うわっ!いかにも、マジメで、気が・・・そう。予想したより、写真が大きく載ってしまって、当人が、ビックリしてるだろうなあ~。スパーリングを終えて、バンテージを取る、ひとときに、初のインタビュー。
坊主頭の彼が、ただいま36歳のプロボクサー、斎藤泰広(やすひろ)。この5月14日で、37歳の誕生日を迎える。
プロボクシングに、ちょいと詳しい読者なら、お分かりだろうが、規約で、元・前・現役のチャンピオンの経歴を持たない限り、37歳になったら、試合が出来ない。リングに、上がれない。
つまり、斎藤にとっては、この3月25日(月)が、泣いても、笑っても、怒っても、悲しんでも、悔やんでも、ラスト・ファイト。
さぞかし、燃え盛る意気込みを胸に・・・・と、思ったら、アレレ~?
たんたんと言うか、ひょうひょうと言うか、ありゃりゃあ・・・・・
且つ、182センチ、73キロの巨体なのに、蚊の鳴くような、もんのすごい小声。
それでなくとも、この最終戦の相手が、剛腕で鳴る長島謙吾(角海老宝石ジム)。同じ5月生まれだが、まだ26歳。一回り下だ。
ーー勝てます?
「なんとか、なるんじゃないかなあ~。(試合)やってみなきゃ、わからないけど・・・。スピード上げていけば、当たると思うんで」
「課題? スタミナですね」
そうクチにして、自分で苦笑した。
実は、前の昨年12月12日の試合も、途中まで互角、いやそれ以上の戦いぶりを見せていた。
なのに、後半に入るにしたがって、スタミナ切れか、足もパンチもガクッ! と落ちてゆき、8ラウンド、集中打を浴びて、レフェリーストップ負け。
「もう1回、やりたいですね」と、少しだけ、言葉で意地をみせた。なんか、ホッ・・・・
「あの試合、勝ってたよ!」と、本人そこのけに、熱く熱く、力説してくれたのが、担当トレーナー
ジムの会長は、「あの試合? 誰が、そんなコト、言ってるんですか?」と、首を傾げていたものの、熱い指導ぶりは、おおいに買っている。
渾身の想いを込めての、”熱烈&熱血指導”。ときには、キチンと練習スケジュールを守らないと、叱りつけ、怒鳴りまくる。
その反面、ジムの多くの選手に慕われており、彼らのブログにしばしば、写真と、笑いを誘う人で登場する陽気な人。真剣に、選手の能力を伸ばそうとしている姿勢が、指導を受けて居なくても、見ていて分かるのだろう。
斎藤のインタビューは、受付と、選手用にと並べられてる筋肉増強マシンと、マットが置かれたフロアの一角で行われた。
近くで選手たちが、キツイ練習を終えて、ホッと一息つきながらの談笑。
斎藤選手、言葉を発してくれているんだけど、よく聞こえない。聞き取りにくい。
彼のそ~ゆ~ことを知っていたのか、「どこか、部屋とりますか?」と、事前に会長夫人。
「いや、いいです」と、私。まさか、こんな小声とも知らずに・・・。始まってからは「あなたたち、静かにして!」と、会長夫人が言ってくれるものの、談笑は全くうるさくない。斎藤が、小声なだけ。
もう、結婚してるとのこと。交際期間6年間。妻になった方。聞き耳立てたろうなあ。そばに寄って、聞き取ろうと、もっともっと寄り添ってるうちに・・・・と、なったのかも知れない。
テープレコーダー、回してはいたが、こちらも聞き耳立てて、必死にメモ。
生まれは、栃木県鹿沼市。古びた町並みが、どこか郷愁を誘う良い町だ。伝統のお祭りを、見に行ったこともある。なるほど、あの町でね、と妙に納得。
高校時代は、野球部で、ピッチャーをやってたという。それも、監督の見立てと即断で、アンダースローに変更させられて。部は、県大会でも、そこそこの成績だったが、先輩の身のまわりの世話をさせられるなど、上下関係の異常な厳しさがいやになって、やめる。
だから、大学では、野球を続けなかった。
地元に会社員として務めたが、2年で退職し、アルバイト生活。やがて上京し、別のボクシングジムに入門。
聞いた。なんで、ボクシングを始めようと思ったんですか?
「う~ん・・・・・なんとなく」
苦笑いを、浮かべる。
で、このワタナベジムに移籍したキッカケは? だって、自宅から通って来るには、かなり遠いじゃないですか?
また、苦笑しながら「う~ん、なんとなく・・・・・」 「6戦目で負けて、それで環境も変えようというか、まあなんとなく・・・・・・」
おいおいおい。でも、本人、マジメに答えてる。
プロデビュー戦は、遅咲きの、28歳の時。「最終4ラウンド、TKOで勝ったんです 」
おお、いい滑り出しっ!
