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映画・演劇のレビュー

川上弘美『伊勢物語』

2023-11-25 11:20:00 | その他
河出文庫の古典新書セレクションの一冊。『伊勢物語』は感慨深い。何度となく数えきれないくらい授業で扱っていたから、だけでなく、まだ20歳くらいの時に古典の勉強がしたいと彼女が言ったから妻とふたりで同じ文庫本を同時に購入して一緒に読んだ思い出の本だから。同じ本を買って会ったとき(デートね)に持ち寄り一緒に読みながら話をする。そんなことを何度か繰り返すこと。今考えると凄くロマンチック。(でもすぐに飽きて途切れたけど)

ここに描かれる男女の恋は儚くて美しい。僕はコッテリした『源氏物語』より断然あっさりした伊勢派である。これを川上弘美が翻訳して(現代語訳だが)くれる。
伊勢物語は恋物語である。出てくる男女はみんな恋をしている。老いも若きも誰もが誰かに夢中。歌を通して想いを伝える。それだけ。

だから潔い。業平はあらゆる男になり、さまざまに女と契る。あらゆるケースを体験する。源氏の比ではない。ハイライトは伊勢の斎宮との恋。だからそれがタイトルになった。

高校での授業では『芥川』と『東下り』が定番になっているし、やはりあれがハイライトだろう。一体何度やったことか。だけど、僕の十八番は『筒井筒』。あれを3時間かけてやるのがパターン。ほとんどしゃべる内容もセリフみたいに覚えている。だから芝居を再演するように授業をした。

ふたりの恋と高安の女の切ない想いに涙する。こんなに泣ける恋物語はない。あれをきっかけに古典が好きになった生徒は多いのではないか。歌物語は歌にすべてが込められている。そこに寄り添って感情移入したら作品世界は広がる。わからない古典が身近なものになる。なんてね。

今回改めて川上弘美訳で全編を通して読んでみて,伊勢のさりげない魅力を満喫した。彼女の見事な和歌の解釈が作品世界をしっかり伝える。口語訳はいらない、という僕の持論は覆る。川上訳なら必要だと。それくらいに素晴らしい。大胆にも31文字より短くなっている解釈もある。簡潔に本質に迫る。実に楽しかった。

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