これは凄い。(最近毎回なんか凄いのを読んでいるけど)40男の憂鬱をこんなにもリアルに捉えている。しかも作者は女性である。
昔、風俗で知り合った女性を好きになり、今も忘れられない。結婚して生まれたばかりの子どももいる。保険会社の営業所、中間管理職。今の楽しみは電車の中で会う女子高生。彼女を見るだけで幸せだと思う。近づくといい匂いがして、さらに幸せだ。変なことをしたいわけじゃない。ただ近くで見ているだけでいい。
ある日彼女の盗撮をしている男を目撃する。彼との間に不思議な交流が生まれる。
保険会社での気が滅入る日々、家庭での妻のヒステリー、唯一の憩いである通勤電車の少女。だが、まさかのラストが待ち受ける。
さすがにあのラストは残念だが、少し安直。彼を追い詰めるものは日常の積み重ねの中にある。カタストロフは彼自身の行為から始まるべきだ。
本作は標題作の中編だけでなく、小説2作が納められている。もう一作『尾を喰う蛇』もまた強烈だ。こちらは介護士の話だが、ひたすら過酷な現場の現状をこれでもか、これでもか、と綴り、圧倒される。救いがない。さすがにこちらは途中から、読んでいるだけなのに疲れ果ててしまうが。