「でも、そこからは、勝ったり、負けたりで」
調べてみると、前のジムのトレーナーの教え方に、斎藤にとって、ズレと違和感が、それとなく、あったようだ。
で、今までの通算戦績、6勝7敗1引き分け。KOないし、TKO勝ちは、一つだけ。つまり、デビュー戦の時だけ。それっきり、無し。
「やったからには、上にいきたいんで」
そうそうそう! そうこなくっちゃ!
このジムに移籍してきたとき、30歳。それから、もう6年の日々が流れた。しばらく休んでた時期もあるが、昨年は4月に勝って、8月に負けて、で12月にも負けて・・・・
これで、辞めるわけには、いかないぞ!! と、強い負けじ魂こそ、表には出ないものの、秘めた意志が!・・・・う~ん、滲み出てこないっ!
「もう1試合、やらせたいっ!」と、強く思ったのは、”熱血”トレーナー。それも、ウエルター級のランキングに入っている、強いやつと、戦わせたい! と、。
でも、斎藤選手・・・・・。そ~ゆ~、性格なんだろうな。話した言葉が、まんま、活字に、なりにくいタイプ。こちらが、推し測るしかない。
「ここ(のジム)、居心地がいいんで」
言って、ニコッと笑顔を見せた。
先ほど終わった、スパーリング。今度の3月25日(月)の試合は、68キロ契約。5キロ近く落とさなきゃいけないが。それは、そんなに苦じゃなさそうだ。
4ラウンドの、スパーリング。
迎える相手は、この3月27日(水)に晴れてデビュー戦を控える、木田尚遥(なおはる)19歳、ジム入門は、丸1年前の3月。
満を持して、佐藤匠との試合に臨む。
ちなみに、相手の佐藤匠(たくみ)。秋田県出身の28歳。ライト級で、すでに丸1年前、1試合を経験し、何もしないまま、0-3の判定負けで1敗。
セコンドの熱い指示も聞かず、手を出すことも無く、お見合い状態のまま、リングを降りている。今度こそ、なんとしてでも勝ちたい! と、必死で立ち向かって来るはず。
所属は、ワンツー・スポーツクラブジム。どこかで聞いたジムだなあ、と思ったら、五輪メダリストの、故・櫻井孝雄さんが名誉会長のジムだった。
昨年、行われた「お別れ会」にも参列し、会長の息子さんにも、来ていた他のベテラン記者1人と共に、話しを伺った身。
でも、今回、そんな感情を排して見ても、木田の力量は、ハンパじゃない。佐藤がたじろいでる間に、先制パンチを見舞い続け、悪くても判定勝ちに持ち込めるのでは、ないだろうか・・・・。ラッシュかけての、TKO勝ちの可能性もある。
んん~ん、さてさて、斎藤の、迎え撃つクセは、変わっていない。先制されて、打たれてから、打ち出す。
性格が、色濃く反映しているのかも。そのことを、知ってか、知らずか、木田は一発喰ってやろうとばかりに、1ラウンドのゴングが鳴ったとたん、ガンガン前へ出まくる。勢い余って、スリップダウンしてしまうほどだ。
しかし、斎藤。 大振りだが、左右のフックは良いし、上下の打ち分けも、良い。グイッと、体ごと押して、コーナーにぐいぐい詰めていって、畳み掛けてのまとめ打ちのスタイルも、良い。
ジャッジや、レフェリーに、アピール度は高い。しかし、その前に、相手の長島謙吾の強打が炸裂したら!?
いまもって、スロースターターなのが、気がかり。前半から、ガンガン、後先かまわず飛ばしていったら?
スタミナ配分の思慮ゆえか? 来るぞ~!委細かまわず、 長島謙吾というボクサ-は。
それにしても、初めて見る木田尚遙というボクサーは、良い。
「あまり、今から誉めないでよ。 いい気になると、良くないので」と、トレーナーに、たしなめられた。
さあ、長島謙吾の「今」も知りたく、角海老宝石ジムへと足を運んだ。いる時刻も、あらかじめ調べておいた。練習の空き時間を待って、コメントも、もらった。
「長嶋建吾」の方は、日本と東洋・太平洋(OPBF)スーパー・フェザー級とライト級のチャンピオンだったボクサーで、37歳の今は、現役を引退している。
ーーボクシングファンには、当初、間違われませんでしたか?
「ええ」と、苦笑い。
ーー今度の相手は、知ってます?
「ええ。結構、トシ喰ってるみたいですね。ノーランカーだと言うし」
--ラスト・ファイトに、なるんですよ。今、36歳なんで
「ああ、そうなんですか。 だったら、なおのこと、プロボクシングの怖さを、身にしみて、体に覚えさせて、リングを降りて戴きますよ!」
そういって、ニヤリ。不敵に、とクサく、付け加えてもいいくらい、ニヤリ。
身長は、175センチ。斎藤より、12センチも低い。しかし、数字以上に大きくみえる。体も、すでに絞り上げていた。
バンテージを巻いて放つシャドーパンチは、早く、且つ、鋭い。この日、スパーリングは予定なし。パンチをぶち当てるサンドバッグも、グラリグラリと、揺れる。
元々は、関西のジムにいた。生まれは、兵庫県の西宮市。高校は、報徳学園。スポーツの、名門だ。
地元のジムで、15戦をこなしてきた。実は、2歳上の兄は、格闘技界では、知らない者がいない、チョ~有名人。
自演乙☆雄一郎が、そのヒト。
いかつい顔で、女装コスプレ姿。そのまんま、花道から女の子たちと、BGMに乗って、下半身をくねらせて、踊って、りングに登場し、一転、試合が始まるや、鮮やかにKOで勝つ!
