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論文)オーキシン受容体ABP1の機能

2022-10-18 10:37:52 | 読んだ論文備忘録

ABP1–TMK auxin perception for global phosphorylation and auxin canalization
Friml et al.  Nature (2022) 609:575-581.

doi:10.1038/s41586-022-05187-x

News and views
A plant auxin-binding protein resurfaces after a deep dive
Murphy & Peer  Nature (2022) 609:475-476.

doi:10.1038/d41586-022-02339-x

オーキシンは、植物の成長・発達を制御する重要なホルモンである。オーキシンシグナル伝達機構は、核において最もよく知られており、正規のTIR1/AUXIN-SIGNALING F-BOX (AFB) 受容体、Aux/IAA抑制因子、オーキシン応答因子 (ARF) が、発生過程の遺伝子発現を調節している。一方、イオン流出の調節、タンパク質の急速なリン酸化、オーキシン輸送のフィードバック制御などの速いオーキシン作用の機構については依然として不明である。オーストリア科学技術研究所(ISTA)Friml らは、1970年代からオーキシンと結合することが確認されているオーキシン結合タンパク質1(ABP1)について解析を行ない、シロイヌナズナABP1はpH 5.5ではIAAと結合するがpH 7.5では結合しないこと、安息香酸やL-Trpとは結合しないことを見出した。トウモロコシでの研究から、ABP1は主に小胞体に局在することが示されているが、シロイヌナズナの根や茎頂分裂組織の電子顕微鏡観察から、ABP1は小胞体以外にアポプラストにも局在し、その量はIAA添加によって増加すること、アポプラストのABP1はクラスターを形成することが判った。したがって、シロイヌナズナABP1は主に小胞体に局在するが酸性pH環境のアポプラストに分泌されると考えらえる。ABP1は細胞表層に局在する膜貫通キナーゼ(TMK)受容体様キナーゼと相互作用をすることから、オーキシンが誘導するタンパク質のリン酸化とABP1、TMK1との関係を調査した。その結果、野生型植物の根ではIAA処理により1000以上のリン酸化部位(P-site)のリン酸化が促進されるが、tmk1 変異体やabp1 変異体ではリン酸化促進反応はほぼ完全に消失していることが判った。また、tmk1 変異体とabp1 変異体でリン酸化が低下するP-siteの多くが重複しており、ABP1とTMK1は共同してオーキシンによる急速なタンパク質のリン酸化を促進していると考えられる。abp1 変異体ではTMK1、TMK3、TMK4のP-siteリン酸化が検出されないことから、ABP1はオーキシンが誘導するTMKのリン酸化と活性化にも関与していると考えられる。細胞膜H+-ATPaseは、細胞膜を境にH+勾配を作り、アポプラストを酸性化することでオーキシンの古典的な迅速応答をもたらしている。abp1 変異体の根では細胞膜H+-ATPaseのリン酸か低下し、ATPase活性も低下していた。ABP1-TMK1オーキシンリン酸化反応の他のターゲットとして細胞骨格モータータンパク質のミオシンXIとミオシン結合タンパク質のMadBがあり、ミオシンXIの機能として細胞質流動が知られているが、apb1 変異体、tmk1 変異体、tmk4 変異体の根の伸長領域細胞では細胞質流動が観察されなかった。これらの結果から、ABP1はオーキシンが引起こすTMK1シグナルの活性化に必要であり、両者は細胞膜H+-ATPaseの活性化や細胞質流動の加速など、迅速な細胞オーキシン応答に必要であると考えられる。ミオシンXIは、オーキシン輸送のフィードバック制御やオーキシン輸送チャンネルの形成にも関与しており、植物発生の自己組織化を支えるオーキシンの運河形成過程の一端を担っていることが知られている。このオーキシン運河形成過程の古典的な例として、傷害後の維管束再生が知られている。維管束再生過程でABP1 の発現量が増加することが確認され、abp1 変異体の茎では維管束再生が見られなかった。維管束再生過程ではTMK の発現量も増加しており、tmk 機能喪失変異体では再生が見られなかった。よって、ABP1とTMKは傷害部での維管束再生に必要であると考えられる。オーキシンを局所的に添加すると、オーキシンを輸送する経路が形成されて維管束分化が起こるが、abp1 変異体やtmk 機能喪失変異体ではそのような過程は見られなかった。ABP1のオーキシン結合部位に変異を導入したABP1(M2X)タンパク質は、安定性や二量体形成に関してはABP1と同等であるが、abp1 変異体で発現させても表現型の回復は見られなかった。したがって、ABP1のオーキシン結合能力はその機能にとって重要であると考えられる。以上の結果から、ABP1はTMK1に由来する細胞表層シグナルのオーキシン受容体であり、タンパク質のリン酸化反応とオーキシン輸送の運河形成を調節していると考えられる。

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