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論文)MADS-box転写因子によるイネ分けつ形成の制御

2013-07-02 20:24:01 | 読んだ論文備忘録

The interaction between OsMADS57 and OsTB1 modulates rice tillering via DWARF14
Guo et al.  NATURE COMMUNICATIONS (2013) 4:1566
DOI:10.1038/ncomms2542

MADS-boxファミリー転写因子は、植物の様々な形態形成の制御に関与している。中国科学院植物研究所Chong らは、イネのMADS-boxファミリー転写因子OsMADS57に着目し、機能解析を行なった。OsMADS57 遺伝子にT-DNAが挿入されたosmads57-1 変異体は、翻訳産物のC末端24アミノ酸残基が挿入されたT-DNAのコードする7アミノ酸残基に置換したタンパク質を過剰発現している。この変異体は、発芽初期の主根の成長が抑制され、第4葉期以降に分けつ数が増加する表現型を示す。OsMADS57 をアンチセンス抑制した形質転換イネは分けつ数が減少し、OsMADS57 を過剰発現させた形質転換イネは分けつ数が増加した。よって、osmads57-1 変異体は機能獲得変異体であると考えられる。OsMADS57 は、miR444aのターゲットの1つと考えられており、miR444a を過剰発現させた形質転換イネは、OsMADS57 をアンチセンス抑制した形質転換イネと同様に、分けつ数が減少した。したがって、OsMADS57 の発現はOsMIR444a によって抑制され、分けつ形成が制御されていると考えられる。イネの公的マイクロアレイデータベースを調査したところ、OsMADS57 の発現は分けつや茎伸長の時期に高く、葉組織において発現量が高いことがわかった。定量PCRを行なったところ、OsMADS57 転写産物は葉鞘や葉に多く、稈では転写産物が検出されなかった。miR444aの発現は根以外のすべての器官において見られた。RNA in situ ハイブリダイゼーションを行なったところ、OsMADS57 は主に茎頂分裂組織と腋芽において発現しており、このことから、OsMADS57 は腋芽の成長に関与していることが示唆される。OsMADS57タンパク質は核に局在し、酵母one-hybridアッセイから、OsMADS57は転写阻害活性を有することがわかった。マイクロアレイ解析から、osmads57-1 変異体では野生型よりも175遺伝子の発現量が高く、19遺伝子の発現量が低いことがわかった。これらの発現量変化の見られる遺伝子は、転写因子、ホルモン、細胞分裂、代謝、膜関連のものであり、GA2ox4GA2ox6GA2ox9 といった分けつ形成を促進する遺伝子は発現量が増加していた。発現量変化の見られる遺伝子のうち、86の発現量が増加する遺伝子と11の減少する遺伝子にはMADS-boxファミリー転写因子の結合するシスエレメントのCArGボックスが含まれていた。プロモーター領域にCArGボックスが見られる遺伝子の中に、分けつの発達制御に関与しているDWARF14D14 )が含まれていた。そこで、D14 の転写産物量を定量PCRで確認したところ、osmads57-1 変異体で大きく減少し、OsMADS57 過剰発現個体でも減少が見られ、アンチセンス個体やmiR444a 過剰発現個体では増加していた。よって、D14 の発現はOsMADS57によって負に制御されていることが示唆される。D14 遺伝子のプロモーター領域には2つのCArGボックスが存在し、OsMADS57は両者ともターゲットとしていた。D14 は稈での発現量が高く、根、葉、穂、腋芽での発現量は低くなっていた。また、野生型植物では、茎頂分裂組織や腋芽で発現が見られ、OsMADS57 の発現部位と重複しており、osmads57-1 変異体では発現量が低下していた。したがって、OsMADS57はD14 を発現抑制する直接のターゲットとしていると考えられる。D14 はストリゴラクトン(SL)のシグナル伝達に関与しており、d14 機能喪失変異体はわい化して分けつ数が増加する。植物体を合成ストリゴラクトンGR24で処理すると、野生型植物、osmads57-1 変異体ともにSL生合成遺伝子D27 の転写産物量が減少し、osmads57-1 変異体では減少量が野生型よりも大きくなっていた。D14 の発現は野生型植物、osmads57-1 変異体ともにGR24処理によって誘導され、野生型植物では腋芽の成長が抑制されたが、osmads57-1 変異体は、d14 変異体と同様に腋芽の成長抑制は見られなかった。miR444a 過剰発現個体ではGR24処理に関係なく腋芽の成長が見られなかった。したがって、OsMADS57 は分けつ形成においてD14 を介したSLシグナル伝達に関与していると考えられる。TCPファミリー転写因子のOsTB1は分けつ数の制御に関与しており、tb1 変異体は、osmads57-1 変異体やd14 変異体と同様に、分けつ数が増加する。酵母two-hybridアッセイにおいて、OsTB1とOsMADS57が相互作用をすることが確認されたことから、両者はヘテロ二量体を形成することが示唆され、共免疫沈降試験から、OsTB1とOsMADS57は生体内において結合することがわかった。D14 プロモーター制御下でレポーター遺伝子のLUC を発現するコンストラクト(D14:LUC )を導入したプロトプラストを用いた試験から、OsMADS57はD14:LUC の発現を抑制するが、同時にOsTB1 を発現させると抑制が弱まることがわかった。したがって、OsMADS57はOsTB1と直接相互作用をしてOsMADS57によるD14 転写阻害を弱めていると考えられる。以上の結果から、OsMADS57はストリゴラクトンの受容・シグナル伝達に関与するD14 の発現を直接抑制して分けつの発達を誘導しているが、OsMADS57タンパク質はOsTB1との相互作用による負の活性調節を、OsMADS57 遺伝子はmiR444aによる負の発現制御を受けており、miRNA/MADS/TCP/D14の複数の因子が相互に関与してイネの分けつ形成を制御していると考えられる。

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