アフタヌーンティーに興味があるわけではないけど、表紙のデザインに惹かれて読み始めた。もちろん古内一絵だから、きっと面白いのだろうことはわかっていたけど、読み始めて期待以上の出来で、手にしたのは正解だったと確信する。
お菓子とお茶だけなのに女のひとたちが(女性だけではないけど)高いお金を出してアフタヌーンティーをを楽しむのは、そこに生まれる心の余裕や贅沢を大切にしたいからだろう。何を大切にするかはひとそれぞれだけど、必要なものにはお金を惜しまないことは大事だ。丁寧に、大切に、作られたものは人の心を動かす。
この小説の主人公たちはホテルのアフタヌーンティーを提供するスタッフで、彼らのそれぞれの想いが丁寧に描かれていく、涼音は憧れのアフタヌーンティーチームに移動してきた。そこでシェフ・パティシェの達也と出会う。反発しながらだんだん心惹かれあうというラブストーリーの定番を踏襲するのだが、この小説のねらいは、食をあしらったそういうよくある「恋愛もの」ではない。あくまでも主体はアフタヌーンティーのほうにある。恋愛のほうが添え物で、もっというとこれは全く恋愛ものではない。
この場所に、この仕事に、どれだけ愛情を抱いているか。それがお話の中心を担う。だからこんなにも一見手垢のついた素材のようにも感じられる展開なのに、読んでいてとても新鮮な感じがするのだ。ほんのちょっとした立ち位置の違いと、姿勢だけで印象がこんなにも変わる。涼音の好きなことのために頑張る姿はありきたりではない。誰もが同じように生きているけど、誰一人同じではないように、一見よくあるお話をちゃんとした目的意識をもって丁寧に作るとこういうふうに清新な小説になる。
お菓子なんかなくても生きていける。だけど、お菓子があるから生きていけると思う人もいる。いや、ただ思うのではなく、実際お菓子に救われている。そんな人たちに最高のアフタヌーンティーを届ける。美しくて、幸せな時間を過ごしてもらうこと。そのために彼女は頑張る。当然いろんなことはあるけど、だから毎日が楽しい。そんな彼女たちの日々が描かれていく。読んでいてとても気持ちがよかった。