1(ABP1)によって受容される。TIR1/AFBはSCF型ユビキチンリガーゼのサブユニットであり、転写抑制因子auxin/indole-3-acetic acid(AUX/IAA)のユビキチンに依存する分解を促進してオーキシンシグナル伝達を調節している。ABP1は様々な成長過程を制御しており、オーキシン応答遺伝子の発現にも関与しているが、その作用機作やTIR1/ABF-AUX/IAAによるオーキシンシグナル伝達との関係は明らかとなっていない。フランス国立科学研究センター(CNRS)植物科学研究所(ISV)Perrot-Rechenmann らは、ABP1に対するモノクローナル抗体を発現することによってABP1がノックダウンされたシロイヌナズナ(SS12K9)にTIR1 /ABF の機能喪失変異を導入して両者の関係を解析した。SS12K9系統の芽生えは根の成長が抑制される表現型を示す。この系統にTIR1 /ABF の単独変異(tir1 )を導入してもSS12K9の表現型が維持されるが、tir1 afb3afb2 afb3 といった二重変異を導入するとSS12K9の表現型が弱まり、tir1 afb2 二重変異やtir1 abf2 abf3 三重変異を導入するとABP1のノックダウンによる表現型が打ち消され、tir1 afb2 二重変異体やtir1 abf2 abf3 三重変異体において見られる伸長した主根が波打つ表現型が現れた。したがって、TIR1 /AFBABP1 よりも上位にであると考えられる。ABP1のノックダウンはTIR1ABF1 の転写産物量やTIR1タンパク質量に変化を起こさないことから、TIR1 /AFB の発現はABP1に依存していないと考えられる。AUX/IAAタンパク質のAXR3(IAA17)にGUSを付加した融合タンパク質を用いた実験から、SS13K9系統はAXR3-GUSの分解が促進され、この分解はプロテアソーム阻害剤MG132の添加によって抑制されることがわかった。よって、ABP1はAUX/IAAの分解に対して負の制御因子として機能していると考えられる。tir1 abf2 abf3 三重変異体でABP1をノックダウンした場合はAXR3-GUSが蓄積することから、SS12K9の根の表現型がtir /abf 変異によって回復する現象はAUX/IAAの安定性と関連していることが示唆される。よって、ABP1はAUX/IAAの安定性を高めることでオーキシン応答を抑制し、ABP1を介した経路は、AUX/IAAの安定性に対してTIR1/ABF-AUX/IAA経路と拮抗的に作用して植物の成長を制御していると考えられる。ABP1がSCF型ユビキチンリガーゼに影響することでAUX/IAAの安定化をもたらしているかを、SCFの骨格タンパク質であるCULLIN1(CUL1)へのRELATED TO UBIQUITIN(RUB)の付加を指標として調査したが、ABP1のノックダウンはCUL1へのRUB付加に変化をもたらさなかった。また、TIR1/ABF-AUX/IAA経路と同様に、ユビキチン-プロテアソーム系によってシグナル伝達を行なっているジャスモン酸受容体COI1によるJAZタンパク質の分解に対してABP1は影響を及ぼさなかった。よって、ABP1のノックダウンはAUX/IAAの分解にのみ影響していると思われる。しかしながら、ジベレリンによるDELLAタンパク質(RGA)分解誘導はABP1のノックダウンによって遅延した。このことは、ジベレリンによって誘導されるRGAの分解がオーキシンの減少によって遅延するという過去知見と関連があるように思われる。ABP1をノックダウンした植物の根は、細胞が伸長し、根毛や側根が減少しており、オーキシン含量が低下したような表現型を示すが、内生遊離IAA含量に変化は見られなかった。また、ABP1ノックダウン植物の根にオーキシン処理をしても細胞伸長や根毛伸長が起こらず、オーキシン耐性を示した。ABP1のノックダウンはエンドサイトーシスの阻害を引き起こすが、オーキシン排出タンパク質PINの細胞内での極性局在やオーキシン輸送に変化は見られなかった。したがって、ABP1のノックダウンによるAUX/IAAの分解促進はオーキシン含量が増加したことによって引き起こされたのではないと考えられる。イカルガマイシンやチルホスチンA23といったエンドサイトーシスの阻害剤を処理するとAXR3-GUSの分解が抑制され、これはPINタンパク質のリサイクルが阻害されたために細胞内のオーキシン含量が低下したことによると考えられる。よって、ABP1のノックダウンによるAUX/IAAの分解促進はエンドサイトーシスの阻害によって起こったのではなく、根の形態変化はエンドサイトーシスやPINタンパク質のリサイクリングとは関連していない。以上の結果から、ABP1は何らかの形でTIR1/AFBとAUX/IAAとの相互作用に関係してAUX/IAAを安定化させ、オーキシンシグナル伝達を制御していると考えられる。

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