一躍、マスコミの脚光を浴び、キックから、k-1へ。しかし、その衰退とともに、今は総合格闘技に闘いの場を移している・・・・らしい。
かつて、k-1の取材に行った時、コスプレの出方と人気について、兄の長島雄一郎に、家族や弟の反応を、聞いたことがある。
とたんに、それまでのイケイケの発言と打って変わって、困り果てた表情に。
「良くないんですよ、実家じゃ(笑い)。それだけは、出来れば、止めてくれって。だから、最近は、そのことに触れない(笑い)。語らない。弟? こんな兄をもって、どうなんでしょうねえ(苦笑)・・・・・・」
片や、弟の長島謙吾。
かつて、兄がマスコミの寵児だったころ、ある日、謙吾も鮮やかなKO勝ち。
控室で、兄さんは、観に来てたの? という質問が飛んだとたん、それまでの笑顔は、一瞬にして消えた。
「さあ? 見には来てるんじゃないですか? わからないけど」
空気を察し、その関連の質問は続かなかった。むろん、私も聞かなかった。で、この日も。兄は兄。弟は、弟だ。
先に書いたように、11勝のうち、10勝がKO&TKO勝ち。はまると、剛腕がうなりをあげ、相手はリングに崩れ落ちていた。
しかし、昨年12月3日の最新試合では、5ラウンドTKO勝ちこそしたものの、自らのブログに、「やっと勝ちました」と、正直に書いている。
実は、それまで4連戦、続けて負けてきた。
自らの剛腕に頼るばかりに、左右のフックが、ブワン、ブワン!と、大振りになりがち。空振りも目立ち、見切られても、どんどん、大股のベタ足で、グイグイと相手をコーナーに追い詰めてゆく。
クセか、必ず左のリード ストレートや左のロングジャブを先に先に繰り出し、自分の攻撃のパターンと、リズムを作ってゆく。
そして、上からブン!と、振り落とすパンチを、見舞う。
顔の両サイドを、両グローブでガードしてるのだが、攻撃に入ると、途端にがら空きになり、ジャブを顔面に打たれ放題になりやすい。
結果、パンチ力は、長島より劣っていても、緻密に、的確に、シャープにパンチを要所要所に当てられて、ポイントを少しづつ奪われていってるパターンが、客席からも見て取れる。
文字通り、パンチの「軌道修正」は、素人目にも、必要かも知れない。
結果、通算戦績、11勝(10KO&TKO)9敗の、2引き分け。
あえて、ラストファイトに、KO率90%の長島謙吾を充てたのを知って、最初は驚き、トレーナーに聞いた。
--勝算は、あるんですか? ラストに、長島謙吾というランカーを持ってくるなんて!
「大丈夫! ”秘策”は、あるから。あっ、コレ、相手側には、内緒だよ」
言い終えて、ニヤリ。
この前書いた、ランカー山元浩嗣 対 ノーランカー 一場仁志の例もある。
先日、後楽園ホールの客席で、本望信人(ほんもう のぶひと)さんを見かけた。元日本と東洋・太平洋のスーパーフェザー級チャンピオンだった人。
6年前、WBAの世界チャンピオン エドゥイン・バレロに、挑戦。互角以上の戦いぶりを見せ、ひょつとしたら!? と思わせた時、古傷の右目上をカット。傷は深く大きく、やむなくドクターストップがかかり、残念ながら、形はTKO負けに。
その夜、11年間のプロボクサー生活に、別れを告げた。人柄、良い人と評判だった。引退後、しばらくして、長島のいる古巣の角海老宝石ジムで、トレーナーをやっている姿を、見かけていた。
なんと、2年前から、埼玉県さいたま市大宮区で、「本望整骨院」を開業してるとのこと。
自分がトレーナーとして、教えたのであろうか、中野晃志の試合を見つめ、試合後、惜しくも負けたものの、挨拶に来た彼に、やさしく言葉をかけてから、去って行った。
その前に、知っているであろう、長島謙吾と、このノーランカーとのことを尋ねてみた。
黙って聞いていたあと、一息ついて、元チャンピオンは、こう言った。
「試合は、やってみなければ、分かりませんよ」
そのあたりの怖さは、当の長島謙吾も、当然の如く、知っていた。
最新ブログで、彼はこう書いている。
<足元すくわれない様にしないと、いけませんが、快勝します>
そして、こう続けた。
<倒して、勝ちます>
タイトルマッチでもない試合だが、この2人、どう戦うか!?
「秘策」 爆発するか、ラストマッチ!
悔いのない試合を、是非、是非、して欲しい!!
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