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論文)クラス-I TCPファミリー転写因子による核内倍加の制御

2012-02-20 23:07:03 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis Transcription Factor AtTCP15 Regulates Endoreduplication by Modulating Expression of Key Cell-cycle Genes
Li et al.  Mol. Plant (2012) 5:270-280.
doi: 10.1093/mp/ssr086

TCP(TEOSINTE BRANCHED1, CYCLOIDEA, PCF)ファミリー転写因子は、植物の成長過程において細胞分裂や細胞分化を制御する因子として機能するものが報告されている。これらはクラス-Iとクラス-IIに分類されており、クラス-Iは細胞分裂に対して促進的に、クラス-IIは抑制的に作用し、シロイヌナズナには13のクラス-I TCP サブファミリー遺伝子がある。中国 復旦大学Dong らは、クラス-I TCP転写因子のAtTCP15について解析を行なった。定量PCRによりシロイヌナズナ各器官でのAtTCP15 遺伝子の発現を見たところ、調査した全ての器官において発現が見られ、特に花芽、花序、茎の転写産物量が多かった。また、AtTCP15 遺伝子プロモーター制御下でレポーターとしてGUS を発現するコンストラクトを導入した形質転換体を用いた解析から、AtTCP15 は発生過程にある側根、葉の維管束組織やトライコーム、細胞分裂の盛んな出現過程にある葉で発現し、葉が成熟するにつれてGUS活性は減少していった。よって、AtTCP15 は活発に分裂する細胞、維管束、トライコームで強く発現していることが示唆される。植物の成長過程におけるAtTCP15 の機能を解析するために、AtTCP15に転写抑制ドメイン(SRDX)を付加した融合タンパク質をAtTCP15 プロモーター制御下で発現するコンストラクト(AtTCP15:AtTCP15SRDX )を導入した形質転換シロイヌナズナを作出し、表現型を観察した。形質転換体芽生えのロゼット葉はやや上向きに湾曲し、成熟したロゼット葉は野生型に比べてやや小さく丸みを帯びていた。花序を形成するまでの成長過程は野生型に比べると幾分遅れが見られたが、最終的な草丈は正常だった。種子発達に関しては著しい欠陥があり、長角果は野生型の半分程度の長さで、種子の約半分は発育しなかった。形質転換体ロゼット葉のトライコームは通常よりも分枝数が多く、野生型では通常は三枝で四枝のものが少数見られるが、形質転換体では大部分が四枝で、五枝、六枝のものあった。トライコーム細胞は核内倍加を起こし、分枝数と核の大きさ・DNA含量に相関がある。形質転換体のトライコームの核をDAPI染色して観察したところ、分子数の多いものほど核が大きくなっていた。よって、AtTCP15 の下流遺伝子の発現低下はトライコーム細胞の核内倍加をもたらすと考えられる。形質転換体の子葉および胚軸の細胞核をフローサイトメーターで解析したところ、倍数性の増加が見られ、16Cや32Cの細胞が野生型よりも多く、子葉の表皮細胞(pavement cell)や葉肉細胞が野生型よりも大きくなっていた。よって、AtTCP15SRDX は様々な組織で核内倍加をもたらしていることが示唆される。AtTCP1535S プロモーターで恒常的に発現させた過剰発現形質転換体を作出したが、発芽後の成長が悪く不稔となった。そこで、デキサメタゾン(DEX)によりAtTCP15 が誘導される系を導入した形質転換体を用いて解析を行なった。この形質転換体種子をDEX存在下で発芽させると、子葉の展開が起こらず、胚軸や根の伸長が悪く、14日後には死んでしまった。DEX存在下発芽5日後の芽生えの子葉や胚軸の細胞は8C、16C、32Cの細胞が減少しており、2C、4Cの細胞の割合が多くなっていた。若い植物体の葉でDEX誘導によりAtTCP15 を過剰発現させると、トライコームの分枝数、核のDNA含量が減少し、表皮細胞がDEX未処理のものよりも小さくなった。よって、AtTCP15 の過剰発現は核内倍加を低下させていることが示唆される。AtTCP15 が細胞周期に関与する遺伝子の発現影響しているかを調査したところ、AtTCP15SRDX 発現個体では核内倍加の負の制御因子をコードするCYCA2;3RETINOBLASTOMA-RELATEDRBR )の転写産物量が減少し、核内倍加の正の制御因子とされるE2FBCDT1APCNA1WEE1FIZZY-RELATED 2FZR2 )の転写産物量が増加していた。また、DEX誘導系の形質転換体をDEX処理することによりRBR 発現量が増加し、E2FB 発現量が減少した。このことから、AtTCP15 は核内倍加に関与している細胞周期関連遺伝子の発現を制御していると考えられる。さらに、クロマチン免疫沈降試験からAtTCP15タンパク質はCYC2;3 遺伝子やRBR 遺伝子のプロモーター領域に結合することが確認された。よって、AtTCP15は細胞周期遺伝子の発現を制御することによって核内倍加に対して重要な役割を演じていると考えられる。

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